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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
お受験勉強と僕ら
112/238

厚かましい私達

「んー、よく寝た!」


 夜は久々の低血糖になったのもあって、ちょい怠かったけど、もう大丈夫。

 今日は京平も抱きしめて寝てくれたしね。寝顔が愛しいよ。


 今日から、信次と海里くんの勉強合宿をやるみたい。

 朝はのばら、昼から京平が担当するらしいから、京平はまだ寝てるや。

 私も朝の家事とか、協力出来る事はしなきゃ。

 後は、お風呂とキッチンの工事も今日みたい。

 キッチンが使えなくなるから、京平と2人で、今日の昼ご飯と夜ご飯を昨日の内に作ったから大丈夫、な、はず。

 足りなかったらコンビニかスーパーに走らなきゃ。


 私が布団から起きようとすると、京平が眠そうな顔で私を引っ張る。


「亜美、どこいくの?」

「え、朝の家事しに」

「亜美は昨日徹夜して、昼ご飯作っただろ。一緒に寝よ?」

「じゃあ、そうしようかな。京平、抱きしめて」

「おいで、亜美」


 私は京平の胸に飛び込んだ。温かいや。


「亜美と一緒に寝たいんだ。1人はやっぱ寂しい」

「今日は一緒にいるからね」

「おやすみ、亜美」

「おやすみ、京平」


 いつも休みの日は、京平をひとりぼっちで寝かせてたもんね。

 本当は一緒に寝たかったんだね。

 でもね、信次には悪いんだけど、今日は私もそうしたかったんだ。

 ずっと側にいるからね、京平。良い夢見てね。


 ◇


ーーキュイイイイイイン。


 朝10時、けたたましい騒音に私達は目を覚ました。


「京平、おはよ」

「亜美、おはよ」

「そうだ、今日キッチンとお風呂の工事だから、そりゃうるさくなるよね」

「正直、まだ寝足りない……漫画喫茶いこ?」


 そんな訳で漫画喫茶で寝る事にした。

 お互い簡単な服装に着替えて、リビングに向かう。


「おはよ、信次、のばらさん、海里くん」

「みんなおはよー!」

「あ、京平さん! もう勉強みてくれるんですか!」

「ごめん。かなり眠たいから漫画喫茶行こうかなって」

「おはよ、兄貴、亜美。うるさいもんね」

「亜美、深川先生、おはようございますわ」


 ああ、京平うつらうつらしてる。相当眠いんだろうなあ。

 私は京平の腕を自分の肩に巻いて、玄関まで向かう。


「いってきまーす」

「いってき、ま、すー」

「京平寝ちゃダメだよお」


 うう、私京平を自力で運べないからなあ。

 ごめんね京平、漫画喫茶まで頑張って歩いてね。

 こうして私達は、ゆっくり歩き出した。


「すー、すー」

「京平、寝ちゃダメえええ!」

「ああ、ごめん。静かになると、寝ちまうわ」

「じゃあ、一緒に歌いながら行こう」

「たまにはいいかもな」


 私達は、お互いに好きな歌を交互に選んで、歌いながら漫画喫茶に向かう。

 京平の歌、やっぱり好きだなあ。心地いいし、京平の顔が見えるから。

 一瞬に歌うの、楽しいな。京平と何かするの好き。


「「至らないよなー♫」」


 歌っている内に、漫画喫茶に着いた。

 私達は歌うのをやめたんだけど、そしたら京平はまたうつらうつら。

 もー。眠たい京平、寝付きが良すぎるよ!


「すみません、カップルシートで大人2名」


 私は京平と私の会員カードを、定員さんに見せた。

 付き合う前から、たまに2人で漫画喫茶には行ってたからね。


「7、8番の部屋へどうぞ。ごゆっくり」

「すー、すー」


 私は既に寝ているけど、歩いてはいる京平を部屋まで案内して、備え付けの枕に寝かせた。

 

「すー、すー。亜美、何処? 寂しいよ」


 私が側で寝ないと悪い夢を見る仕様なのかな、京平って。

 すぐ側にいくよ、安心してね。

 私は京平の腕に飛び込んだ。備え付けの毛布をかぶって、おやすみなさい。


「すー。亜美、良かった。側にいて」


 京平は寝ながら私を抱きしめてくれた。うん、ずっと側にいるからね。

 私も京平をギュッと抱きしめた。


「おやすみ、京平」


 ◇


 それからどれだけの時間が経っただろう。

 私も夜更かししてたから、すぐにぐっすり寝てしまったし。

 何より、京平の腕枕が気持ちよくて、凄く安心して眠れたのもあるけど。

 先に目を覚ましたのは京平だった。


「亜美、そろそろ起きな」

「むにゃ。おはよ、京平」

「おはよ、亜美」


 京平が優しい顔をしてたから、思わず笑って私は目覚めた。

 久々に沢山寝た感覚があるなあ。今何時なんだろ?


「京平、いま何時?」

「16時。俺も今起きたとこ。寝過ぎたわ」

「やば、早く帰らなきゃ!」


 のばら大丈夫かなあ、2人を1人で見てるって事じゃん。

 本当に京平と私が、寝坊助で申し訳なさすぎる!

