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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
お受験勉強と僕ら
113/238

新婚さん家の夜ご飯

 信次とのばらと海里くんは勝田さんと、私と京平はかつどんやの店長と話しながら、店長達の家へ向かった。


「京平さんからも、好きな人ができた事と、付き合えた事、連絡くれたもんね」

「ああ、子供達と暮らすようになって、気付いたら亜美に惚れて、って流れでな」


 でも京平、かつどんやの店長さんと仲良いなあ。何かあったのかな?


「明日、俺からも挨拶に行こうと思ってたんだ。店長のカツ丼食べたかったし」

「子供達が大きくなったらまた来る約束、忘れてないからね?」

「ねえ、京平、なんでかつどんやさんと仲良いの?」


 すると京平は、ニコリと笑う。


「まだ亜美達と暮らす前、かつどんやの常連だったんだよ。で、店長と意気投合して、仲良くなったんだ」

「色々お世話になったんだよ。良い税理士さん紹介してくれたり、なっちゃんとの事も相談に乗ってくれたり」

「ああ、大学時代、税理士事務所でバイトしてたからな、俺」


 ほええ、京平にそんな過去があったのは知らなかったなあ。

 きっと、まだまだ知らない京平が隠れてるんだろうな。いつか見つけたいな。


「なっちゃんの笑顔を、守れて良かった」

「だから俺も言ったじゃん。あの人は仕事嫌いじゃないから、食わせていかなきゃとか、考える必要ないって」

「無理してるのかと思って。京平さんの言う通りだったよ」

「確かに勝田さん、いつも笑顔だったよ。休憩室で見かけた時は」

「そこ勘違いして、35歳になって付き合いもせずプロポーズって逆に格好良いけどな」


 ほえ?! 付き合いもせずにプロポーズしたんだ。

 それだけお互いのことを、もう解っていたんだろうなあ。


「って、話してたら、なっちゃん達と大分離れちゃった」

「店長道知ってるでしょ。俺達のペースで行こ」

「そうですね、私も店長さんの話聞きたいです!」


 それから私達は、かつどんやの店長の惚気話を、微笑ましく聞きながら、店長の家に辿り着いた。


「武、遅いよー!」

「ごめんね、なっちゃん」

「皆、狭い食卓で悪いね」

「そういえば、2人とも私とは初めましてですよね?」


 私は2人揃った所で、ようやく話す事が出来た。

 初めましてだよね、ってことを。


「ああ、私は一方的に知ってたけど、話すのは初めてだね」

「あれ、私の事知ってたんですか?」

「だって、時任さんの入社日、深川先生が全職員に挨拶をしてたから。妹がお世話になりますって」


 京平、私の入社日にも、そんな事してたんだ。

 いつだって優しい。


「ありがとね、京平」

「当たり前の事をしただけだよ」

「と、私は五十嵐病院保育センターの保育士の、勝田菜月。よろしくね!」

「その旦那……って、照れるね。の、勝田武。かつどんやの店長です」

「深川先生の妹であり彼女の、看護師の時任亜美です」


 こうして自己紹介を終えたところで、のばらが口を出す。


「お腹空きましたわ……」

「あ、ちょっと待っててね。すぐ作るから。何がいいかな?」

「かつどんやには明日行くから、カツ丼以外がいいな」

「よし、有り合わせになっちゃうけど、待っててね」


 もう京平の中で、明日はかつどんやって決まってるんだなあ。

 でもカツ丼は信次の大好物だし、勉強の糧になりそうだね。


「武さんのカツ丼めちゃくちゃ美味しかったから、普通のご飯もすごい楽しみ」

「あ、もう食べた事あるんだね。そんなに美味しかったの?」

「うん、僕5杯おかわりしたもん。明日も楽しみだなあ」


 信次がそこまでがっつくなんて珍しい。私も楽しみになって来たぞ。

 それにしても店長さん……武さんは何を作るのかな?


「へえ。店長、武っていうのか。これからは武って呼ぼ」

「京平知らなかったんかい!」

「下の名前聞いた事無かったからな。ライムもかつどん勝田って名前だったし」

「笑えるよね。武、カツ丼大好きすぎるもんね」


 仲良くても知らない事って、あったりするんだなあ。

 私が京平の過去を、全部は知らないのと同じだね。

 敢えて聞かないようにしてるのもあるけど。


「おまたせ、まずは一品目ね」

「うほ、きんぴらだ! 俺大好物っす!」

「あ、武。ご飯私がよそうね」

「ありがと、なっちゃん」


 おお、美味しそうな金平牛蒡だ。

 金平牛蒡って、牛蒡切るのが大変なのに、武さんは手際がいいなあ。

 

「はいよー、ご飯ね」

「勝田さん有難うございます!」


 え、ご飯もなんかツヤツヤなんだけど!

 職人の技が、ただご飯を炊くだけでもあるのかな?


「武ー、ご飯どう炊いてるの?」

「うわ、京平さん! 急に武呼びされてビビった。後でライム送るね」

「てか俺達タメだし、好きなように呼んでいいよ」

「うん。これからも宜しく、京くん」


 武さんと京平の友情が、また深まったね。

 武さんって、見た目ゴリマッチョだし、背もかなり高いし、顔もイカついんだけど、凄く優しい人だから、京平ともウマがあったんだろうな。


「先食べててね」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

「「「「「いただきます」」」」」


 どれどれ……。


「うほ、美味しい。牛蒡の食感もさることながら、味も染み込んでて、全部を口に合わせた時のハーモニーがああああ!」

「美味いっす!!」

「武の料理美味しいでしょ!」


 何故か勝田さんが胸を張ってる。うん、確かに武さんの料理美味しい! 白米も美味しい!


