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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
入り乱れる心と心
109/238

適した走り方

 仕事終わり、私達はいつものように緊急外来前で待ち合わせする。


「京平、お待たせ」

「俺も今来たとこだよ。行こっか」

「ジャージって何処に売ってるんだろ?」

「スポーツ用品店が近くにあるから、そこに行くよ」


 おお、病院の近くにスポーツ用品店があるのかあ。

 糖尿病の人には有難い並びだね。

 患者様も許可を貰えば、買いに行けるだろうし。


「可愛いのがあるといいなあ」

「俺が選ぶから安心しな」


 う、やっぱり私のセンスは信用されてないなあ。

 まー、今までの行いや結果を見る限り、それは仕方ないのだけど。

 どんなの選んでくれるか楽しみだね。


「さ、着いたぞ」

「おお、なんか色々あるね」


 京平に連れて来られたスポーツ用品店は、テニスラケットや野球道具、スポーツウェアも各種揃っており、お店がこじんまりとしてる割に品揃えはかなり良かった。

 ジャージはどこらへんにあるのかな?


「そう言えば京平って、走る以外にスポーツの経験ってあるの?」

「いんや、帰宅部だったしねえなあ」

「私も小中は手芸部だったしなあ」


 徹底して帰宅部だったんだな、京平。

 医者になる為の勉強頑張っていたんだろうな。

 という私も、看護師になるべく器用さをあげたくて、手芸部入ったんだけどね。

 肝心の勉強は高校でガッとやった。京平の力を大いに借りて。


「亜美が作ってくれたマスコット、今も俺の鍵につけてるよ」

「ありがとね。なんか照れくさいな」


 そう、優しい京平は、私の作ったうさぎちゃんを今も家の鍵に付けてくれてるんだ。

 他にも京平や信次を作ったりしたなあ。

 京平は京平を、病院のロッカーの鍵に付けてくれたな。

 そう言えば、信次も信次を家の鍵に付けてくれてるや。

 優しい家族に囲まれて、本当に幸せだな。私。


「ここがジャージのコーナーだな」

「うわあ、色々揃ってるね。これ可愛いな」

「亜美、それはちょっと……」


 く、やはり私はセンスがないのか!

 ぱっと見で可愛いって思ったやつに、オッケーが貰えた試しがないよ!


「亜美にはこっちのが似合うよ」


 京平はポーマの、ピンクと黒のジャージを取り出した。

 京平は鏡で私に合わせて確認する。


「うん、似合うじゃん。まずは候補1だな」

「え、まだ選ぶの?」

「長く着る物だし、より良いやつにしないとな」


 京平、なんか楽しそう。私もなんだか楽しくなってくるよ。

 

「これもどうかな?」


 続いて京平が取り出したのは、アディナスの黒と灰色と白いラインが入ったジャージ。

 おお、これはおしゃれだね。


「俺的にはこっちのが好きだなあ。第一候補だな」


 まだまだ京平の吟味は続き、同じアディナスでも、ピンクと紺と白のジャージを取り出す。


「お、おお、これは可愛い。マジいいわ。これにしよ」

「京平のお気に召したみたいだね」


 こうして、私のジャージは決まった。ふー、何とか3着目で決まったよ。

 いつも私の服を京平が選ぶ時は普通の服でも、かなり念入りに選ぶからね。

 今にして思えば、愛してくれてるから、なんだな。

 いつもありがとね、京平。


「じゃあ、買ってくるわ」

「ダメだよ、私の物なんだから私が買うよ」


 京平ってば、そんなとこでお金使っちゃダメだよ。

 どうせ使うなら、デートの時とかにしてよね。

 私は京平からジャージを奪って、レジに向かう。

 可愛いの選んで貰えて良かった。走るのがより楽しくなりそう。


「甘えてもいいのにな、亜美のやつ」


 ◇


「「ただいまー」」

「お帰りなさいー」

「さ、亜美、急いで着替えるぞ」

「そんなに慌てなくても間に合うよ」


 私達は一旦帰って、部屋でジャージに着替える。

 私のは新品だからタグを切って、と。着心地はどうかな?

