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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
恋愛バトル
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貴女がすきです。

 やがてお昼休憩も終わり、私達は再び自分の仕事へと戻るのであった。

 私はのばらから引き継ぎを受けた患者様へ、看護師が交代になる事を伝えにいく。


「夜からは私時任が担当になります。宜しくお願いします」

「あ、亜美ちゃんだ。宜しくね」


 ん? この患者様は初めてなんだけどな? まさかあの噂、まだ病院内で息づいていたのか。と、思ったんだけど、噂は関係なかった。


「のばらちゃんから聞いたんだ。夜からは亜美ちゃんっていう子だよって」

「冴崎から聞いていたんですね。何かあればナースコールで呼んでくださいね」

「ああ、済まないねえ」


 どうやらのばらが前もって私を紹介してくれていたようだ。根回しまで完璧すぎるよのばら。

 こう言った配慮も大切に違いないから、私も頑張らなきゃ。

 でも、のばら昨日遅番だったのに、今日早番って通しだったんだよなあ。うちの看護師長そんな無茶なシフト組みしないのに……。

 でも、それだけのばらが信頼されてる証拠だろうなあ。


 それから担当患者様に挨拶をし、時に呼ばれたり、時に血糖値を測ったり注射を打ったりしながら時は過ぎていくのだった。


 ◇


 そして、2度目の休憩時間となった。今日は21時から。プラス、人手が足りない都合上、24時までの残業がきまった。

 中番と遅番は、2度目の休憩時間がバラバラだったりするので、誰が休憩に入ってるかは不明なんだよなあ。誰か居ればいいけど。


 休憩室に入ると、背後から誰かが目を塞いできた。


「だーれだ?」

「京平、また悪戯?」

「あ、バレたか。朝の仕返しだぞ」


 この人はまた私の気持ちを知ってか知らずか、こういう悪戯を仕掛けてくるんだよなあ。

 でも、休憩時間が被ったのは素直に嬉しいや。


「まさかこの時間で亜美と休憩時間被るなんてな」

「人手の都合上、24時まで残業でね。京平は?」

「ああ、俺もそんくらい。奇遇だなあ」


 そう言えば2人で休憩なの珍しいなあ。最近はのばらとかのばらとかのばらが居たしなあ。


「あ、医師会合は何時まであったの?」

「結局20時まで。早番のヤツは上の人と呑みに行ってたな」

「医師会合も大変だねえ」

「俺も付き合わなきゃかな、って覚悟してたけど中番に変えて貰えて呑み行かなくて済んだからラッキーだった」


 実は京平、上席のいるお酒の場がすきではない。明日京平は休みなのだが、お酒を楽しくないメンバーで呑むのは性に合わないらしい。まあ、これに関してはぶっちゃけ全社会人の悩みだろうが。


「亜美と呑むなら楽しいんだけどな」

「私、明日も中番だから、帰ったら久々に晩酌する?」

「お、いいね。帰りにワインでも買ってくか」

「コンビニなら開いてるもんね」


 京平との晩酌は久々だ。明日仕事って時には京平呑まないからなあ。明日中番でラッキー。おつまみ何作ろっかな?


「でも、亜美が残業なの珍しいな」

「少しずつ認めて貰えてるのかな、まだ遅番の許可は降りないんだけどね」


 と言うと、京平はかなり驚いた顔をし始める。ん? 何かおかしな事言ったかなあ、私。


「女の子の亜美に遅番やらせたくない本音はあるけど、実力と知識を考えたらもう充分なレベルなはずなのに……それで毎晩勉強してたのか」

「え、だって私が至ってないから」


 すると、京平の顔が段々と怒りに満ちてくるのが手に取るように解った。あ、これマズいのでは? と、私は少し震えた。


「亜美にこんな思いをさせるなんて頭来た。今から看護師長に物申してやる」

「きょ、京平落ち着いて……」

「家族をバカにされて冷静でいられるか!」

「じゃ、じゃあ今から一緒にいこ。どうしてダメなのか聞けば」

「亜美はダメじゃない!」


 ああ、火が付いてしまった。京平って家族の事になると手が付けられなくなるからなあ。

 私の実力を認めてくれてるのは嬉しいけど、このまま看護師長とバトルになっちゃうのは、これからやりづらくなるじゃんかよ、もー!!


