元気になった友
それから月日が経って、今日は1月8日。友が出勤する日だ。
友は中番なんだけど、すごく心配。
だって、私や京平だけでなく、蓮や朱音にも友からのライムが帰って来ないみたい。
体調、まだ良くないのかなあ。眠れてないのかな。
私が、傷付けちゃったせいだ。ごめんね、友。
「友、あいつ来れるのかな。相当眠れてなかったし」
「まさか蓮にもライム返ってきてないなんて」
「俺は大丈夫だと思うけどな。何もないから返さないだけであって」
「でも友くん打たれ弱そうだしなあ」
私達が友の話をしていると、看護師長が呆れ顔で覗いてきた。
「貴方達、日比野くんからは欠勤の連絡もないし、心配しすぎないの。本当に無理なら、欠勤連絡くらいするだろうし」
「でも、休み取る前、顔色も悪かったですし……」
「またあんな顔して出勤してきたら追い返すわよ、もっと休めってね。だから安心して」
確かに看護師長がちゃんと見てくださるなら安心出来るかな。
確かに今から今日来れる? って聞いても、まだ寝てるだろうしね。
「さ、仕事仕事。時任さんと佐藤さんは巡回、深川と落合くんも回診行って来な!」
「看護師長は?」
「黙れ深川。麻生と緊急外来ぶん回すのよ!」
今日揃いも揃って、早番ばっかなんだよなあ。
のばらに関しては休みだしね。
とは言っても、夜は信次の勉強見るみたいだけど。
後、買い物に行ってくれるから助かるなあ。
と、友の事は心配だけど、巡回行かなきゃ。
今日は糖尿病の患者様中心な担当だから、より頑張らなきゃ!
「おはよう御座います。本日担当する時任です」
「おお、亜美ちゃんか。こりゃ楽しくなりそうだね」
「運動療法も頑張って下さいよ、映出さん」
「えー、運動嫌いだもー」
「ヘモグロビンA1c下げないと、白米無くなりますよ!」
映出さんは長い事I型糖尿病で入院してる黒髪で前髪が長くて、黒縁メガネで細身のお兄さんなんだけど、かなり病気が悪化してて、一時は失明の危機もあった。
京平と私達看護師の説得もあり、食事療法と喫煙禁止は守って下さるようになったんだけど、いかんせん運動してくれないのだ。
今はその時じゃない、とか訳解んない事言うしね。
どう考えても、今がその時なんですけど!
「亜美ちゃんがそこまで言うなら、と言うのは嘘だけど時期も来たし歩こっかな」
「ほ、本当ですか! じゃあ、朝ご飯食べたらウォーキングコース歩いて下さいね」
お、映出さん的その時が来たみたい。大分下がっては来たんだけど、退院とするにはまだ随分高いんだよね。血糖値もヘモグロビンA1cも。
今までが今までだから、ちゃんと下がるまでは退院させない方針だしね。
「さ、血糖値測りますね」
「チクッとするのは嫌だ」
「ちょっとの我慢ですよ!」
どう考えても、この後の注射の方が痛いんだけどなあ。変わった人だね。
◇
ふー、ようやく巡回が終わった。映出さんには困ったもんだけど、やる気になってくれて良かった。
さ、お昼休み! 今日は唐揚げにしたんだよね。楽しみ。
「亜美、お疲れ」
「京平、お疲れ様!」
「聞いたぞ、あの映出さんが運動療法始めたって?」
「そうなの、なんか時期が来たとかなんとか」
映出さんは京平の担当でもあるから、ずっと気にしてたもんね。
私も心配で朝ご飯の後見に行ったんだけど、ちゃんと歩いてくれてたしね。
「俺達が管理して、やっとヘモグロビン1桁だもんな。まだ全然高いから、良かったよ」
「本当にねー」
そんな事を話しながら、休憩室に入ると。
「あ、亜美に深川先生」
「よ、亜美と深川先生! こっちこっち」
「友! に、蓮!」
友、私達に挨拶しに来てくれたのかな。元気そうで良かった。
「よ、日比野くん。顔色も良くなったな」
「聞けよ亜美、こいつ休み取ってから3日間眠り続けてたらしいぜ?」
「マジで?!」
「はい、3日眠り続けて、起きて3日分飲み食いしたら、また眠くなって2日間寝て……ご心配おかけしました」
友、相当眠れてなかったんだね。とっても不健康な改善法ではあるけども!