 お、中々良いんじゃない? 京平が選んだのに間違いはないもんね。


「うん、亜美可愛い」


 京平は私を抱きしめてくれた。

 ちょっと、急ぐんじゃなかったの? 可愛いとこあるなあ。 

 そんな事されたら、応えぬ訳にはいかないでしょ!

 私も京平を抱きしめた。温かいな。大好き。


「ごめん、つい抱きしめちまった」

「嬉しいよ。ありがとね」


 そんなやり取りも交えながらジャージに着替えた私達が部屋をでると。


「兄貴達、軽く食べときなよ。ほら、サンドイッチ」

「お、ありがとな信次」

「腹ペコだったから嬉しい! ありがと、信次」


 私は血糖測定をして、インスリンを注入する。

 あとは大事な言葉を言わなきゃね。


「「いただきます」」


 本当によく出来た弟だよ、信次は。

 私達がご飯食べずに走るって情報で、軽食まで作ってくれて。しかも美味しい!

 これなら走ってる間くらいは持ちそう。帰ったら夜ご飯沢山食べちゃいそう。


「じゃあ気をつけてね。帰ってくる頃までには、夜ご飯食べられるようにしとくからね」

「ありがとな、じゃあ行ってくるな」

「いってらっしゃい」

「「いってきまーす」」


 さーて、気合い入れて走るぞ!

 とは言っても、脂肪燃焼させやすい走り方とか本当にあんのかな?

 でも京平は嘘吐く人じゃないし、何かあるんだろうな。

 そんな事を考えてる内に、京平は手を繋いでくれた。


「亜美の手を繋ぐと、なんか落ち着くよ」

「ふふ、私も京平と手を繋ぐの好き」


 私も京平の手を握り返した。

 この大きな手に、いつも励まされてるよ。

 ありがとね、京平。


 こうして2人で仲良く歩いてる内に、病院に着いた。

 私達は従業員証で職員専用の扉から入って、大池さんの病室に向かう。


「大池さん、お待たせしました」

「おお、待ってたよ。深川先生」

「え、大池さん……このお仲間達は?」


 私達が病室に入ると、大池さんの周りには、大池さんと同じような体格の患者様が群がっていた。圧巻。

 しかも皆、しっかり運動できる格好になっている。


「深川先生の話をしたら、皆も走りたいってさ」

「かしこまりました。皆さん、一緒に頑張りましょうね」


 確かに医者に直接、運動療法見てくださいって言いづらいもんね。

 本当は皆様、正しいかどうか気になっていたんだ。

 私も巡回する時、そういうの気にしなくちゃ。

 今回教われば、私も運動療法のアドバイスくらいは出来るもんね。


 こうして私と京平と大池さんとその仲間達6人と、一緒に走りに出かけた。


「まず、脂肪燃焼に一番適したのは、喋れる程度の速度で走れるランニングです。ゆっくり走りましょう。とは言っても、皆さんペースが違うので、焦らずにコースを走って、30分後にここに集合してください。皆さんの走り方を走りながら見させていただきます」

「え、待って深川先生、30分も走るの?」

「ダイエットの為ですからね!」


 そんな訳で、皆で準備運動をした後、一斉に走り始めた。

 因みに入院患者様は、あらかじめ外で走る際のコースが決められており、そのコースで今回は走ってる。

 病院から遠くなっちゃうと、何かあった時怖いもんね。

 けど、やっぱり私が1番遅いー! 話せる程度だとこれで精一杯だからなあ。

 京平は、皆さんの走り方を見ながら、1人ずつアドバイスをしていた。

 

