よろしくね。(信次目線)
亜美達が走りに行ってる頃、僕は夜ご飯の支度をしていた。
今日は寒いからお鍋にしよう。亜美達が帰って来たら煮立てて、と。
亜美、最近太ったって騒いでたから、お魚の鍋にしよう。
とはいっても、見た目そんなに変わってないのにね。
そんな最中、思わぬピンポンが鳴り響く。
ーーピンポーン。
あれ、こんな時間に誰だろう?
僕が慌ててドアを開けると。
「こんばんは。信次」
「のばら、どうしたの? 泣いてるじゃん……」
僕がそういうと、のばらは僕に抱きついて、わんわん泣き始めた。
そっか、堪えていたんだね。僕ものばらを優しく抱きしめた。
「寒いから、部屋の中で温まって。話聞かせて」
「ありがとうございますわ」
僕はのばらの身体が冷え切っていたから、部屋に通す。
のばらは大きな荷物を持っていて、僕はのばらの代わりに運んだ。
のばらはソファーに座ると、また泣き出す。
相当辛い思いをしたのだろう。暫くは泣かせてあげよう。
僕はもう一度、のばらを抱きしめた。
のばらは一頻り泣いた後、話し始める。
「実は、両親と喧嘩したのですわ。いつも帰りが遅すぎる、って。今日定時帰りだったのに」
「今日早番だったよね。病院勤めなら普通なのにね」
「そうなのですわ。で、のばらもそう言ったのだけど、聞き入れてくれなくて、病院辞めろって言われて……」
「家を飛び出して来たんだね」
酷い。のばらは患者様の為に頑張っているのに、そんなのばらを責め立てるなんて。
ただでさえ、時間次第では、のばらに温かいご飯を食べさせない仕打ちまでしてたのに。
「もう家には帰れませんわ。泣かせてくれてありがとうございますわ、信次。今日はどっかホテルにでも泊まりますわ。近い内に家も探して」
「そんな必要ないよ。うちにおいでよ」
自然に出た言葉だった。
兄貴には悪いけど、のばらと亜美を一緒の部屋にすれば、何の問題もないし、ご飯1人分増えるくらいなら、どうって事はないし。
「いいん、ですの?」
「寧ろ僕は、嬉しいけど」
まだ付き合えないにしても、愛してる人と同じ屋根の下で暮らせるなんて最高すぎるもん。
「じゃあ、お言葉に甘えようかしら」
「うん、そうして」
やっとのばらが笑ってくれた。僕も思わず微笑む。
その笑顔に、何度も救われてるよ。のばら。
「それと、伝えたい事がありますの」
「ん、どうしたの?」
「のばら、やっと心の答えが解ったんですの」
そういうとのばらは、僕の唇にキスをする。
僕は、気持ちを抑えるのに必死だった。え、のばら、どうしたの?
「のばらは、信次を愛してますわ。付き合ってくださいまし」
「のばら!」
僕はのばらを強く抱きしめた。2度と離さないから、覚悟しててね。のばら。
「ずっと一緒にいようね、のばら」
「愛してますわ、信次」
それから僕達は、お互いを抱きしめ合ったりキスしたりしたんだけど、信次は受験生でしょ! って、のばらに叱られて、その後は一緒に勉強した。
なんだよー。のばらだってノリノリでキスしてたのに。
でも、のばらは解りやすく教えてくれるから、本当にありがたいや。
お鍋は家族で食べたいって、僕の我儘にも付き合って貰ってるし、申し訳ないなあ。
のばらに何か別に作るべきかな?
そんな事を考えてたら、聞きたかった声が聞こえてきた。
「ただいまー」
「おかえり、兄貴、亜美」
「おかえりなさいませ……って、亜美、大丈夫ですの?!」
亜美は兄貴の背中で、ぐっすり寝ていた。
走り疲れちゃったのかな?