 私達はお会計を済ませると、全力でダッシュする。けど、私がすぐにバテてしまったので。


「ほい、亜美。おんぶするから」

「うう、ごめんね」

「そこはありがとだろ。いくぞ」


 京平は猛ダッシュで、駆け抜けていく。

 うおお、風になった気分。やっぱ京平、足速いなあ。

 ぐんぐん家まで近づいていくよ。


「おし、着いたぞ。亜美」

「ありがと、京平」


 私は京平の背中から降りて、2人で玄関に向かう。


「「ただいまー!」」

「おかえり、兄貴、亜美。しっかり眠れた?」

「おかげさまで。遅くなってすまんな」

「予測してたから大丈夫ですわ。朝ご飯食べてくださいな」

「寝坊助っすね。京平さんも亜美さんも」


 かなり遅くなったんだけど、皆予測してくれてたみたい。

 本当にごめんね、のばら、信次。と、空気読めない海里くん。


 キッチンの増築工事は2日かけてやるとのことで、今日は18時までやるみたい。

 お風呂は、追い焚きの機能と自動で湯はりする機能の追加で、こちらは18時で終わるらしい。

 さ、朝ご飯食べよっと。


「亜美の顔色も良くなって安心しましたわ」


 のばらが朝ご飯を運んでくれた。


「ありがと、のばら。え、朝、顔色悪かった?」

「隈がすごかったですわ」

「兄貴と2人で、昼ご飯かなり作ってくれてたもんね。ありがとね」

「京平と作ったから楽しかったよ」

「おう、亜美も成長したしな」


 そっか、京平は明らかに眠そうだったけど、私も睡眠を欲していたんだね。

 そりゃ16時まですやすや寝ちゃうよね。


「「いただきます」」

「やっぱ信次のお味噌汁美味しい! 何が違うんだろうなあ」

「なんか違うんだよな、俺のより美味いし」

「ありがとね、信次」

「信次、いつもありがとな」


 信次の朝ご飯、本当に美味しいの。いつも力をもらってるよ。


「のばらが洗濯物やってくれたしね」

「そうなの? のばらもありがとね」

「ありがと、のばらさん」

「ご飯作れないから、これくらいはやらなきゃですわ」


 のばらもありがとね。ただでさえ、信次と海里くんの勉強も見てくれてるのに。


「ご飯食べたらバトンタッチですわよ」

「おう、任せとけ!」

「その間に洗濯物畳まなきゃですわ」


 のばら、うちに来て初日なのに、しっかりしてるなあ。偉すぎる。

 立場的にはお客様なんだから、甘えてもいいのにさ。


「ごちそうさま。さ、のばらさんは休んでな」

「そうだよのばら。洗濯物は後でいいからさ」

「私もごちそうさま。紅茶淹れるね」


 こうして勉強の指導係は京平にバトンタッチ。

 京平は解りやすく、信次と海里くんに勉強を教えていく。

 天才のくせに指導も上手いんだよな、京平。や、天才だから上手いのか?


「お待たせ、のばら」

「ありがとうございますわ」


 のばらは紅茶を飲むと、ホッとした顔をして微笑む。


「落ち着きますわあ」

「長い間ありがとね、のばら」

「いえいえ。2人とも成長してましたから、苦労はしなかったですわ」


 海里くんも信次も努力してたんだね。偉いぞ、2人とも。


「私も洗濯物畳んだら、勉強しなきゃ」

「のばらも糖尿病療養指導士の勉強しなきゃですわ。年明けから療養指導に入りますし」

「のばらすごいなあ、もう療養指導出来るんだ」


 これは負けてらんないや。もっと頑張らなくちゃ!

 

「勉強すればするほど、亜美の家のご飯が栄養バランスバッチリすぎてビビりますわ」

「のばらも顔色良くなって来たもんね。前は真っ白だったし」

「信次のおかげですわ。たまに来る時も、美味しい昼ご飯作ってくれましたもの」


 のばら、胃袋も掴まれてたんだなあ。

 確かに信次のご飯は美味しいからね。

 

「さ、洗濯物畳みましょ!」

「おういえー!」


 ◇


「うう、難しい。頑張らなきゃ」

「まずは療養指導に入れなきゃ、糖尿病療養指導士にはなれませんしね。ファイトですわ!」

「はい、2人とも、ポイントはここな」


 京平は私達のノートに、赤ペンでポイントを書いてくれた。


「京平、私達の勉強まで見てくれてありがとね」

「今2人がやってんの、俺の専門分野だしな」


 ここまでの知識はいらんやろ、ってとこまで書いてくれてるもんな。また私達は成長出来るね。


 こうして皆で勉強して、京平に突っ込まれたりを繰り返しているうちに、気付いたらもう夜に18時。

 皆集中してたもんなあ。


「じゃあ、今日の工事はここまでにします。くれぐれもキッチンには入らないようにお願いします」

「「「「ありがとうございました」」」」


 キッチンの工事業者の人が帰っていき。


「お風呂工事終わりました。それでは失礼します」

「「「「ありがとうございました」」」」


 お風呂の工事業者さんも帰っていく。


「ねえ京平、湯はりのボタン押してもいい?」

「その前に風呂掃除な。亜美に任せていい?」

「ばっちこい!」


 湯はりのボタン押したさに、私はお風呂掃除をする事にした。

 掛けて待つだけってのもあるけど、なんだかんだで自分で磨いたほうが綺麗になるんだよね。

 ふー。綺麗になったあ。よし、さっそく湯はりのボタンを押すぞ。てやっ!


