笑ってよ。
「うう、気持ち悪い……」
「だめだ、俺も起き上がれない」
私達は海里くんを除いて、皆体調を崩して、布団へ横になっていた。
一応皆痛み止めは飲んだんだけど、中々すぐには効かないようで。
あのラーメンやばすぎる。一口食べただけなのに、身体全身が拒否してるみたいで、一気に気持ち悪くなっちゃった。
「吐くもん吐いたのになあ」
「少し休んどけよ。身体が参ってるんだよ」
京平も苦しいのに、私のお腹を摩ってくれてる。
ありがとね。少し安心したよ。
「少し休めば大丈夫だろうけど、皆ダメだったら病院行かなきゃな」
「一口でこの威力はやばいよね」
「既にクレームのメールは送ったけどな」
ラーメンの会社は九久平カンパニー。
なんかどっかで聞き覚えがあるんだよなあ。
絶対クレームだらけだろうなあ。このラーメン。
今すぐ販売停止しないと、次なる被害者が出ちゃうよ。
「お店の人には美味しいって言われたんだけどな」
「お店の人、多分食べてないよ!」
兎にも角にも、お互い身体をやられてしまったので、のんびり寝そべる。
カツ丼食べられるかなあ。楽しみにしてるから、何とか身体を治さなきゃ。
「しばらく寝ときな」
「気持ち悪くて眠れないよ」
「吐くもん吐いたなら寝るしかないだろ。よしよし」
京平は優しく頭をポンポンしてくれた。いつだって優しいから、私はいつも助けられてるよ。
「すこし落ち着いてきた。ありがとね、京平」
「気持ち悪いの増しちゃうならしないけど、抱きしめてもいい?」
「抱きしめてほしいな」
「じゃあ、俺もお願いするよ」
お互いを抱きしめ合う。辛い時こそ、側にいるからね。
なんだか、すごく安心してきたよ。
「やっと眠れそう。ありがとね京平。おやすみ」
「おやすみ、亜美」
京平はおでこにそっとキスをしてくれた。
◇
それから、どれだけの時間が経ったのだろう。
気持ち悪さも消え失せて、かなりすっきりしてきた。
「京平、おはよ」
って、声を掛けたんだけど、京平はまだぐっすり寝ている。
私は京平をポンポンする。そして、優しく抱きしめた。世界一大切な京平だから。
そして私は京平に口付けをする。愛してるよ、京平。
「亜美、おはよ。照れるな」
「おはよ、京平。体調は大丈夫?」
「ああ、一眠りしたら良くなったよ。亜美も大丈夫か?」
「うん、私も元気だよ。お腹は減ってるけど」
そう、吐くもん吐いたから、お腹がぺこぺこ。美味しいもの食べたいなあ。
「いまは18時か。ガッツリ寝たな。信次達は大丈夫かな?」
「皆大丈夫だったら、かつどんや行こうね!」
特に信次は、吐いてぶっ倒れたからなあ。心配すぎる。
のばらに関してはお嬢様だし、あんな不味くて、害を及ぼすラーメンを食べたのは初めてだろう。
私達は、リビングに向かった。
「あ、兄貴達やっと起きたの?」
「お寝坊さんですわ」
「腹減ったー!」
およ、皆起きてるじゃん。私達が1番お寝坊だったみたいだね。
てか、海里くんは昼食べてるじゃん。私達は昼も食べてないのに!
とは言え、海里くんが食べたのは、害しかないラーメンだけど。海里くん何故大丈夫なの?
「工事業者さんも、キッチンの工事が終わって帰ったよ。家に僕らが食べたラーメンあるらしいから、帰ったら捨てなきゃって怯えてた」
「あのラーメン、売れてるんだなあ。怖すぎる」
私達が食べた事で、工事業者さんを救えたなら良かった。
私達をみて、顔真っ青になってたもんね。
「信次の事も心配してくれてたし、後日お礼しないとな」
「吐いてぶっ倒れたもんね、僕」
「掃除も手伝ってくれたしな」
そう、工事業者さんも、私達を気遣って掃除を手伝ってくれたから、私はすぐ休む事が出来たのだ。
そこまでする必要ないのに、感謝しかないよ。
「工事業者さんには明日お礼に行くとして、お腹減ってるよな?」
「もちろん」
「美味しいものを食べたいのですわ」
「1人で勉強してたし、1番腹減ってる自信あるっす!」
「私も沢山食べたい!」
「うし、決まりだな。かつどんや行くか」
皆元気になって良かった! 気兼ねなくカツ丼を食べられるね。
武さんのご飯美味しかったし、楽しみだなあ。
「今日は俺の奢りだから、沢山食えよ」
「よっしゃ! 京平さんあざす!」
「わーい、沢山食べよ」
「のばらは大盛にしますわ」
「俺の判断ミスで、やばいもん食わせちまったしな」
なんかこんな和気藹々としてる時間もいいね。
私達は話しながら、かつどんやに向かう。
どんな味なんだろう。ワクワクするよ。
「楽しみにしとけよ、亜美」
京平はそう言いながら、手を繋いでくれた。
寒空だけど、手を繋ぐと温かいね。
「まだまだ寒いね」
「亜美と手を繋げるから、俺は嬉しいぞ」
「ありがとね、京平。けど、夏も手を繋ぎたいな」
京平と手を繋ぎたくなるのは、寒いからだけじゃないよ。安心するからだよ。
解ってないなあ。私はそう思いながら握り返した。
「一緒にいる時は、こうやって繋ごうね」
「ありがとな、亜美」
あ、信次が私達をチラ見してる。そんで、のばらの手を繋いだ。
恥ずかしがっちゃって。まだまだ若いなあ。
何故か海里くんも信次の手を繋いだけど。
海里くん、空気読めよ!
