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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
恋愛バトル
12/220

言っちまったな!

 嘘……友くんが私を? 全然気付けなかった。

 私も京平の事言えないじゃん。鈍いじゃん。何度も京平の話して、絶対傷付けていたじゃん……。

 でも、私は京平の事を愛してるから、友くんの気持ちには応えられない。私が返事をしようとすると……。


「返事は解ってるので、今はしないで。でも、諦めた訳じゃないですからね」

「友くん……」

「貴女をすきになって良かった。これからも追いかけますから」


 あまりにも友くんが哀しそうに話すので、私は。


「でも、私の魅力に1番に気付いたのは友くんだよ。私、告白されたの初めてだもん」

「じゃあ僕が、いい男なのは間違いないですね」

「そ、それは知らないけど」

「ありゃま。じゃあもっと頑張ります」


 告白って、する方はとても勇気がいるし大変なこと。だけど、応えられない痛みを私は初めて知った。

 凄く苦しかったから、京平にはこんな思いはして欲しくない。から、京平から愛されなくちゃ。

 どうしたら良いかは解らないけど、私らしい私のままで愛されたらいいな。


 ◇


 私達が面談室から出ると、何とまだ京平がいた。はよ仕事いけよー! である。

 京平は私をみながら、話しだす。


「亜美は、日比野くんの事を許すのか?」

「気遣いがすれ違っちゃっただけだもん。怒ってないし許すよ」

「そうか。なら、俺から言う事は何もない。今度からは変な真似するなよ、日比野くん」

「解ってます。深川先生」


 京平は友くんの返事を聞くと、めちゃくちゃダッシュで緊急外来まで行こうとしたのだけど、やっぱり転けたので、私が受け止めた。私偉い子!


「気をつけてね、京平」

「やっぱり俺は転ける運命なのか」


 と、また転けたらかなり恥ずかしいのを京平も解っていたので、今度は歩いて緊急外来まで向かった。


「それではお疲れ様です」

「今日はしっかり反省すること。いいね?」


 友くんもナースステーションを後にした。

 さて、私も仕事に戻ろうかな。ってしてたら、看護師長が、私の肩を叩いた。


「で、告白されたっしょ? あの反応は」


 何と下世話な事を聞いてくるんだろう、とは思ったけど、上司には逆らえない。ので。


「はい、全然気付けなかったですけど」

「時任さんはそうでなくても、深川先生一筋だもんね」

「はい、揺らぐつもりはありません」


 友くんには申し訳ないけど、私の気持ちはそんな簡単に揺らぐものじゃないのだ。


「しかも、ライバルが冴崎さんだもんね。あの子は手強いよ」

「え、のばらの事も知ってるんですか?」

「だってあの子、かなり無茶苦茶な深川先生のシフトに合わせて下さいって言ってるからね。今日は突然だったから流石に間に合わなかったけど」


 のばら、そんな根回しもしていたのか。本当に強力すぎるライバルだ。しかも、自分の身体まで犠牲にしている訳で。


「じゃあ、明日のばらも休みなんですか?」

「の、はずだったんだけど、外せない用事が出来たとかで、土日休みに変わったわ。珍しいわよね」


 そうか、私が土曜が休みだよって返したから、のばらはそれに合わせてくれたのか。日曜も休みだったし、そう言っとけば良かった。

 でも、日曜は京平も休みだし、家族で過ごしたかったから仕方ない。休みが合う事は中々ないのだ。


「後、深川先生は難攻不落ね。覚悟しときなさい」

「それは解ってます……!」

「よし、じゃあ仕事行っといで。来週からバリバリ遅番入れるからね」

「はい、有難うございます」


 愛も仕事も、どっちも負けてらんない。私は、気合いを更にいれて仕事に向かった。


 ◇


 仕事中は、どうにもこうにも友くんの事で頭がいっぱいだった。

 幸いあれからナースコールはほとんど鳴らなかったので何とかなったものの、オンオフの切り替えが相変わらず下手な自分に不甲斐なさを感じる。

 