 あ、京平がこっちに来る。


「まだ遅いけど、亜美にしてはペース上がったじゃん」

「まだまだ。皆さん話しながらのペースでも速いから凄いなあ」

「きっと毎日走ってらっしゃるな。皆さん速すぎるくらいだったし。速過ぎちゃうと脂肪燃焼に繋がらないし、ゆっくり走る事が出来れば、皆さん痩せてくと思うよ」


 成る程なあ、速すぎるのも良くないんだなあ。

 でも、遅くて息切れしちゃう私は、まず走れる身体にならなきゃだな。

 それに、最近ちょっと太ってきたしな。

 ご飯も美味しいし、満たされてるし、痩せる要素なんもないもんね。

 恋煩いで食べられない日は1日も無かったけど。

 ん。じゃあ太らないはずでは? 何でじゃー!


「間食が多いせいだぞ。間食控えてからそんな経ってないしな。ヘモグロビンA1cクリアしても、食べられないかもな。ケーキ」

「ええ?! それはやだああああ」

「じゃ、走るしかないな。患者様が帰った後も一緒に走るか? ま、俺はどんな亜美も惚れ続けるけど」


 ケーキはのばらとも約束してるから、ヘモグロビンA1cクリアしたら、絶対食べたいもん!

 京平が良くても、おデブじゃ、今以上に釣り合い取れなくなっちゃう。京平イケメンだし。

 だから。


「京平が恥ずかしくならないよう、走る」

「亜美がどんな姿でも、俺は恥ずかしくないけど、頑張るのは偉いぞ」

「うん、頑張るよ」

「じゃ、患者様見に行ってくるな」


 京平はまた、患者様にアドバイスをしに、走っていった。

 私も遅いってめげてないで、走る事に集中しなきゃ。

 血糖コントロールとダイエットの為に!

 どっちも糖尿病の私にとっては、繋がっているからね。


 ◇


「皆さん、お疲れ様でした」

「ゆっくりで良かったんだなあ」

「このペースで走る事に慣れてかないと」

「さ、病院に戻りましょうね」


 私達は患者様をそれぞれの病室まで送っていき、いつもの走る所までやって来た。


「よーし、頑張るぞ」

「無理しない程度にな」


 私はまた走り始めた。疲れもあるけど、頑張らなきゃ。

 京平が遅い私に併走、否、早歩きして着いて来てくれてるしね。

 まだ走る身体になってないから、ちょっと走るだけでも正直キツイや。ゆっくりとは言え。

 話せる速度って言うけど、段々息切れしてくる。


「亜美、キツいだろ。無理すんなよ」

「まだ10分しか走ってないもん。頑張る」


 早く身体を作る為にも頑張らなきゃ。

 と、思ったんだけど。


「はい、おしまい。これ以上はぶっ倒れるぞ」

「ぶー」

「ぶーじゃない。自分の限界考えろよ」


 京平に両肩を掴まれて、強制的に私のランニングは終わってしまった。

 確かに息切れもしてたし、若干足も怠くなって来たし、少し目がボヤけてるし、ふらつくけど!

 なんか悔しいんだよお!


「ちょっとずつ成長してっから、焦んなよ」

「そお? 明日も頑張らなきゃ」

「そ、明日も頑張ろうな。ほら、おんぶするよ」

「そこまで疲れてないってば」

「目がちょっと、トロンとしてる。低血糖だな。ブドウ糖摂りな」


 あ、目がボヤけてるのはそのせいか。未だに低血糖の判別が付かないや。

 いつも京平に言われて気付いてる。

 インスリンポンプを見ると50。相当低いじゃん。

 そう言えば、なんかピッピと鳴ってたなあ……。


「本当だ、低血糖だ」


 そんな訳で私はブドウ糖を食べた後、京平におんぶして貰う。

 広い背中が心地良くて温かい。気付いたら私は寝てしまった。

 おやすみ、京平。明日も頑張るからね。


「おやすみ、亜美」

京平「亜美の頑張りすぎるとこは、考えものだな」

信次「インスリンポンプが鳴ってる時点で、気付いてもいいのにね」

亜美「すやすや」

京平「でも、この寝顔を見ると安心するよ」

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