 とりあえず火のついた京平を1人にさせる訳にはいかないので、まだ休憩時間内ではあるが、ナースステーションにいる看護師長の元へ2人で向かった。


 が、看護師長は既に違う人とバトルをしていた。


「看護師長、なぜ亜美さんを残業にしたんですか? 僕が2人分働きますから、亜美さんの残業は取り消してください」

「いい加減にしなさい日比野くん、遅番に関しては時任さんの分を貴方が入るって事で了承したけど、残業まであれこれ言われたくないわ」

「亜美さんに無理させたくないんです」


 その瞬間、私と京平は全てを理解した。

 理解すると同時に、看護師長が私達の存在に気付く。


「あ、深川先生、どうされたんですか?」

「看護師長に物申しに来たんですが、どうやら物申す相手が違うようですね」

「ああ、見ての通りよ」


 私は知らない間に、友くんにも蝶よ花よとされていたようだ。まさか、同期の友くんが、こんな事をしていただなんて……。


「ごめんなさいね時任さん、遅番に関しては日比野くんを折ったらって意味合いだったのだけど、深川先生の様子を見てると別の意味合いで捉えていたようね。まさか、日比野くんの独断だったなんて……」

「私がダメだからじゃないんですね」

「そうよ、あなたは立派に育っているわ」


 私の中ではこれで解決だったんだけど、当然京平の怒りは収まる事を知らず、改めて当事者である友くんに向けられる。


「日比野くん、何をしたか解ってるよね?」

「無理をさせたくなくて裏から回る事の、何が悪いんですか?」


 やば、友くんも喧嘩腰だ。だから皆、私はただの亜美だから蝶よ花よとしすぎないでよ!

 どうこの火を収めたら良いのだろうかと考えていると、看護師長が助け舟を出してくれた。


「今回の件は、日比野くんの独断でやっちゃった事が1番いけないの。時任さんは、やる気を持って看護師のスキルを磨いて遅番に備えていたのに、それを台無しにしたの解るよね?」

「はい……」


 看護師長の言葉で、友くんが鎮火した。


「ごめんなさい、時任さんに深川先生。私も全く気付けなくて」

「いえ、看護師長が謝ることでは……」

「部下の失態は私の失態だわ。気にしないで」


 と、ここでようやく京平も鎮火した。看護師長、火消しが上手すぎる。


「取り敢えず、日比野くんはもう帰りなさい。もう22時だし。時任さんは残業出来そう? 大丈夫?」

「はい、やらせてください」

「深川先生は緊急外来担当でしたね。さっさと仕事にいきなさい」

「やば、本当に済みません。失礼いたします」


 京平と私が仕事に入ろうとすると、友くんが看護師長に一言告げる。


「すみません看護師長、亜美さんと少しお話しさせてください」

「そうね、2人じゃないと話せない事もあるよね。でも人手足りないから手短にね」

「解りました」

「丁度面談室空いてるから、そこで話しといで。時任さんもそれでいい?」

「はい、大丈夫です」


 京平の顔にまた火が点きそうだったけど、そこはまたまた看護師長が抑えながら、私達は面談室に向かった。面談室に入るなり、開口一番に友くんが話しだす。


「亜美さん、本当にごめんなさい。悪気は無かったんです」

「いいよ。私を気遣ってくれたんでしょ? 今まで有難うね」


 友くんに悪気がない事は話を聞いてて解っていたので、私は怒る気はなかった。むしろ助けてくれていたのに、ネガティヴに捉えていた自分がちょっと許せないくらいで。

 でも、謎は残る。


「どうして、私に対してそこまでしてくれたの?」


 そう、友くんとは看護師学校の同級生という縁もあるが、わざわざ遅番を変わろうと思って貰える程の恩を売った覚えはない。

 しかも、今日の私の残業でさえ、看護師長に直談判するほどの恩なんて……。

 友くんは、少し下を俯きながら話してくれた。


「看護師学校時代からかな、凄い出来る訳じゃないのに、僕にでさえも負けてると、やたらと頑張るし、しかもそれは無理を普通に越える時もあったりで。僕は出来る方なんだから、勝てなくて当たり前なのにさ」

「えっと、友くん……?」


 何が言いたいか良く解らなくて呼びかけるけど、友くんは話し続ける。


「それから、自然に目で追うようになって、惹かれていって、気になっちゃって、笑顔にいつも癒されて」

「……何が言いたいの? 友くん」


 しん、と一瞬静まり返る。その瞬間に、友くんは私の顔を見つめながら……。


「そんな貴女がすきです、亜美さん」

作者「亜美よりものばらよりも先に、まさかの友くんが告白とは」

友「嘘はつきたくなかったので」

作者「よく頑張ったぞ……!」


京平「俺はまだ納得してねえぞ。日比野くん」

亜美「京平おちついて」

看護師長「深川先生、早く職場にいきなさい!」


作者「次回もお楽しみに!」

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