ーーそっか、初めて告白されたから、やっぱり気になっちゃうんだな。


 友くんの事は、全くそういう対象として見ていなかったからこそ、傷付ける事しか出来ない自分が許せないし、でも応える事は出来ないわで歯痒かった。

 せめて気持ちに気付いていれば、意地悪亜美ちゃんを降臨させて、嫌われる事も……とは一瞬思ったが、友くんは友くんだけに、友達としては大切だ。嫌われる勇気は持てない。


 かくして、頭が宙ぶらりんなまま、今日の仕事を終えた。

 私は遅番の看護師さんに申し送りを行い、ナースステーションを後にする。


 更衣室に向かうと、京平もちょうど仕事が終わったらしく、鉢合わせした。


「あ、京平お疲れ」

「亜美もお疲れさん、今日は色々あったな」

「じゃあ、お互い着替えたら緊急外来前ね」

「ん、了解」


 着替え前にチラッとライムを見ると、のばらから返信が来てる。ライムの内容は、クッキー作りは土曜日に決まったとの事だった。

 今日はもう遅いから明日の昼頃に返すとしよう。

 って、京平を待たせてしまってはいけない。私は急いで着替えた。


 急いだ結果、京平より先に、緊急外来前まで辿り着いた。京平は今日スーツ出勤だから、そりゃ時間掛かるよね。

 京平が来たのは、私が緊急外来前で待ち始めた2分後の事だった。急いで着替えたんだろうか、息を切らしている。


「ごめん、寒いのに待たせたな」

「2分くらい誤差だよ。誤差」


 とは言いつつも昼間暖かったのもあり、上着も薄手のものを着てきてしまい、ちょっと身体が震える。

 と、思った矢先、ふわっと何かが身体に被さった。


「それ着とけよ。そんな格好じゃ寒いだろ」

「でも、京平が寒いでしょ?」


 12月初旬の夜は、大変冷え込んでいた。


「大丈夫、俺暑がりだし。スーツマジ暑いんだわ」

「そっか、ありがとね」


ーー京平の匂いがする。元気でるなあ。


 世界中で1番好きな匂いに包まれた私は、世界一幸せ者になった気がする。後、世界で1番愛してる人に優しくされた温もりも含めて。


「コンビニまでは近くないんだよなあ、我が家」

「話しながら歩けばすぐだよ」


 なんかまるで、デートみたいだね。

 2人でコンビニとは言え、出かける事なんて滅多にないし。

 なーんて言えないけど、気分だけは味わっておこう。

 友くんには申し訳ないのだけど……。


「亜美、そいや日比野くんと何話したんだ?」

「えと、今回の件謝ってくれて、そんで……告白された」


 京平は、驚いたような顔をして言う。


「遂に亜美も告白されたのか。日比野くん見る目はあったな」

「断ることしか出来ないから、胸は痛かったけどね」

「まー、亜美の性格解ってないもんな。今回の件とか」


 それで応える事が出来なかった訳じゃないんだけどなあ。と、思いながらも、愛してる京平がいるから。なんて言えないから、私は黙った。


「でも告白されると、その日の夜はそいつの事考えちゃうよな。すきじゃなくても」

「京平も告白された事あるの?」

「あー、大学の時に何度か。告白されて付き合ってもみたけど、すきで付き合った訳じゃなかったのと医学生激務だったのもあって全部フラれたけどな」


 そらこんだけイケメンなら、素性を知らなくても告白されるよなあ。中身は変人で天然で、医学に対する情熱がありすぎる人なのだけど。


「なんか京平らしいエピソードだね」

「悲しいエピソードだろ。昔から恋愛には縁はないな」

「そう言えば、京平は誰かを愛した事はあるの?」

「あるよ、亜美と信次を愛してるからな!」

「……言うと思った」


 「異性として」と言う大事な部分を忘れて聞いてしまった私のミスだけど、例え家族としてでも愛されているなら嬉しいな。


「でもありがとね、愛してくれて」

「当たり前だろ」


 そんな話をしていても、やっぱり友くんの顔が過ぎってしまう。

 さっき京平も言ってたけど、すきじゃなくてもその人の事を考えてしまう力が告白にはあるのだね。

 私の告白……まだ勇気もないし、傷付けない方法も解らないけど、終わる異性としての愛かもしれないけど、出来た時、1日は私の事ばかりになればいいな。

 よし、ちょっとずつ切り替えて行かなきゃ。私が貫くと決めたのだから。


「亜美、すごい真顔だぞ? どした?」

「んーん、何でもない」


 こればかりは教えてあげない。告白するまでは。


 ◇


 そして歩いて15分足らずで、コンビニに辿り着いた。

 地味に近いような遠いような。そんなコンビニである。


「コンビニでもワインいっぱいあるね」

「今日は亜美が告白された記念日だからな、ちょっと良いの買おうかな」

「え、何その記念日?」

「亜美は一生告白されないのでは? って、信次とも心配してたんだぞ!」


 なんじゃ、その心配。

 私は京平から告白されたら、それで充分なんだけどな。無理だろうけど。だって絶対異性としては見てないもんなあ。


「取り敢えず、これにしよ」

「え、ちょっと高くない?」

「たまにはいいだろ、たまには」


 京平は5000円くらいするワインを手に取ると、すぐレジに向かうのだった。

