眠たい内科医(京平目線)
「おやすみ、京平」
「おやすみ、亜美」
「すー、すー」
亜美、すぐ寝ちゃったな。やっぱり体調あんまり良く無かったんだな。
朝までゆっくり眠るんだぞ。
そう言えば、あれから日比野くんからライム来てないけど大丈夫かな?
亜美曰く、日比野くん料理作れないらしいからな。
出歩けるくらい眠れたなら良いけど。
ふー、のばらさんが帰ってくるまでまだ時間あるから、お父さんに電話架けよう。早い方がいいもんな。
俺は亜美を撫でて、部屋を出た。
部屋を出ると、信次が既にお父さんと電話していた。何を話しているんだろ。
俺は信次に近づいた。
「お父さん、昨日は眠れた? 体調は大丈夫?」
『ああ、元気だぞ。昼間は少し寝たしな』
「まだ抑うつ症状はあるみたいだね」
『仕事に支障は出ないレベルになって来たよ。信次達のお陰だよ』
良かった。お父さん、少しずつ体調回復してるみたいだ。
お父さんは、岡山県のご実家で、リモートワークにて不動産管理で生計を立てている。
後は前の職場からも仕事を貰ってるようだった。
ただ、鬱があるから、何も出来ない時もあると嘆いていたからな。
そこは配慮して貰って、休憩時間と休みは少し多めに取ってるみたい。
「お父さん実家暮らしなんだし、無理せず休んだ方がいいよ。今は辛い時なんだし」
『いや、寧ろ仕事してた方が気晴らしになるぞ。身体が動く時はな』
あの女の件は、お父さんに取ってはかなりのダメージだろうからな。
忘れようとしてるところに、声を聞いちまった訳で。
俺も仮に亜美に捨てられたら……ダメだ、考えるのもキツいや。何なら涙が出て来た。
亜美は絶対そんな事しないのに。
俺が死んだ夢を見て泣く亜美も、こんな気持ちなのかな。
解ってるはずなのにな、俺が亜美を置いて死んだりしないって。
「抑うつ症状が出たら、その日は寝とくんだよ。心がいっぱいいっぱいな証拠なんだから」
『心配ありがとな。しっかり寝とくよ』
「お父さんは無理しがちだからなあ、心配だよ」
今のは俺にもグサッと来たぞ。
そうだよな。抑うつ症状が出た時点で休むべきだよな。
無理した結果、過半数に泣き顔見られちまったしな、俺。
後々恥ずかしくなるから、お父さんに同じ思いはして欲しくないな。
『そんな時は信次達の声を聞きたくなるよ』
「4日までなら僕休みだから、架けて来てよ。無理しないで」
『たまには甘えさせてもらうな』
「うん、そうして!」
お父さんから架けてくることは、滅多にないもんなあ。
甘えてくれたっていいのにな。
『その、朝早くてもいいか?』
「朝5時には起きてるから安心して」
『そっか、相変わらず家事やってるんだな。信次こそ受験生なんだから無理するなよ』
「大丈夫、好きでやってるもん。僕」
信次、俺を気遣って今も朝の家事やってくれてるもんな。
全然俺、やるのになあ。年寄りは早起きなんだぞ?
確かに俺、超ロングスリーパーだけどさ。
亜美が毎朝起こしてくれるのも、超嬉しいけどさ。
朝の家事もやりたい、って俺は我儘だな。
『ふわあ、すまん信次、もう眠たくなって来たから寝かせてもらうな。京平におやすみだけ伝えようかな』
「うん、兄貴に代わるね。おやすみ、お父さん。愛してるよ」
『おやすみ信次、愛してるよ』
信次の電話がお父さんを安心させてくれたのかな?
「兄貴、お父さんが兄貴におやすみ言いたいって」
「ありがとな、信次」
俺は信次から電話を受け取った。
『京平、ごめんな。今日は話せなくて』
「気にすんなよ。おやすみ、お父さん」
『おやすみ、京平。いつもありがとな』
「俺こそ。愛してるぞ」
『愛してるよ、京平。おやすみ』
お父さんが安心して眠れそうで良かった。
「ありがとな信次、お父さんかなり安心した声してたよ」
「それなら良かった」
「のばらさん帰ってくるまで勉強でもしてよ」
「僕も受験勉強しなきゃ」
内科医として、己のスキルアップは常にやらなきゃ。
新しい薬も日々出てくるし、患者様の選択肢を増やしてあげたいし。
とは言え、お父さんの安心した声を聞いたら、眠たくなってきたな。
いけないいけない、一点集中だぞ、俺。
「って、兄貴また医学書買ったでしょ?!」
「失礼な、3冊しか買ってないぞ」
「充分だよ、おバカ!」
◇
「一冊丸暗記完了。これでこの医学書についても、指示が出せるな」
「流石天才。僕には真似出来ないや」
「内科は日々新しい薬が出るからな」
集中して、何とか眠気に打ち勝てたかな。
物を人よりも早く覚えられる才能は、正直かなり助かっている。
身体がそれを覚えるのに、俺は人の数倍は掛かるから。
記憶してしまえば、身体に染み込まなくても何とかなるからな。
「ただいまですわー!」
「おかえり、のばら」
「のばらさんおかえりー」
お、のばらさんも帰って来たね。雑煮作るか。
「お風呂にする? 少し待つけどご飯にする?」
「じゃあ、信次とお風呂にしますわ」
おー、仲の良い事で。
信次は半ば強引にのばらさんに引きずられ、お風呂に入っていった。
2人が出るまでに美味しい雑煮作るからな。
とは言っても、白菜も切ってあるし、出汁も作ってあるからもう煮るだけだけど。
そうだ、信次も勉強頑張ってたし、夜食に作ってやるか。
白菜を切って、煮込んで、と。
醤油と料理酒とみりんを入れて。
うん、良い匂い。後は火を切るタイミングを間違えなければ大丈夫。
よし、餅が少しとろけだしたら完成だな。
後はいい感じに盛り付けて、っと。
信次達、2人で風呂入ったし、まだ出ないよなあ。
お雑煮とお節は机に並べておいて、もう寝てしまおう。
大分眠いんだよな、昼寝してないし。勉強に集中し過ぎたのもあるかな?
よっこらしょ。亜美、ただいま。
俺は亜美を抱いて、眠る体勢に入る。
心地良いんだよな、亜美って。
絶対失いたくない。傍に居続けて欲しい。
なんて、本人には言えないけど、俺から手を離す事は絶対ないからな。
亜美が明日も笑顔を見せてくれたらいいな。
おやすみ、世界一愛してる亜美。
京平「亜美、傍にいろよ。すー。すー」
信次「兄貴、眠かったみたいだね」
のばら「でも、作ってくれたお雑煮美味しいですわ」
信次「僕の分まで作ってくれたもんな。夜も勉強頑張るぞ!」
のばら「のばら、明日遅番だから付き合いますわ」