「海里くん、寂しかったのかな? 産まれた頃から信次と一緒だったもんな」
そう、信次と海里くんは家がご近所さんってこともあり、産まれた時から両親の絡みがあった。
その縁もあり、今に至るって感じ。
京平がどうしても迎えに行けない時は、海里くんのお母さんが迎えに行くこともあったし、逆も然り。
親友を取られた気分になっちゃったのかな?
「なんかお父さんに電話したくなっちゃった」
「ん、どうして?」
「信次の小さい頃を思い出したら、何となく」
「信次ものばらさんの事伝えたいだろうし、ご飯食べたら電話しよっか」
「うん、そうしよ!」
お父さんも大切な家族だから、声聞きたくなるんだよね。
いつかは一緒に暮らせるかな? 本当は会いたくてたまらないよ。
そんなしんみりしている最中、かつどんやに着いた。
昨日行った勝田家から、大分近いなあ。
「兄貴、早く早く!」
「慌てるなよ、席は逃げたりしないだろ」
「満席にはなるじゃん!」
信次テンション高いなあ。
そりゃそっか、信次カツ丼大好物だもんね。
私達は混み合った店内の中から、何とか5人座れる席を見つけて座った。
「お、深川先生じゃん。いらっしゃい」
「勝田さんじゃん。お手伝いか」
「そ、混み合う時間帯だしね。注文決まってる?」
えっと、メニュー表にはカツ丼と生ビールしかないや。それなら。
「私、カツ丼!」
「俺、大盛り」
「のばらも大盛りですわ!」
「僕も!」
「じゃあ、俺も大盛りお願いしまっす!」
なんぞ? 大盛りって? メニューにないじゃん。
「時任さんは普通盛りでおっけ?」
「じゃあ、私も大盛り!」
メニューにないけど、ありならそりゃ沢山たべたいよ! 私も大盛りにした。
「じゃ、大盛り五つね。ちょっと待ってて」
勝田さんはメモを素早く取って、厨房にいる武さんにメモを渡した。
あ、武さん私達に気付いたね。笑顔で、手を振ってくれてるや。私も手を振って応えた。
「よく行くようになったキッカケは、武の笑顔だったな。癒されるんだよ。あいつの笑顔」
「でも、私達を育てる事を優先してくれたんだね」
「当たり前だろ。生半可な覚悟で了承しないよ。それに、亜美達からも元気貰えてたし」
「ありがとね、京平」
常連のお店に行けなくなったり、勤務時間も短くなったり、私達を育てる為に色々無理してくれたんだね。
改めて、京平に出逢えてよかったなって思う。
ある意味、そんな育ての親を愛した私って、かなり変わり者かもしれないね。
でも愛したもんはしょうがない。よね?
「亜美に出会ったばかりの俺に言っても信じないだろうな。亜美を異性として、愛するようになるなんて」
「京平としても予想外だったんだね」
「それだけ亜美が魅力的だったんだ。しょうがねえだろ」
京平ったら、ムスっとしながら照れてるや。そんなとこも愛してるよ。
「兄貴達、2人でイチャついてないで、皆で話そうよ」
「あ、ごめん」
いけない、つい京平と長々話してしまった。
「いやあ、武のカツ丼食べるの久々だから楽しみだわ」
「めちゃくちゃ美味しかったよ!」
「のばらは大盛りを5杯はたべますわ!」
「しかもここ安いんだよ。俺も家族で良く来るよ。しかもバリ美味えし」
「と言う事は、ここのカツ丼食べた事ないの私だけかあ」
京平め。もっと早く連れて来てほしかったよ!
私達充分大人なのに、なんでこんなに遅いのさ! もー!
「だって亜美も忙しかっただろ、ここ最近。看護学校時代はもっと時間なかったし」
それもそっか。私の高校時代は、まだ信次も小さかったしね。
色々重なった上での今、なんだね。
てか、また私を読み取ってくるなあ京平。なんなら、もう慣れて来たまである。
それなら私が京平愛してるって事も、もっと早く読み取ってほしかったなあ。なんて、ね。
「皆お待たせ、カツ丼大盛りだよん!」
「待ってました!」
うひょ、大盛りってだけあって、カツも分厚いしボリューミーだなあ。そんでもって美味しそう!
