誰なのよ!
「んー、よく寝た!」
京平、いつもは腕枕してくれてるのに、今日は私の真逆向いてる。ちょっと寂しいな。
いやいや、寧ろ毎日腕枕継続してたのが奇跡だわ。時間までゆっくり寝るんだよ。
「おはよー、信次」
「ふわあ、おはよ。亜美」
「信次眠そうじゃん。大丈夫?」
いつも朝は元気な信次なのに、今日はなんか眠そう。昨日何時に寝たのかな?
「熟睡は出来たんだけど、あまり寝れてなくてさ」
「無理は良くないよ。後は私に任せて、信次は寝てなよ」
「じゃあ、朝ご飯だけ頼んでもいい? のばらのお弁当だけ作って、後は昼やるからさ」
「おっけ。のばら今日早番だから、お弁当も私から渡しとくね」
そんな訳で今日は朝ご飯も作るぞ!
お弁当は何にしよっかなあ? 今日は京平大変らしいから、ガッツリしたのにしようかな?
院長先生が久々にお休みで、事務仕事頼まれてるらしいし。
「よし、じゃあこのお弁当、のばらに渡しといて。おやすみ、亜美」
「おやすみ、信次」
信次、相当眠たそうだなあ。何かあったのかな?
昼頃には起きれるといいけど。受験勉強もしなきゃだし。
まあいいや。昼頃電話でも掛けてやるか。
朝ご飯は、鯵の開きとお味噌汁と浅漬けにしよう。
昨日浅漬け作っといたんだよね。
鯵の開きを焼きながら、お弁当も作ろう。
大きなお肉を焼いて、卵も焼いて、ふふ、すごい豪華にするからね。
楽しみにしてろよー。2人とも!
タコさんも召喚じゃあああ!
おっと、信次洗濯機回してたんだね。終わったよって鳴いてるや。なら、先に干してきちゃお。
私も大分慣れてきたし、充分間に合うしね。
ちょいやっさ! と!!
よし、朝の家事も終わったし、京平起こしに行かなくちゃ。
腕枕なくて寂しかったから、ちょっとだけ甘えよ。ちょっとだけ、ね。
「京平、朝だよー!」
「うー、亜美、行かないで……」
うなされてる。また悪い夢を見ているようだなあ。私はすぐ近くにいるのにな。
私は京平の耳栓を外して、京平をギュッと抱きしめた。寂しかったんだからね。
「おはよ、京平」
「むにゃ、おはよ、亜美」
京平も、ギュッと抱きしめてくれた。あれ、京平ちょっと泣いてる?
相当夢見が悪かったみたいだね。可哀想に。
「亜美が居てくれて良かった……」
「私は何処にも行かないよ」
私達は自然な流れでキスをする。私達にとって一緒に繋がる事は、当たり前の事だから。
不安な時はこうやって、寄り添い合おうね。
「朝ご飯も私が作ったんだ。一緒に食べよ」
「うん、食べる。ありがとな」
私達は手を繋いで食卓まで行く。ほら、なんか、そうしたくて。
「あれ、信次は?」
「寝不足だったから寝かせといた」
「ああ、あいつ昨日遅かったからな」
「お昼くらいに電話して起こすつもり」
多分あの様子だと、そうでもしないと起きなそうだしね。
「じゃ、ちょっと寂しいけど食べよっか」
「「いただきます」」
「お、亜美も大分上達したじゃん。味噌汁美味くなった!」
「本当? ありがと!」
うう、成長してるようで良かったよお。
何気ないお味噌汁が成長出来たのは嬉しいな。
「昨日作ってた浅漬けも美味いな。頑張ったな」
「えへへ」
今日めっちゃ褒めてくれるじゃん。テンション上がるなあ。
「俺も負けてらんねえな。夜ご飯楽しみにしててな」
「うん、楽しみにしてるね!」
京平の夜ご飯はいつも美味しいけど、更に腕によりをかけるのかな?
そんなのめちゃくちゃ楽しみだよ!!
色々話をしながら、和気藹々と朝ご飯を食べて、私達は朝の支度をした。
お互いの寝癖で笑い合う時間も愛しいよ。
「「いってきまーす」」
京平は手を繋いでくれた。
私は何処にも行かないから安心して欲しいんだけどな。
でも、こんな時間も大好きだよ。ずっと一緒だからね。
たった5分の道程も、凄く愛しく感じるよ。
◇
今日の仕事は巡回。京平は午前中、院長代行の事務があるから、会えないのは寂しいな。
って、さっき手を繋いだばかりでしょ。笑顔だぞ、亜美。
「おはようございます、時任です。17時まで担当なので宜しくお願いします! 体温測りますね」
「お、今日は亜美ちゃんか。宜しくね」
今診てる大池さんは、入院2ヶ月目。
恰幅の良いプリン頭のおじさんで、笑顔がとても可愛い。
2型糖尿病が悪化してしまって、値の安定と生活リズムを整える目的で、入院を希望されたのだ。
リモートで仕事が出来てるのと、作らなくてもご飯が出てくるので、入院に苦は無いみたい。
でも、おやつとか食べてないのに、値が安定しないんだよね。
「36.5度ですね。血糖値は測られましたか?」
「ああ、250だったよ」
相変わらず高いなあ。
京平に報告して、薬を増やすか、割り切ってインスリン療法に切り替えるか相談しなきゃだな。
2型の人は薬での治療が主なんだよね。
運動しっかりしてるのになあ、大池さん。
毎日ご飯後に、ランニングしてるの見てるし。
「血糖値が下がらないので、深川先生に今後の治療法を再度相談してみますね」
「ありがとね亜美ちゃん。中々安定しなくてさ」
今の薬にして、もう1週間になるのに安定しないもんね。不安だよね。
「もうすぐご飯も来ますからね」
「最近ご飯美味しいからテンションあがるよ」
「深川先生が頑張ってますからね」
「ね、あの人内科医なのにね」
そうなの、内科医なのに悪いジジイに怒られながら、頑張ってるんだよ。
あのジジイ、今度会ったらとっちめてやる!