「亜美、頑張り過ぎて低血糖になってたからさ。ブドウ糖は食べさせたから大丈夫」
「ごめん、今日のサンドイッチ、かなりヘルシーに作ったんだ……僕のせいだ。亜美に伝え忘れてた。亜美、苦しかったよね。ごめんね」
ああ、亜美が体重気にしてたから、サンドイッチヘルシーにしたんだけど、伝えなきゃ伝わらないじゃん。
僕のバカ。それで亜美を低血糖にさせちゃってんじゃん。
「亜美、家着いたぞ」
「むにゃ。おはよ、京平」
「おはよ、亜美」
良かった。亜美、笑ってる。もう苦しくないよね? 大丈夫だよね?
亜美は兄貴の背中から降りると、僕の顔をまじまじと見てくる。
「どうしたの信次? すごい心配そうな顔してるよ?」
「心配するよ。亜美、低血糖になったんでしょ。ごめん、サンドイッチのカロリー伝えてなかったせいだ」
「ヘルシーなのにしてくれたのは知ってるよ。単に私が走り過ぎただけ。気にしないで」
そっか。亜美、気付いてたのか。それならまだ良かった、かな。
あ、違うな。亜美が嘘吐いてる時の顔してる。僕に気を使わないでよ、バカ。
「じゃあ、そろそろのばらに突っ込んで貰ってもいいかしら?」
「おあ嘘! 何でのばらが家にいんの?!」
「今気付いたのか、亜美」
「実は色々ありまして……」
「あ、僕から話すね」
僕はのばらが家族と喧嘩した経緯と、家に戻れないのばらは、これから我が家に住む事を告げた。
「病院辞めろって、今時そんな親いるんだな」
「のばら頑張ってるのに酷いよね」
「そんな訳で、暫くお世話になりますわ」
「お嬢様には不便なとこもあるだろうけど、慣れてってな」
そこはちょっと心配だね。我が家は決して広くないし、新しくもないからさ。
キッチンとお風呂の工事が終われば、大丈夫だと信じよう。
「後、のばら達の事も話してくださいな」
「あ、そうだね。僕とのばら、付き合う事になりました!」
と、僕が言ったと同時に、亜美の魂が抜けてってるのを感じた。
え? そんなに予想外だったのかな? 告白した事は報告したんだけどな?
「おーい、亜美、戻ってきな」
「おうふ。そっか、愛してるのは信次だったんだね」
「はい、幸せにするし、していただきますわ」
のばらが幸せそうな顔で笑うから、思わず僕も笑った。
これから2人で、いっぱい幸せになろうね。
「と、2人ともご飯は食べた?」
「まだですわ」
「ごめん、待たせちゃったね。今日は何かな?」
「お鍋だよー」
「身体冷えたから嬉しいな」
僕はお鍋を煮立てて、夜ご飯の準備をした。
僕の隣の席にのばらが座ってるのが、とても新鮮で嬉しいな。
時間あったから、出汁も一から取ったんだぞ。沢山食べてね。皆。
「ほい、お待たせ!」
「「「「いただきまーす」」」」
「お鍋、温かくて出汁もしっかりしてて、美味しい!」
「魚の鍋も美味いな」
「美味しいのですわ!」
皆喜んでくれて良かった。ヘルシーだから、亜美も気にせず沢山食べてね。
って、あれれ、もうお鍋なくなりそう? 沢山作ったんだけどなあ?
「締めは何にする?」
「やっぱうどんかな?」
「じゃあ、準備してくるね」
もう締めかあ。いや、そもそも締めを食べさせても、亜美達は足りるのかなあ?
まあいいや、取り敢えず人数分うどんを煮込むか。
こんな事があるとは思わなかったけど、出汁も多めに作っといて良かった。
「よいしょ。これで足りるといいけど」
卵とじうどんにしてみたぞ。これならどうだ!
「ああ、うどんも美味しいね!」
「やっぱ締めはうどんだな」
「いくらでも食べられますわ」
うん、我ながらうどんも美味しく作れたな。
これならお腹いっぱいになるだろうしね。
しかし、見通しは甘かった。
「信次ー、まだお腹空いてるんだけど、うどん無くなった」
「え、まだお腹空いてるの?!」
「正直、俺ももうちょい食べたいな」
「腹ペコですわ」
なんですと。もう鍋とうどん食べてるのに!
