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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
お正月モード
126/238

敗北者の安らぎ(友目線)

「よし、午前の診療おわり。お疲れ様」

「そんな疲れるほど動いてないですよ」

「睡眠不足が何を言ってるんだ。さ、飯だぞ」


 深川先生、本当に早めに診療終わらせましたね。

 しかもゆっくりモードだったのに。


「ちょい屋上で話しよっか」

「解りました」


 深川先生、何を僕に話そうとしているんでしょう。

 眠れないかもしれないと答えただけなのに。

 気持ちの問題だから、どうしようもないんですけどね。


「あ、京平ー。お昼食べよ!」

「悪りぃ。今日は日比野くんと屋上でだべってるよ」

「えー、私も混ぜてよ」

「男同士の話なの!」


 亜美を交えないで、ですか。確かに今の僕は、亜美を見ると泣いてしまいますから。

 この人、僕の事見抜いているのかな?


 そんな訳で深川先生と屋上に向かう。

 本当は休憩室じゃないとご飯食べちゃだめなんですけどね。

 僕と深川先生は、屋上の椅子に座った。

 

「んー、風は強いけど良い天気。飯食おうぜ」

「あ、最近僕、昼食べないんです。待ってますね」

「マジか。ちゃんと食べた方がいいぞ?」


 昼だけはご飯食べられないんですよね。

 水筒の麦茶くらいしか飲めなくて。


「いただきます」


 まあいいです、深川先生がご飯食べてる間は、ボーっと過ごします。

 気を紛らわして過ごさなくては。

 僕が大きく溜息を吐くと。


「無理せず、泣いてもいいんだぞ」


 何言ってるんでしょうか、深川先生。

 何で、今にも泣きそうな事を見抜いてくるんですか?


「大丈夫ですよ。ボーっと過ごしますから」


 そんな僕は、もう既に泣いていた。限界だったんです。

 亜美と会った時点で、溢れるものが溢れてましたから。


「むしゃむしゃ。寝てないし、精神的にも限界すぎるだろ。文句なら俺が聞くから」


 この人になら、本音を話せるかな。

 本当は誰かに聞いて貰いたかったんです。


「傷付けるつもりは無かったんです。僕が愛する事で、幸せにしてあげたかったんです。もう僕の愛は、亜美を傷付ける事しか出来なくて……」


 もう涙が止まらない。幸せにしたかったんです。


「あんな顔させたくて、愛したんじゃ無いんです」


 悲しい顔をさせてしまった。嘘でも「嫌われても」なんて、言いたくなかっただろうに。

 僕のせいで、僕のせいで。


「日比野くんから言ったんだろ。追いかけるのは止めるって。亜美のために」

「僕のせいで傷付けるのは、嫌だったんです。それに、深川先生に嫌われても、深川先生を愛し続けるから、って。そこまで言われたら……」


 亜美、愛してます。もう決して伝えられないけれど。


「亜美を守ろうとしてくれてありがとな」


 深川先生は、僕の頭をポンポンしてくれた。

 最後の最後は、器用にやれたかな。守れたかな。


「ごちそうさま。っと。大体亜美は変なやつだぞ」

「ちょ、亜美の悪口は許しませんよ!」

「だって変だもん。俺を愛してるんだぞ?」


 ん、何を言ってるんだろう? 深川先生は話を続けた。


「亜美に対して悪戯ばっかするし、嫉妬も凄いするし、イケメンでもないし、優しくも無いし、下手したら生きてる価値もないんじゃね? って俺を、だよ」

「深川先生、ネガティブが過ぎますよ!」

「ああ、それもあった。ネガティブが凄いのによ」


 大体深川先生がイケメンじゃないなら、蓮はどうなってしまうんでしょう。って、これは失礼でしたね。

 そう言えば深川先生は、双極性障害でしたね。自分に対しての自己評価がこんなにも低いだなんて。

 

「僕、深川先生の事、尊敬してるんです。患者様目線の治療に、異能のスペシャリストで、それと優しい所を」

「何だ、日比野くんも変人か」

「変人じゃないですよ!」


 本当にネガティブが過ぎるな、深川先生。

 でも、久々に笑えた気がする。完璧そうに見える人にも、弱点ってあるんだなあ。


「亜美を幸せにしてくださいね」

「ん、当たり前だろ」

「話してて、大分スッキリしました。有難うございます」


 僕が亜美を幸せに出来ないなら、深川先生に託すしかないから。

 

「でも亜美は、日比野くんの事心配してたよ。友達として幸せにしてあげてな」

「まだ踏ん切りは付かないけど、僕なりに亜美を幸せにしてあげたいです」

「大丈夫、日比野くんなら出来るよ」


 深川先生と話してると、なんか安心出来ますね。

 安心したら、久々に眠くなって来ました。

 泣き疲れたのもあるのかもです。

 少しだけ寝かせて貰おうかな。

 僕が亜美に出来る事を考えながら。


「亜美。すー、すー」

「やっと眠ったか。ご飯も食べてないし、家まで運んでやるかな。看護師長には、日比野くんの休みは相談済みだし」


 ◇


「日比野くん、起きれるかい?」

「むにゃ、あ、昼休み!」

「暫く寝れてなかったろ。身体整える為にも日比野くんは今から5日間休みね。次は1/8で中番な。看護師長も心配してたぞ」

「というか、ここ僕の家。運んで下さったんですか?」

「流石にタクシーは使ったけどな。もうすぐご飯出来るよ」


 そうか、僕、安心して寝ちゃったんだ。

 暫く寝られてないのも気付いてくれていたんですね。

 家に連れてきてくれて、ご飯まで。

 

「ほい、卵粥。これくらいは食べるんだぞ」

「久々に食べる気力も湧いて来ました。美味しそうな匂いがします」

「少しずつ食べられるようになればいいな」


 深川先生の作ってくれた卵粥は、温かくて優しくて、また僕は泣いてしまった。

 僕に優しくしてくれて有難うございます、深川先生。


「美味しいです。ほっこりしました」

「亜美を守ろうとしてくれたお礼。ありがとな」


 深川先生は、また頭をポンポンしてくれた。

 なんだか安心します。


「ごちそうさまです」

「じゃあ、俺は病院に戻るけど、何かあったらライムで呼んでくれよ」

「はい、今からなら眠れそうなので、ゆっくり寝ます」


 僕は深川先生が帰ったあと、鍵を架けて、布団に潜り込んで眠った。

 何度も亜美を傷付けてしまって、自分に自信が持てなくて苦しかったけれど、最後は守れたなら良かった。

 深川先生に、色々本音を話せたのも大きいです。

 ゆっくり、今度は友達として、亜美を幸せにしたいです。

 そして、また誰かを好きになれたらいいですね。

 おやすみなさい。


友「すー。すー」

蓮「友が眠れて良かったぜ。ずっと睡眠不足なのに、正月休みも取らず働いてたからな」

作者「敢えて触れませんでしたが、友くんは明らかに適応障害起こしてましたね。落ち着くと良いのじゃが」

京平「何かあったら頼って欲しいな」

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