てか勝田さん、5人前を一気に運べるなんて、腕力あるなあ。
「なっちゃん、有難いけど無理しないでね」
「じょぶしょぶ!」
勝田さん今日からお手伝いなのに、なんか余裕あるなあ。
「うし、たべよ!」
「「「「「いただきます!」」」」」
「うほ、カツが分厚くてめちゃくちゃジューシーだし、卵と絡み合うともっと最高! 出汁の味も素敵!!」
「亜美も気に入ったみたいで良かった」
「うん、めちゃめちゃ美味しいよ!!」
うわ、信次とのばらはもう無くなりそう。2人ともよく食べるなあ。
昼ご飯は無かったようなもんだし、そりゃ沢山食べれちゃうよね。
「おかわりー!」
「ああ、のばらも!」
「もっと味わえよ。まあ、俺もおかわりだけど」
武さんのカツ丼が美味しすぎて、もう3人がおかわりを決めたぞ。
「勝田さーん」
「はいよ、おかわりだね?」
「カツ丼3つ大盛りで」
「りょっかい! ちょっと待っててね」
3人ともすごいなぁ。でも、私も早くないけどおかわりはしたいな。美味しいもん。
でも次は普通のにしよう。太っちゃうもん。
「武ー、腕上がったな! 美味かったぞ!」
「それなら良かった。京くんに喜んで貰えて嬉しいよ。おかわりも待っててね」
京平すごい笑顔だ。私も嬉しいなあ。
それだけの力がこのカツ丼と武さんには溢れているんだね。
カツ丼は上手じゃないけど、私もそんな人間になりたいな。
「勝田さん、私もおかわり!」
「はいよ、大盛り?」
「太っちゃうから、普通盛りで」
「それなら野菜丼にする? 美味しいよ!」
「え、そんなメニューもあるんですか?」
「裏メニューで、ね」
そんな訳で、私のおかわりは野菜丼になった。
一体どんなメニューなんだろう?
「はい、深川先生達の大盛りね!」
「うほ、おかわりも美味そう!」
「わほーい!」
「素晴らしいのですわ」
あれ、そう言えば海里くんはおかわりしないのかな? 私達が早いだけ?
「海里の丼、空じゃん。おかわりしないの?」
「え、普通にお腹いっぱいだよ。何言ってんだ?」
ありゃ? 私達が食べ過ぎだっただけ?
確かに普段から満腹まで食べるけどさ!
勿論信次達は海里くんをお構いなしに、おかわりを堪能してるし、きっとまたおかわりするんだろうな。
「はい、時任さん。野菜丼ね!」
「うほ。カツ丼の野菜バージョンだ!」
野菜丼は、茹でた野菜を卵で絡めて、出汁を効かせて食べる丼みたい。
どれどれ。
「お、野菜の感触と卵がまたいいね! 出汁もいい感じ。ヘルシーだけど美味しい!」
「ダイエットにはピッタリよん。まあ、カツ丼大盛り食べてる時点で手遅れかもだけど」
「う、それは言わないで下さいよ!」
うう、でも確かに私のダイエット作戦は手遅れだなあ。
京平もお腹いっぱい食べるから、走らないだろうしなあ。
今も幸せそうな顔してカツ丼食べてるや。可愛いなあ、もう。
「亜美もカツ丼おかわりすりゃいいのに」
「野菜丼も美味しいよ!」
これ以上は食べすぎないようにしなきゃ。
京平と並んでも、可愛いって言われる私でいたいし。今の時点ですでにダメかもだけどー!
「亜美は可愛いよ」
ちょ、不意打ちやめてよ。めちゃくちゃ照れるじゃん。
「確かに糖尿病の事もあるから、食べ過ぎは良くないけど、我慢はもっと良くないぞ。昼は食べ物じゃないの食べちまったんだし」
「京平はもっと、自分がイケメンだって自覚を持ってよ。並んで歩いてる時に、京平に恥ずかしい思いさせたくないよ」
「ばーか。俺は亜美だから並んで歩きたいし、亜美が我慢するのは嫌なの。気難しい顔してないで、笑ってよ」
あ、私、笑えてなかったんだ。美味しいご飯食べてるのに、それは良くないよね。
「野菜丼も美味しかったけど、やっぱカツ丼食べたいや。おかわりしよ!」
「一緒に食べような」
京平は笑いながら、空っぽの丼を見せて来た。
京平「亜美は色々気にしすぎなんだよ。俺はどんな亜美でも、隣を歩いてくれたら嬉しいんだよ」
亜美「そうだよね。京平が私を選んでくれたんだもんね」
京平「どうせ気にするなら、ヘモグロビンA1cを気にしなきゃな」
亜美「うう、がんばるぞー!」