『湯はりします』

「うほ、喋った!!!!」

「へえ、湯はりの時、喋るんだね」

「あ、信次も見に来たんだね」

「実は気になってた」


 私達にとって、湯はりを自動でしてくれるなんて奇跡みたいなもんだもんね。

 私がお風呂作ると、よく溢れさせてたけど、その心配もないなんて凄いよね!


「終わったよー!」

「凄いよ、喋ってたよ!」

 

 あ、京平とのばらが一瞬、「何を当たり前のことを」って、顔をしたぞ?!

 もー! 私達にとってには輝かしい瞬間なのに!

 そんな顔をした京平ではあるが、私達の顔を見て優しく微笑む。


「そんなに喜ぶなら、もっと早く工事やれば良かったな」

「ありがとね、京平!」

「兄貴、ありがと!」


 私達は京平に抱き付いた。暮らしやすくなるのは、やっぱり嬉しいよね。


「仲良いわよね、亜美達」

「本当、羨ましいっす」


 それから、キリも良かったから晩ご飯の支度をしようとしたんだけど……。


「あれ、京平が夜ご飯用に作った唐揚げが無い!」

「え、嘘だろ? 100は揚げたぞ、俺」

「え、あれ晩ご飯だったの? その唐揚げだけど、皆で食べちゃった」

「楽しみにしてたのにー!」


 嘘でしょ? 昼ご飯は昼ご飯で作ったのに、まさか足りなくなって、夜ご飯の分も食べ尽くすとかあり得る?!

 冷蔵庫の中は、もう空っぽだ。


「しゃーねえ。外で食べるか。何がいい?」


 そうやって、晩ご飯が無くなってた事にあたふたしていると。


ーーピンポーン。


「あ、お客さんだよ」

「誰かなあ、はーい」


 京平が玄関に向かうと、そこには明るい笑顔のお客さんがいた。


「あ、どもー。深川先生!」

「きょ、京平さん?!」

「小暮さんと、かつどんやの店長じゃん。どうしたの?」


 あれ、京平の知ってる人なのかな?

 女性の方は、たまに休憩室でお見かけする事があったけど。


「え、小暮さんに武さんじゃん」

「よ、時任くん!」


 あ、信次も知ってるんだ。


「実は私、昨日から勝田さんになったのだよ」

「結婚したんですね。おめでとうございます」

「これも信次くんと冴崎さんのおかげだからさ。院長に住所聞いて、お礼の挨拶に来たの。えと、次は冴崎さんの家行かなきゃ」

「あ、のばらはここにいますわ!」


 ほええ、結婚されたんだ。それはおめでたいなあ。

 一体信次とのばらは、何をしてあげたのかな?

 なんにせよ、人の手助けをするなんて偉いぞ。

 

「あ、冴崎さん?! 何で信次くんちに?」

「ま、まあ、色々ありまして……」

「ふーん、詳しくは聞かないけどさ。冴崎さんもありがとね。私を後押ししてくれて」

「なっちゃん、変に考えるクセがあるから、本当にありがとうございました」


 のばらも知ってるのか。つまり私だけ知らないんじゃん!

 仲間はずれ感が半端ない。ぶー。

 

「全部掴めましたか? 小暮さん。あ、勝田さんでしたわね」

「うん。2人と、武の優しさで全部掴んだよ」

 

 旧姓が小暮さんで今は勝田さんな女性は、嬉しそうに笑っていた。

 結婚、私もいつかは京平としたいなあ。その気はあるよっていってくれたもんね。


「あ、そうだ、店長。お願いがあるんだけど」

「京平さんの頼みなら聞くよ。何かな?」

「実はうち、今日キッチン使えなくて……かつどんや休みなのは知ってんだけど、店にカツ丼食べに行ってもいい?」


 京平、それは凄く厚かましいのでは?!

 でも京平、外食にはうるさすぎるからなあ。

 ここは美味しくなかった、ここは脂っこいだの。

 決まらなすぎて、ご飯抜きになりかけた日もあったし。

 その時はまだ小さな信次がご飯を作って、事なきを得たけど。

 そんな京平も認める店なんだなあ、かつどんやさんって。


「そんな事なら、店は開けないけど、うちに食べにおいでよ。カツ丼も作れるしさ」

「え、いいんですか?」

「京平さんにはお世話になりましたから」


 もっと厚かましい事になったよ!

 そんな訳で私達4人は、勝田さんのお家のご飯をいただく事になったのだった。

亜美「京平、厚かましいってば」

京平「だって近場に美味しい店って、かつどんやしか知らないし」

武「気に入って貰えて光栄です」

信次「どんな料理作ってくれるのかな?」

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