敗北者の安らぎ(友目線)
「よし、午前の診療おわり。お疲れ様」
「そんな疲れるほど動いてないですよ」
「睡眠不足が何を言ってるんだ。さ、飯だぞ」
深川先生、本当に早めに診療終わらせましたね。
しかもゆっくりモードだったのに。
「ちょい屋上で話しよっか」
「解りました」
深川先生、何を僕に話そうとしているんでしょう。
眠れないかもしれないと答えただけなのに。
気持ちの問題だから、どうしようもないんですけどね。
「あ、京平ー。お昼食べよ!」
「悪りぃ。今日は日比野くんと屋上でだべってるよ」
「えー、私も混ぜてよ」
「男同士の話なの!」
亜美を交えないで、ですか。確かに今の僕は、亜美を見ると泣いてしまいますから。
この人、僕の事見抜いているのかな?
そんな訳で深川先生と屋上に向かう。
本当は休憩室じゃないとご飯食べちゃだめなんですけどね。
僕と深川先生は、屋上の椅子に座った。
「んー、風は強いけど良い天気。飯食おうぜ」
「あ、最近僕、昼食べないんです。待ってますね」
「マジか。ちゃんと食べた方がいいぞ?」
昼だけはご飯食べられないんですよね。
水筒の麦茶くらいしか飲めなくて。
「いただきます」
まあいいです、深川先生がご飯食べてる間は、ボーっと過ごします。
気を紛らわして過ごさなくては。
僕が大きく溜息を吐くと。
「無理せず、泣いてもいいんだぞ」
何言ってるんでしょうか、深川先生。
何で、今にも泣きそうな事を見抜いてくるんですか?
「大丈夫ですよ。ボーっと過ごしますから」
そんな僕は、もう既に泣いていた。限界だったんです。
亜美と会った時点で、溢れるものが溢れてましたから。
「むしゃむしゃ。寝てないし、精神的にも限界すぎるだろ。文句なら俺が聞くから」
この人になら、本音を話せるかな。
本当は誰かに聞いて貰いたかったんです。
「傷付けるつもりは無かったんです。僕が愛する事で、幸せにしてあげたかったんです。もう僕の愛は、亜美を傷付ける事しか出来なくて……」
もう涙が止まらない。幸せにしたかったんです。
「あんな顔させたくて、愛したんじゃ無いんです」
悲しい顔をさせてしまった。嘘でも「嫌われても」なんて、言いたくなかっただろうに。
僕のせいで、僕のせいで。
「日比野くんから言ったんだろ。追いかけるのは止めるって。亜美のために」
「僕のせいで傷付けるのは、嫌だったんです。それに、深川先生に嫌われても、深川先生を愛し続けるから、って。そこまで言われたら……」
亜美、愛してます。もう決して伝えられないけれど。
「亜美を守ろうとしてくれてありがとな」
深川先生は、僕の頭をポンポンしてくれた。
最後の最後は、器用にやれたかな。守れたかな。
「ごちそうさま。っと。大体亜美は変なやつだぞ」
「ちょ、亜美の悪口は許しませんよ!」
「だって変だもん。俺を愛してるんだぞ?」
ん、何を言ってるんだろう? 深川先生は話を続けた。
「亜美に対して悪戯ばっかするし、嫉妬も凄いするし、イケメンでもないし、優しくも無いし、下手したら生きてる価値もないんじゃね? って俺を、だよ」
「深川先生、ネガティブが過ぎますよ!」
「ああ、それもあった。ネガティブが凄いのによ」
大体深川先生がイケメンじゃないなら、蓮はどうなってしまうんでしょう。って、これは失礼でしたね。
そう言えば深川先生は、双極性障害でしたね。自分に対しての自己評価がこんなにも低いだなんて。
「僕、深川先生の事、尊敬してるんです。患者様目線の治療に、異能のスペシャリストで、それと優しい所を」
「何だ、日比野くんも変人か」
「変人じゃないですよ!」
本当にネガティブが過ぎるな、深川先生。
でも、久々に笑えた気がする。完璧そうに見える人にも、弱点ってあるんだなあ。
「亜美を幸せにしてくださいね」
「ん、当たり前だろ」
「話してて、大分スッキリしました。有難うございます」
僕が亜美を幸せに出来ないなら、深川先生に託すしかないから。
「でも亜美は、日比野くんの事心配してたよ。友達として幸せにしてあげてな」
「まだ踏ん切りは付かないけど、僕なりに亜美を幸せにしてあげたいです」
「大丈夫、日比野くんなら出来るよ」
深川先生と話してると、なんか安心出来ますね。
安心したら、久々に眠くなって来ました。
泣き疲れたのもあるのかもです。
少しだけ寝かせて貰おうかな。
僕が亜美に出来る事を考えながら。
「亜美。すー、すー」
「やっと眠ったか。ご飯も食べてないし、家まで運んでやるかな。看護師長には、日比野くんの休みは相談済みだし」
◇
「日比野くん、起きれるかい?」
「むにゃ、あ、昼休み!」
「暫く寝れてなかったろ。身体整える為にも日比野くんは今から5日間休みね。次は1/8で中番な。看護師長も心配してたぞ」
「というか、ここ僕の家。運んで下さったんですか?」
「流石にタクシーは使ったけどな。もうすぐご飯出来るよ」
そうか、僕、安心して寝ちゃったんだ。
暫く寝られてないのも気付いてくれていたんですね。
家に連れてきてくれて、ご飯まで。
「ほい、卵粥。これくらいは食べるんだぞ」
「久々に食べる気力も湧いて来ました。美味しそうな匂いがします」
「少しずつ食べられるようになればいいな」
深川先生の作ってくれた卵粥は、温かくて優しくて、また僕は泣いてしまった。
僕に優しくしてくれて有難うございます、深川先生。
「美味しいです。ほっこりしました」
「亜美を守ろうとしてくれたお礼。ありがとな」
深川先生は、また頭をポンポンしてくれた。
なんだか安心します。
「ごちそうさまです」
「じゃあ、俺は病院に戻るけど、何かあったらライムで呼んでくれよ」
「はい、今からなら眠れそうなので、ゆっくり寝ます」
僕は深川先生が帰ったあと、鍵を架けて、布団に潜り込んで眠った。
何度も亜美を傷付けてしまって、自分に自信が持てなくて苦しかったけれど、最後は守れたなら良かった。
深川先生に、色々本音を話せたのも大きいです。
ゆっくり、今度は友達として、亜美を幸せにしたいです。
そして、また誰かを好きになれたらいいですね。
おやすみなさい。
友「すー。すー」
蓮「友が眠れて良かったぜ。ずっと睡眠不足なのに、正月休みも取らず働いてたからな」
作者「敢えて触れませんでしたが、友くんは明らかに適応障害起こしてましたね。落ち着くと良いのじゃが」
京平「何かあったら頼って欲しいな」