厚かましい私達
「んー、よく寝た!」
夜は久々の低血糖になったのもあって、ちょい怠かったけど、もう大丈夫。
今日は京平も抱きしめて寝てくれたしね。寝顔が愛しいよ。
今日から、信次と海里くんの勉強合宿をやるみたい。
朝はのばら、昼から京平が担当するらしいから、京平はまだ寝てるや。
私も朝の家事とか、協力出来る事はしなきゃ。
後は、お風呂とキッチンの工事も今日みたい。
キッチンが使えなくなるから、京平と2人で、今日の昼ご飯と夜ご飯を昨日の内に作ったから大丈夫、な、はず。
足りなかったらコンビニかスーパーに走らなきゃ。
私が布団から起きようとすると、京平が眠そうな顔で私を引っ張る。
「亜美、どこいくの?」
「え、朝の家事しに」
「亜美は昨日徹夜して、昼ご飯作っただろ。一緒に寝よ?」
「じゃあ、そうしようかな。京平、抱きしめて」
「おいで、亜美」
私は京平の胸に飛び込んだ。温かいや。
「亜美と一緒に寝たいんだ。1人はやっぱ寂しい」
「今日は一緒にいるからね」
「おやすみ、亜美」
「おやすみ、京平」
いつも休みの日は、京平をひとりぼっちで寝かせてたもんね。
本当は一緒に寝たかったんだね。
でもね、信次には悪いんだけど、今日は私もそうしたかったんだ。
ずっと側にいるからね、京平。良い夢見てね。
◇
ーーキュイイイイイイン。
朝10時、けたたましい騒音に私達は目を覚ました。
「京平、おはよ」
「亜美、おはよ」
「そうだ、今日キッチンとお風呂の工事だから、そりゃうるさくなるよね」
「正直、まだ寝足りない……漫画喫茶いこ?」
そんな訳で漫画喫茶で寝る事にした。
お互い簡単な服装に着替えて、リビングに向かう。
「おはよ、信次、のばらさん、海里くん」
「みんなおはよー!」
「あ、京平さん! もう勉強みてくれるんですか!」
「ごめん。かなり眠たいから漫画喫茶行こうかなって」
「おはよ、兄貴、亜美。うるさいもんね」
「亜美、深川先生、おはようございますわ」
ああ、京平うつらうつらしてる。相当眠いんだろうなあ。
私は京平の腕を自分の肩に巻いて、玄関まで向かう。
「いってきまーす」
「いってき、ま、すー」
「京平寝ちゃダメだよお」
うう、私京平を自力で運べないからなあ。
ごめんね京平、漫画喫茶まで頑張って歩いてね。
こうして私達は、ゆっくり歩き出した。
「すー、すー」
「京平、寝ちゃダメえええ!」
「ああ、ごめん。静かになると、寝ちまうわ」
「じゃあ、一緒に歌いながら行こう」
「たまにはいいかもな」
私達は、お互いに好きな歌を交互に選んで、歌いながら漫画喫茶に向かう。
京平の歌、やっぱり好きだなあ。心地いいし、京平の顔が見えるから。
一瞬に歌うの、楽しいな。京平と何かするの好き。
「「至らないよなー♫」」
歌っている内に、漫画喫茶に着いた。
私達は歌うのをやめたんだけど、そしたら京平はまたうつらうつら。
もー。眠たい京平、寝付きが良すぎるよ!
「すみません、カップルシートで大人2名」
私は京平と私の会員カードを、定員さんに見せた。
付き合う前から、たまに2人で漫画喫茶には行ってたからね。
「7、8番の部屋へどうぞ。ごゆっくり」
「すー、すー」
私は既に寝ているけど、歩いてはいる京平を部屋まで案内して、備え付けの枕に寝かせた。
「すー、すー。亜美、何処? 寂しいよ」
私が側で寝ないと悪い夢を見る仕様なのかな、京平って。
すぐ側にいくよ、安心してね。
私は京平の腕に飛び込んだ。備え付けの毛布をかぶって、おやすみなさい。
「すー。亜美、良かった。側にいて」
京平は寝ながら私を抱きしめてくれた。うん、ずっと側にいるからね。
私も京平をギュッと抱きしめた。
「おやすみ、京平」
◇
それからどれだけの時間が経っただろう。
私も夜更かししてたから、すぐにぐっすり寝てしまったし。
何より、京平の腕枕が気持ちよくて、凄く安心して眠れたのもあるけど。
先に目を覚ましたのは京平だった。
「亜美、そろそろ起きな」
「むにゃ。おはよ、京平」
「おはよ、亜美」
京平が優しい顔をしてたから、思わず笑って私は目覚めた。
久々に沢山寝た感覚があるなあ。今何時なんだろ?
「京平、いま何時?」
「16時。俺も今起きたとこ。寝過ぎたわ」
「やば、早く帰らなきゃ!」
のばら大丈夫かなあ、2人を1人で見てるって事じゃん。
本当に京平と私が、寝坊助で申し訳なさすぎる!