運動した亜美達に、元々良く食べるのばら。
揃うとこんなに勢いあるんだなあ。
「じゃあ、次は雑炊作るよ」
◇
結局、雑炊を食べさせた後も、のばらは足りなかったみたいで、のばら用に炒飯作ってあげたら満足したみたい。
今日はのばらにとって色々あったから、いつも以上にお腹空いてたんだろうな。
今、兄貴は走りに行ってて、亜美はしょんぼりとお風呂に入ってる。
もう2人のお風呂に慣れちゃったんだね、亜美。
僕達は、亜美がお風呂から上がるまで、勉強することにした。
「流石ですわ、信次!」
「のばらのおかげで、かなりスムーズに解けるようになってきたよ」
「明日から勉強合宿ですから、気合い入れていきますわよ!」
え?! 明日から?!
「ちょま、聞いてないよ!」
「あら、深川先生から聞いてなかったですの? 明日からのばらと深川先生年末年始休みだから、明日から合宿出来るんですの」
「海里に連絡しなきゃ、あいつ空いてるかなあ?」
因みに海里の風邪は、すっかり治ったみたいで、僕にも連絡が来ていた。
そんな訳で、今日も昼から夜まで一緒に勉強したしね。
信次寝坊すんなや! って怒られながら。
寝坊じゃないよ、二度寝だよ。って言ったけど。
「良かった、海里も大丈夫みたい。何時からやるの?」
「朝6時から朝ご飯で、それからずっとですわ」
「つまりいつもの朝と一緒だね。海里には6時半に来てもらお」
今度は海里が寝坊しないといいけどね。
僕は夜更かししなきゃ、全然余裕だし。
「のばらもありがとね。折角付き合ったばかりなのに、僕達の勉強みてくれて」
「のばらは、一緒に過ごせるだけで満足なのですわ。信次の力になれて嬉しいのですわ」
「合格したら、いっぱいデートしようね」
「ま、医学生にそんな暇はなくてよ。余裕ある時に、ね」
僕、凄いのばらに愛されてるや。幸せだなあ。
付き合ったばかりなら、デートだってしたいだろうに、僕の現状を考えてくれてる。
のばら、待たせちゃうけど、絶対楽しませるからね。
「今は一緒に頑張りましょ。かなり先ですけど、一緒に働ける日が楽しみですわ」
「うん、僕も楽しみ」
そんな話をしながらも、勉強を進めていたら。
「ふいー、出たよー」
「じゃあ、私達もお風呂に入りましょ」
「つ、つ、付き合って初日だけど、のばらはいいの?」
「一緒にいたいんですの」
「うう、羨ましいよおお」
亜美はかなり羨ましがってるけど、僕はかなり緊張してる。
お互いの裸を見せ合うの、初めてだしさ。
幻滅されないといいな。うう、怖いなあ。
◇
ふう、なんだかんだで凄い楽しかった。
一緒にお風呂入るのって、こんなに楽しいんだね。
のばらの笑顔も沢山見れたし、本当に良かった。
僕達がお風呂から上がると同時に。
「ただいまー」
「おかえり、兄貴」
「お帰りなさいませ」
「京平お帰り、寂しかったよおお!」
「こら亜美、俺汗だくだから!」
兄貴がいなくて寂しかったのか、亜美は兄貴をギュッと抱きしめた。
汗だくだからと兄貴は言ってるけど、亜美は気にしてないんだろうなあ。
「じゃあ、明日も早いし、そろそろ寝ましょ」
「そうだね。のばら、僕の隣でいい?」
「勿論ですわ」
僕は、お客様用の布団を敷く。ふとんを敷いてすぐ、のばらは布団にダイブした。
そして、すやすやと眠り出した。
よっぽど疲れてたんだね。
「おやすみ、のばら」
でも、ちょっと僕は寂しかったから、のばらを抱きしめて眠る。
これからのばらと一緒に暮らせるの、わくわくするよ。
改めてよろしくね。のばら。
亜美「信次良かったね、おめでとう!」
信次「のばらの事、幸せにするよ」
のばら「のばらも信次の事、幸せにする!」
海里「明日から勉強合宿だ。遅れを取り戻さんと」
京平「がっつりやるからな?」