甘えたい私。
「ふー、お腹いっぱい」
「亜美の笑顔が見れてよかった」
結局、京平と信次とのばらは大盛りカツ丼5杯を食べ尽くし、私もあの後、カツ丼を食べたよ。
美味しかったから、とっても幸せだなあ。
「この後はお父さんに電話だな」
「あ、僕から話したい。大切な人が出来たって伝えるんだ」
「じゃあ、その間亜美と風呂入ってるよ」
「俺は勉強しなきゃ。後で見てくださいよ?」
「心配しないで。のばらが見ますわ」
そう言えばのばらと暮らし始めた事も話したいな。のばらは大切な友達だもん。
実は一昨日の深夜、山田さんがのばらの事を聴きに来たけど、相当な喧嘩だったみたいで、のばらの両親は未だに怒り心頭みたい。
山田さんには行き先を伝えてたみたいで、のばらが必要だろう荷物も持って来てくれた。
のばらは、楽しそうに過ごしてるのが幸いだけどね。
家族でも分かり合えない事ってあるんだね。のばら頑張ってるのに。
そんな事も話したいな。でも。
「本当は毎日話したいけど、やっぱりお父さん、それは辛いのかなあ」
「俺からも話してみるよ。亜美達を思う気持ちが、お父さんを変えられるかもしれないし」
「あの女の事なんか、忘れちゃえばいいのにね。お父さん優しすぎるんだよ」
お父さん、今でもあの女を愛してるから、私達と話す事であの女を思い出して、苦しめちゃうかもしれないのがすごく怖くて。
京平が間に入る事で、私達とお父さんとの距離が、より縮まるといいな。
「大丈夫、お父さん、亜美と信次を愛してるからさ。いつか一緒に暮らせるよ」
「そうなるといいな」
家族が離れ離れなんて、やっぱり寂しいもん。
「亜美、いつかは兄貴と亜美と僕とお父さんと暮らせる事を信じようね」
「うん、信じ続けるよ」
「今はのばらもいますわ!」
「ありがとね、のばら」
大丈夫、お父さんも少しずつ治療が進んでるから。だから、信じるんだぞ。私。
「「「「「ただいまー」」」」」
「よし、勉強するぞ」
「俺と亜美は風呂入ってくるよ」
「僕はお父さんと電話する。のばらもおいで。紹介したいからさ」
そんな訳で、皆それぞれに行動を始めた。
私は京平とお風呂に入る。一緒にお風呂入るから、って言ってくれたのは嬉しかったなあ。
「亜美、おいで。背中流すよ」
「ありがと、京平」
はふん、気持ちいいなあ。京平私のツボ理解してるよね。顔も洗おっと。
「全く、一々可愛いな。亜美は」
「癒されるわああ」
「ほら、交代。宜しくな」
私達は場所を交代したんだけど、交代して目に入るのは、京平の広い背中。
タオルでゴシゴシするんだけど、なんか抱きしめたくなっちゃう。
この背中にいっぱい助けられて来たなあ。愛してる。
私は胸いっぱいになって、京平を抱きしめた。
「ちょ、亜美。照れるだろ」
「ごめん、なんか抱きしめたくなって」
「バカ、自制効かなくなるだろ」
京平は振り向いて、私を強く抱きしめてくれた。
石鹸の香りが鼻をくすぐって、私も京平を抱きしめる。
本当に私、我慢が出来ない子だね。すぐに抱きしめたくなっちゃうよ。
特に今日は、京平が欲しくてたまらない。
「ほら、顔流して」
京平は、シャワーで私の顔についた泡を流す。
「え、なん……」
返事の前に、京平は私にキスをした。
ちょっと、ただでさえ歯止めが効いてないのに、こんな事されたら。
「もう止められそうにないや」
「俺達しかいないし、まったり過ごそう」
今日の私はなんかおかしいな。でも、京平は応えてくれてるし、幸せだからいっか。
◇
「ふー、さっぱりした」
「今日の亜美はいつも以上に甘えん坊で可愛いぞ」
京平なんだか嬉しそう。私の自制が効かなくて迷惑かけちゃったんだけどな。
普段からもう少しくらいは、甘えてもいいのかな?