私達はお会計を済ませると、全力でダッシュする。けど、私がすぐにバテてしまったので。
「ほい、亜美。おんぶするから」
「うう、ごめんね」
「そこはありがとだろ。いくぞ」
京平は猛ダッシュで、駆け抜けていく。
うおお、風になった気分。やっぱ京平、足速いなあ。
ぐんぐん家まで近づいていくよ。
「おし、着いたぞ。亜美」
「ありがと、京平」
私は京平の背中から降りて、2人で玄関に向かう。
「「ただいまー!」」
「おかえり、兄貴、亜美。しっかり眠れた?」
「おかげさまで。遅くなってすまんな」
「予測してたから大丈夫ですわ。朝ご飯食べてくださいな」
「寝坊助っすね。京平さんも亜美さんも」
かなり遅くなったんだけど、皆予測してくれてたみたい。
本当にごめんね、のばら、信次。と、空気読めない海里くん。
キッチンの増築工事は2日かけてやるとのことで、今日は18時までやるみたい。
お風呂は、追い焚きの機能と自動で湯はりする機能の追加で、こちらは18時で終わるらしい。
さ、朝ご飯食べよっと。
「亜美の顔色も良くなって安心しましたわ」
のばらが朝ご飯を運んでくれた。
「ありがと、のばら。え、朝、顔色悪かった?」
「隈がすごかったですわ」
「兄貴と2人で、昼ご飯かなり作ってくれてたもんね。ありがとね」
「京平と作ったから楽しかったよ」
「おう、亜美も成長したしな」
そっか、京平は明らかに眠そうだったけど、私も睡眠を欲していたんだね。
そりゃ16時まですやすや寝ちゃうよね。
「「いただきます」」
「やっぱ信次のお味噌汁美味しい! 何が違うんだろうなあ」
「なんか違うんだよな、俺のより美味いし」
「ありがとね、信次」
「信次、いつもありがとな」
信次の朝ご飯、本当に美味しいの。いつも力をもらってるよ。
「のばらが洗濯物やってくれたしね」
「そうなの? のばらもありがとね」
「ありがと、のばらさん」
「ご飯作れないから、これくらいはやらなきゃですわ」
のばらもありがとね。ただでさえ、信次と海里くんの勉強も見てくれてるのに。
「ご飯食べたらバトンタッチですわよ」
「おう、任せとけ!」
「その間に洗濯物畳まなきゃですわ」
のばら、うちに来て初日なのに、しっかりしてるなあ。偉すぎる。
立場的にはお客様なんだから、甘えてもいいのにさ。
「ごちそうさま。さ、のばらさんは休んでな」
「そうだよのばら。洗濯物は後でいいからさ」
「私もごちそうさま。紅茶淹れるね」
こうして勉強の指導係は京平にバトンタッチ。
京平は解りやすく、信次と海里くんに勉強を教えていく。
天才のくせに指導も上手いんだよな、京平。や、天才だから上手いのか?
「お待たせ、のばら」
「ありがとうございますわ」
のばらは紅茶を飲むと、ホッとした顔をして微笑む。
「落ち着きますわあ」
「長い間ありがとね、のばら」
「いえいえ。2人とも成長してましたから、苦労はしなかったですわ」
海里くんも信次も努力してたんだね。偉いぞ、2人とも。
「私も洗濯物畳んだら、勉強しなきゃ」
「のばらも糖尿病療養指導士の勉強しなきゃですわ。年明けから療養指導に入りますし」
「のばらすごいなあ、もう療養指導出来るんだ」
これは負けてらんないや。もっと頑張らなくちゃ!
「勉強すればするほど、亜美の家のご飯が栄養バランスバッチリすぎてビビりますわ」
「のばらも顔色良くなって来たもんね。前は真っ白だったし」
「信次のおかげですわ。たまに来る時も、美味しい昼ご飯作ってくれましたもの」
のばら、胃袋も掴まれてたんだなあ。
確かに信次のご飯は美味しいからね。
「さ、洗濯物畳みましょ!」
「おういえー!」
◇
「うう、難しい。頑張らなきゃ」
「まずは療養指導に入れなきゃ、糖尿病療養指導士にはなれませんしね。ファイトですわ!」
「はい、2人とも、ポイントはここな」
京平は私達のノートに、赤ペンでポイントを書いてくれた。
「京平、私達の勉強まで見てくれてありがとね」
「今2人がやってんの、俺の専門分野だしな」
ここまでの知識はいらんやろ、ってとこまで書いてくれてるもんな。また私達は成長出来るね。
こうして皆で勉強して、京平に突っ込まれたりを繰り返しているうちに、気付いたらもう夜に18時。
皆集中してたもんなあ。
「じゃあ、今日の工事はここまでにします。くれぐれもキッチンには入らないようにお願いします」
「「「「ありがとうございました」」」」
キッチンの工事業者の人が帰っていき。
「お風呂工事終わりました。それでは失礼します」
「「「「ありがとうございました」」」」
お風呂の工事業者さんも帰っていく。
「ねえ京平、湯はりのボタン押してもいい?」
「その前に風呂掃除な。亜美に任せていい?」
「ばっちこい!」
湯はりのボタン押したさに、私はお風呂掃除をする事にした。
掛けて待つだけってのもあるけど、なんだかんだで自分で磨いたほうが綺麗になるんだよね。
ふー。綺麗になったあ。よし、さっそく湯はりのボタンを押すぞ。てやっ!