 このコンビニ、よくそんな高いワインあったよなあ。


「あ、待って。これも欲しい」

「お、なんだ?」


 私が手に取ったのは、あったかい缶コーヒー。寒かったからね。


「おいおい、夜眠れなくなるぞ?」

「飲むのが目的じゃないもん」


 こうしてレジでお会計を済まして、家路に向かう。


「ほら、こうしたら京平もあったかいでしょ?」


 私は京平が左手にもつ袋から缶コーヒーを取り出して、京平の右手に握らせた。一瞬触れた京平の手の、ひんやりした感覚が伝わってくる。


「ありがとな。でもこうしたら、もっとあったかいぞ」


 京平はそう言うと、私の左手を、袋を持った手でグイっと引っ張り、京平の右手を握らせた。


「ちょ、京平。私の手、冷たいよ?」

「一緒にあったまろーぜ」


 寒空の下で、鼻を赤くした京平が笑う。

 こんなの反則だよ。胸の高鳴りが抑えられないよ。京平の握る缶コーヒーと、京平の温もりが、私の身体ごと熱らせていくのだった。


 ◇


 私は顔を熱らせながら、家まで京平と辿り着く。

 私の今の顔、絶対真っ赤だよ。こんなの、照れるなって方が無理だよ。

 家まで着いて右手タイムが終わっても、中々胸の高鳴りを冷ます事は出来なかった。

 小さい頃握られた右手の感触と、やっぱりどこかが違う。そんな感じ。


「あ、信次からのメモが置いてある。「どうせ呑むかと思っておつまみ作っといたから、良かったら食べてね」だって」


 私はメモを読みながら、出来の良すぎる弟に感動した。そんな事まで予測出来る弟凄い!


「お、信次気がきくなあ。明日お礼言わなきゃな」

「そうだね。私中番だから、まずはライムで明日お礼言わなきゃ」


 そんな事を言いながら、信次の作ってくれたおつまみを冷蔵庫から取り出して、私達は晩酌を始めた。


「信次、暖房もセットしてくれたんだね。あったかあああ」

「一応俺も24時終わりなのは伝えてたけど、相変わらずの気遣いだな」


 と、言いながら、私はある事に気付く。そうだ、京平のスーツの上着借りっぱだった!


「あ、そだ。京平スーツじゃん。早めに掛けといたら?」

「亜美はもう寒くないよな?」

「うん、大丈夫だよ」


 私は京平のスーツの上着を脱いで、ハンガーに掛けた。本音を言うとずっと着てたかったけど、汚しちゃあいけないしね。

 

「明日は休みだし、風呂は明日にしようかな。亜美、今から着替えるから覗くなよ?」

「の、覗かないよ!」


 とはいいつつ、本音を言えばチラッとくらいは見たかったりするけど我慢我慢。


「ほい。着替え完了。さあ、呑むぞー!」

「おー!」


 気の置けない仲と呑むお酒って美味しいよね。

 しかも、私の場合は愛してる人とサシ呑みしてる訳で。楽しくないはずがない。


「あ、このワイン美味しいー」

「これくらいの値段になると、相当高いヤツとも中々区別つかないくらいだしな」

「ほー、京平はそんなワインを呑んだ事があると?」

「ああ、麻生から貰ったりしてな」


 麻生先生、ブルジョワだったのね。そんな訳わからん値段のワインを、いくら同期とは言え普通にあげられるくらいだなんて。


「あー、信次なんで私達がワイン呑むって解ったんだろ、めちゃくちゃおつまみ合うー」

「たまに勘が鋭いよな、あいつ」


 そうなんだよなあ、この勘の鋭さはかなり羨ましい。しかもそれで私達を幸せにしているのだから尚の事。

 ワインとおつまみの美味しさで、私は段々と気持ちよくなってきた。


「そう言えば、告白って何言われたんだ?」

「最初、誰の事言ってんのー? って感じでよく解らなくて、よくよく聴いてると私の事かー! って感じだったよん。まさか告白とは思わんかったー」


 あ、かなりベロベロになってきたかも。テンションが高くなりすぎて制御できないや。


「亜美にはもっと単純に言えばいいのにな」

「そうよー、私バカだもんー」

「よく解ってるじゃないか」


 ああ、なんか凄く楽しいや。もうバカでも何でもいいやあ。


「でも、傷付けちゃったからなあ。申し訳ないなあってのはめちゃあるー。仕方ないんだけどねー」

「それが嫌なら、彼氏居ないんだから付き合えば良かったんじゃね?」


 京平は少しムスッとして言う。

 そら、振った分際で、傷付けてしまったとか悔やむなって感じだよね。

 ただ、少し不機嫌な態度で言われたので、私も言い返す。


「ダメれすよー、私には愛する人が居るんだもんねー……」


 あ、なんかクラクラしてきた。

 待って、私今、なんて言った?! 言っちゃいけない事を言ってしまった気がする。

 けど、冷静に物事を考えられないし、なんなら意識も徐々に……。


「おい亜美、亜美……寝ちゃったか」


 愛してるよ。京平。世界で1番愛してる。

作者「言っちまったな!」

亜美「何のことれすかー?」

作者「だめだ、無理やり起こしたけど、ベロベロだぜ」

京平「作者、亜美を起こしちゃ可哀想だろ?」

作者「てへぺろ」

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