信次は、まだ電話してるみたい。
「うん、のばらの事は大切にするよ。色々待たせちゃうけど、絶対幸せにするんだ」
横でのばらが顔を真っ赤にしてるや。そういう言葉って嬉しいよね。のばらを幸せにしてね、信次。
「お父さんも体調大丈夫? ちゃんと眠れてる? 無理は絶対ダメだからね」
そうだね。無理はして欲しくないよ。病気と徐々に向き合って、笑ってくれてたら、それでいいんだから。
「やっぱり無理させちゃうかな。毎日話したいってのは」
「今のお父さんなら大丈夫だとは思うけど、そこも含めて聞いておくからな」
「ありがとね。幸せでいて欲しいもん」
毎日話したいし、出来れば会いたいけど、それもお父さん次第だから。
私達は最高のお兄ちゃんと一緒に、ずっと待ってるから、いつか迎えに来てね。
「あ、今亜美、お風呂から上がったみたいだから替わるね。電話の日じゃないのに、ありがとね。愛してる」
信次は私に気付いて電話を替わってくれた。
「もしもしお父さん、続けて話しちゃって大丈夫?」
『亜美の話なら、いつでも聞くよ。何かあったのか?』
私は徐にソファに座って、普段着の状態で話し始める。お父さんとはいつだってそう。
「急に声が聞きたくなってさ。お父さんの声聞くと、落ち着くんだ」
『必要としてくれてありがとな』
「当たり前じゃん。お父さんは大切な家族だもん」
『亜美、ありがとな。京平とは仲良くやってるか?』
「うん、いつも助けて貰ってるよ。京平がいるから、頑張れるんだ」
良かった。お父さん元気そう。声が聞けて安心したよ、ありがとね。
京平とは今日もあんなことやこんなことをしたけど、それは黙っておくね。私も大人だし。
「それと今、年末休みだから、勉強頑張ってるんだ。患者様の力になりたいから」
『亜美はいつも無理しがちだからな。張り切りすぎるなよ』
「寧ろもっとしたいのに、京平と信次が1人の時は勉強しちゃダメって言うの」
『そのまま机で寝てたんだろ。亜美は風邪ひきやすいんだから、心配してくれてるんだよ』
「う、どうしてバレたの?」
私の家族は、皆私の事を見抜いてくるなあ。そんなに解りやすいのかな、私。
『ああ、京平からライムで聞いたんだ』
「え、私お父さんのライム知らないよ?」
『ごめんな、隠してた訳じゃないんだけど、後で送るな』
「もー。絶対だよ?」
お父さん、いつのまにスマホ持ったんだろう。
この反応だと、京平も信次もとっくの昔に知ってるんだろうな。きー、悔しいし悲しい。
『2人とも、亜美の事を真っ先に教えてくれるからな』
「私、愛されてるね」
『亜美が2人を愛してるから、愛されてるんだよ』
「うん、私達愛し合ってるもん。勿論お父さんもね」
愛して愛されて、本当に私って幸せだなあ。
いつも家族に助けられてるよ。
『亜美、愛してるよ』
「うん、私も愛してるよ。お父さん」
あ、電話に集中してて気付いて無かったけど、京平がニマニマとしながら隣に座ってる。
そして、私の後ろに回って、後ろから抱きしめてきた。
「うひゃ」
『亜美、どうしたんだ?』
「京平が急に抱きしめて来たの」
『あははは、京平も男だなあ』
もー、父親として、そこは怒るとこでしょうに。
相変わらず、お父さんは優しすぎて参っちゃうよ。
「あとね、信次からも聞いたと思うけど、友達ののばらが、今家にいるんだよ。親と喧嘩したんだって」
『ああ、聞いたよ。私達みたいに解り合える親子ばかりじゃないからね。仲直り出来るといいんだが……』
「うん、今はのばら笑ってるけど、やっぱり心配で」
『信次も亜美もいるし、のばらさんは大丈夫だよ。2人が大切にしてるんだからね』
「お父さんがそう言ってくれるなら、大丈夫な気がする。ありがとね」
のばらの事はかなり不安だったから、そう言って貰えて良かった。
私達で大切にしていけば、大丈夫だよね。私達で守っていかなくちゃ。
『亜美、無理はするんじゃないぞ』
「お父さんこそだよ。電話、大丈夫だった? ごめんね、私の我儘で」
『亜美と信次の元気な声を聞けて安心したよ。ありがとな』
「また電話するね。あ、京平に替わるけど、大丈夫?」
『うん、大丈夫だよ』
私は京平に振り向いて、京平に電話を渡した。
「京平、電話出れる?」
「うん、ありがとうな」
信次「お父さん、元気そうで良かった」
亜美「だね。笑い声が聞けて良かった」
京平「少しずつ、鬱も良くなって来てるな。これからも俺たちで支えていかなきゃな」