「ぷはー! 金平牛蒡にビールは最高だわ」


 勝田さんは、キッチン近くに置いてあるビールサーバーで、ビールジョッキにビールを注いで、一気に呑む。

 家でも生ビールが楽しめるやつだね。京平はそれを見て。


「うう、俺も呑みたいんだけど」

「ダメだよ!」


 京平には可哀想だけど、薬の副作用は怖いからね。

 

「あれ、京くん、店で飲んでたよね?」

「亜美に呑むなって言われてるから、今は禁酒してるんだ。20歳から精神病の薬飲んでるからさ」

「今まで何で呑んでたの? これからはダメだよ」


 やーいやーい、武さんにも叱られてやんの。

 呑んでた過去を大いに反省してね!


「はい、2品目ね。豚の生姜焼きだよ」

「またビールに合いそうじゃん。美味そう」

「武解ってんじゃん! ビールおかわりしよ!」


 京平が可哀想になるご飯が出て来たけど、心を鬼にしなければ。

 うんうん、豚の生姜焼き、ビールにめちゃ合うもんね。


「生姜焼きも美味しい! 生姜と醤油の風味が、豚肉の油と絡まって、本当最高!」

「ぷはー、ビールが美味い。今日は呑むぞー!」

「羨ましい。でも生姜焼き美味い」

「信次以上の生姜焼き初めて食べた。美味すぎる」

「何が違うんだろ。美味しい!」


 武さんの料理は優しくて、本当に美味しいな。

 料理って人柄が出るもんね。

 一体何が違うんだろ。私も信次以上の生姜焼き、初めて食べたからなあ。

 シンプルな料理だからこそ、解らないよ!


「はい、ラストでお味噌汁。なっちゃん、お客さんいるから呑みすぎないようにね」

「明日、私休みだし、いいでしょ?」

「いいけど、程々にしなよ」


 そして勝田さんは、武さんが料理を作ってる最中、めちゃ呑んでるなあ。

 でも、武さん嬉しそう。勝田さんの笑顔が、本当に好きなんだろうなあ。


「やべ、信次以上の味噌汁初めて飲んだわ。美味い」

「本当に何が違うの? 今までのご飯達とも、相性抜群だし美味しい!」

「お味噌のコクもありながら、出汁がバッチリ効いてて最高。お豆腐も良い感じ!」


 料理を終えた武さんも、食卓に座る。おおう、やっぱり大きいなあ。


「武お疲れ、ご飯作ってくれてありがとね。皆嬉しそうだよ」

「喜んで貰えて良かった。大切なお客さんだからね」

「こんなに賑やかしいの初めてだもんね」

「ご飯、とっても美味しかったです!」

「のばらなんて美味しすぎて、言葉にならないみたいだしね」


 そういえばなんか静かだな、と思ったら、のばら、ご飯の最中一言も喋ってないや。

 相当美味しくて感動してるようで、なんか泣いてるし!


「のばら、大丈夫?」

「大丈夫ですわ。美味しすぎて感動してますわ」

「まだまだあるから、沢山食べてってね」


 うほ、武さん沢山作ってくれてたようで、おかわりも持って来てくれたぞ。

 のばらは嬉しそうに食べ続けてる。信次はちょっと嫉妬したみたいで悔しそう。

 プロの料理人は、やっぱ違うなあ。


「なっちゃんとご飯食べられるの嬉しい」

「可愛い事言うじゃないか。これからも一緒に食べようね」


 そして新婚さんは熱いね、いいねいいね。


 ◇


「ごちそうさまでした。今日はありがとな」

「どういたしまして。また遊びに来てね」

「深川せんせ、ばいばーい。すー、すー。」

「もう、なっちゃんってば。呑みすぎないでねって言ったのに」


 ご飯をご馳走になった私達は、その後洗い物やら片付けを手伝った後、帰路に着いた。

 勝田さんはその後も呑み続けた結果、現在爆睡中。

 武さん曰く、呑みすぎちゃうと寝ちゃうんだって。

 でも、武さんは凄く優しい顔をして、勝田さんを見ていた。


「新婚さんっていいね」

「そうだな、仲良い姿も微笑ましかったよ」

「僕達もあんな風になれたらいいね、のばら」

「そうね、憧れますわ」

「俺も彼女欲しいいいいい」


 海里くんは空気読めるようにならんと、モテないと思うよ。多分。


「さ、帰ったら勉強の続きだからな」

「頑張らなきゃ」

「そう言えば、お風呂冷めちゃってるかも」

「追い焚きを試せるぞ、亜美」

「お、それは押したい!」


 帰ったら、今日こそ一緒にお風呂入りたいな。

 そんな事を考えながら、私は京平の手を握る。

 すぐに握り返してくれる優しさに、ちょっとドキドキしながら。

武「なっちゃん、布団いこうね、よいしょ」

菜月「むにゃ、武愛してるよ」

武「なっちゃん……!」

作者「熱いねえ、新婚さん」

海里「ああ、帰ったら勉強かあ」

信次「頑張らなくちゃ!」

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