「あ、亜美に蓮おっつ! って、友くんじゃん。顔色めちゃ良いじゃん」
「ああ、朱音さん。はい、おかげさまで」
「後、皆に挨拶終わったら緊急外来来てって、看護師長が言ってたよ」
「今ちょうど終わったので行きますね。今日からまた頑張ります」
友は笑顔で休憩室を後にした。本当に良かった。
「流石の俺も、3日間寝続けた事はないなあ」
「え、友くんそんなに寝てたの?! そらライムも返って来ない訳だ」
「あいつ、1週間くらいまともに眠れてなかったからな。やっと眠れたようで良かったよ」
「蓮、ずっと心配してたもんね」
「し、心配なんてしてねーよ」
確かに京平はめちゃくちゃ寝るけど、3日間起きないなんて事はないもんね。
そんなに寝てたら、私泣いちゃうかも。心配過ぎて。
そして蓮は、朝から友の事心配してたのに、照れ屋さんだなあ。
「さ、飯食おうぜ」
「おっと、忘れてた!」
「「「「いただきます」」」」
唐揚げ、唐揚げ、やっと食べられる!
「うーん、自分で作ってなんだけど、ジューシーな唐揚げとコールスローが良いハーモニーを醸し出しててめちゃ美味しい!!」
私がお弁当に舌鼓を打っていると、蓮が話題を切り出した。
「そいや今日休みだけど、のばら、信次くんと付き合ったらしいな」
「そうなの。で、色々あって今一緒に暮らしてるよ」
のばらん家の問題も解決すると良いんだけどなあ。
「マジか。信次くん理性保つの大変だろうな」
「だな、俺は亜美に惚れてから保てなかったしな」
「ああ、亜美から聞いてます。寝てる亜美のおでこにキスしてたんですよね?」
「そうなの。京平ってお茶目だよね」
「お茶目じゃなくて、理性崩壊してんだよ、それ」
ぶー。蓮ってば変な事言うなあ。
好きな人がこっそりキスしてた、なんて、可愛い以外の何物でも無いのに!
「もー、蓮が変な事いう」
「や、蓮のがここは正しいかな。深川先生も男ね」
「8年くらいは耐えたんだぞ、これでも」
「私から手を繋いでる時点で、私の気持ちには気付いて欲しかったよ!」
そう、小さい頃からずっとアピールしてたのに、全然気付いてくれなかったんだもん。
京平、自分の事には自信がない故に鈍いもんなあ。そんな京平だからこそ守りたくなるんだけどさ。
「まさか、好きになってくれるだなんて、思わなかったんだよ。俺なんかを」
「ずっとずっと愛してるよ」
「ちょ、あちいな。俺タバコ吸ってくるわ」
「私も外の空気吸ってこよ。ごゆっくり」
ああ、皆行っちゃった。気を遣ってくれるのは嬉しいんだけどさああああ。
「と、タイミングが悪いけど、ちょい昼寝するな。亜美、ポンポンして」
「午前中もお疲れ様。ゆっくり休んでね」
いつも頑張ってるもんね。私は京平の頭をポンポンする。京平が笑ってくれた。
「亜美のポンポン落ち着くわ。おやすみ、亜美」
「うん、おやすみ、京平」
私は膝掛けを京平に掛けて、そっと笑う。
愛してる人の寝顔って、どうしてこんなに愛しいのだろう。
京平といるとね、いつも温かい気持ちになるんだよ。
私に出来る事は少ないけど、少しでも京平を守れますように。
ずっと、笑ってて欲しいな。私が京平を、笑顔に出来たらいいな。
おやすみ、京平。
友「しっかり寝て食べると、身体も動きますね」
看護師長「今日は良く動くじゃん。偉いぞ」
風太郎「ありがたいことじゃ!」
友「皆さん、お餅はよく噛んでくださいね!」