『湯はりします』
「うほ、喋った!!!!」
「へえ、湯はりの時、喋るんだね」
「あ、信次も見に来たんだね」
「実は気になってた」
私達にとって、湯はりを自動でしてくれるなんて奇跡みたいなもんだもんね。
私がお風呂作ると、よく溢れさせてたけど、その心配もないなんて凄いよね!
「終わったよー!」
「凄いよ、喋ってたよ!」
あ、京平とのばらが一瞬、「何を当たり前のことを」って、顔をしたぞ?!
もー! 私達にとってには輝かしい瞬間なのに!
そんな顔をした京平ではあるが、私達の顔を見て優しく微笑む。
「そんなに喜ぶなら、もっと早く工事やれば良かったな」
「ありがとね、京平!」
「兄貴、ありがと!」
私達は京平に抱き付いた。暮らしやすくなるのは、やっぱり嬉しいよね。
「仲良いわよね、亜美達」
「本当、羨ましいっす」
それから、キリも良かったから晩ご飯の支度をしようとしたんだけど……。
「あれ、京平が夜ご飯用に作った唐揚げが無い!」
「え、嘘だろ? 100は揚げたぞ、俺」
「え、あれ晩ご飯だったの? その唐揚げだけど、皆で食べちゃった」
「楽しみにしてたのにー!」
嘘でしょ? 昼ご飯は昼ご飯で作ったのに、まさか足りなくなって、夜ご飯の分も食べ尽くすとかあり得る?!
冷蔵庫の中は、もう空っぽだ。
「しゃーねえ。外で食べるか。何がいい?」
そうやって、晩ご飯が無くなってた事にあたふたしていると。
ーーピンポーン。
「あ、お客さんだよ」
「誰かなあ、はーい」
京平が玄関に向かうと、そこには明るい笑顔のお客さんがいた。
「あ、どもー。深川先生!」
「きょ、京平さん?!」
「小暮さんと、かつどんやの店長じゃん。どうしたの?」
あれ、京平の知ってる人なのかな?
女性の方は、たまに休憩室でお見かけする事があったけど。
「え、小暮さんに武さんじゃん」
「よ、時任くん!」
あ、信次も知ってるんだ。
「実は私、昨日から勝田さんになったのだよ」
「結婚したんですね。おめでとうございます」
「これも信次くんと冴崎さんのおかげだからさ。院長に住所聞いて、お礼の挨拶に来たの。えと、次は冴崎さんの家行かなきゃ」
「あ、のばらはここにいますわ!」
ほええ、結婚されたんだ。それはおめでたいなあ。
一体信次とのばらは、何をしてあげたのかな?
なんにせよ、人の手助けをするなんて偉いぞ。
「あ、冴崎さん?! 何で信次くんちに?」
「ま、まあ、色々ありまして……」
「ふーん、詳しくは聞かないけどさ。冴崎さんもありがとね。私を後押ししてくれて」
「なっちゃん、変に考えるクセがあるから、本当にありがとうございました」
のばらも知ってるのか。つまり私だけ知らないんじゃん!
仲間はずれ感が半端ない。ぶー。
「全部掴めましたか? 小暮さん。あ、勝田さんでしたわね」
「うん。2人と、武の優しさで全部掴んだよ」
旧姓が小暮さんで今は勝田さんな女性は、嬉しそうに笑っていた。
結婚、私もいつかは京平としたいなあ。その気はあるよっていってくれたもんね。
「あ、そうだ、店長。お願いがあるんだけど」
「京平さんの頼みなら聞くよ。何かな?」
「実はうち、今日キッチン使えなくて……かつどんや休みなのは知ってんだけど、店にカツ丼食べに行ってもいい?」
京平、それは凄く厚かましいのでは?!
でも京平、外食にはうるさすぎるからなあ。
ここは美味しくなかった、ここは脂っこいだの。
決まらなすぎて、ご飯抜きになりかけた日もあったし。
その時はまだ小さな信次がご飯を作って、事なきを得たけど。
そんな京平も認める店なんだなあ、かつどんやさんって。
「そんな事なら、店は開けないけど、うちに食べにおいでよ。カツ丼も作れるしさ」
「え、いいんですか?」
「京平さんにはお世話になりましたから」
もっと厚かましい事になったよ!
そんな訳で私達4人は、勝田さんのお家のご飯をいただく事になったのだった。
亜美「京平、厚かましいってば」
京平「だって近場に美味しい店って、かつどんやしか知らないし」
武「気に入って貰えて光栄です」
信次「どんな料理作ってくれるのかな?」