「では、失礼いたします」
まずは大池さんの事、京平に連絡しないと。
私は携帯で、京平に電話した。
「もしもし、深川です」
「あ、京平? 私だけど」
「ああ、亜美か。なんだ?」
「207号室の大池さんの事なんだけど、今朝も250と高めで、やっぱり安定しないみたい」
「そか、了解。治療法について、午後大池さんの病室に行くよ」
「うん、お願いね」
京平、ちょっと疲れた声してたなあ。
慣れない事務仕事だし、主任部長なのに院長代行業務だから、精神的にも来るものがあるよね。
京平は明らかに現場向きだからなあ。
だからこそ本人も、これ以上昇進したくないって言ってるし。
さてと、次の患者様の所へいかなきゃね。
◇
「んー、お昼だー。疲れた」
「土曜は巡回業務中心だもんな。羨ましい」
「京平は事務仕事、出来るけど苦手だもんね」
「午前中で片付けたけどな」
頭良い=デスクワーク向きって訳じゃないからね。
午後からは回診頑張ってね、京平。
「あ、亜美たち、こっちですわ!」
「のばら、お疲れ!」
休憩室に入ると、既にのばらが待っていた。
「あ、ちょっと待って。信次起こすから」
「信次寝てるの? 亜美、私が起こしますわ」
「え、あいつ中々起きないのにいいの? ありがと!」
のばらは信次に電話を架けると、可愛い笑顔で、信次を起こすのに成功した事を話してくれた。
「信次くん起きましたわよ。熟睡してたみたいですわ」
「ありがとー! はい、のばら。お弁当ね」
私はのばらにお弁当を渡すと、のばらは深いため息を吐く。
「ちょ、のばらどうしたの?」
「亜美、聞いてくださいまし!」
のばらは泣きながら、私に抱きついてきた。よくみると顔も相当疲れてる。
「のばら、こんな感情初めてですの。今まで好きになった人……は、深川先生なんですけど、深川先生の時は、ドキドキとか触りたいとかそんな欲望に満ちてたのに、今回なんか違うんですの」
「そっか、のばら、好きな人が出来たんだね」
信次には可哀想な結果だけど、失愛から立ち直って新たな恋に悩めるようになって良かったね、のばら。
のばらは照れながら、ゆっくり頷いて、続ける。
「その人といると、歳下なのに安心するし、守ってあげたくなるし、一緒にいると自然に笑えるし、作ってくれるご飯は美味しいし……なんだか、温かい気持ちですの。なんですの? この気持ち」
のばら、京平に対してはそんな気持ちじゃなかったんだね。
そっか、のばらは初めて知ったんだね。
「私が京平に思ってる事だよ。もう、解るよね?」
のばらは私をまじまじと見ながら、呟く。
「これが……愛してる? こんなに温かいんですのね。知らなかったのですわ」
のばらはまたゆっくり泣き始めた。愛の温かさに気付いた時って、泣けちゃうよね。
「深川先生ごめんなさい、私、深川先生の事、愛してはいなかったのですわ。もっとのばらを見て欲しい、好きになって欲しいって気持ちしかなかったのですわ」
「それも悪い事じゃないけど、愛って勘違いしちゃダメだぞ」
京平は優しく笑った。なんだかんだ、解っていたのかな? のばらの気持ち。
「今すぐ伝えたいのですわ。のばらの気持ち」
「のばらなら大丈夫だよ。しっかり伝えてね」
でも歳下だけど、のばらを惚れさせるなんてどんな人なんだろう?
のばら前、歳上好きだって言ってたのに。
しかもご飯も美味しいなんて、料理出来ないのばらにぴったりじゃん。
ん? 京平が笑いを堪えきれずに震えてる? 何がそんなにおかしいのよ!
のばらの幸せな話だというのに!
「でものばらを落とすなんて、相当なイケメンだろうなあ」
「あ、亜美……もしかして、気付いて、ない?」
「黙っときなのばらさん。ああもうダメ、腹いてえ! あははははは」
京平め、私を笑っていたんかい!
だって誰か聞いてないもん、解るわけないじゃん!
逆に解った人のが神だよ。私は凡人なだけだもん!
「亜美も良く知ってる人よ。寧ろ知らない訳がないというか」
「のばらさん優しいな、鈍感な亜美にヒントをあげるなんて」
「え、え、誰なの? 教えてよー!!」
だが、2人とも教えてくれなかった。意地悪!
「もうご飯食べるもん! いただきます!」
「そうだ、昼飯食ってなかったや。いただきます」
「温かい気持ちになりますわ。いただきます」
むすー。2人とも意地悪なんだから。
どうせ私はにぶにぶ亜美ちゃんですよーだ。
ああ、お弁当美味しいな! 朝から頑張ったんだもんね!
「ま、本人からの報告を待っとけ。亜美」
「あ、だから黙るように言ったのですわね」
「そ」
報告をしてくれるような仲なのか、その謎のイケメンと私の関係って。
そんなイケメン知らんぞ? ますます解んなくなったよお。
誰だよおおおおおおおおお。
◇
「そんなに拗ねるなよ。お弁当、今日も美味しかったぞ。ありがとな」
「どういたしまして。や、私だけ解らないってのが嫌なの!」
「さあ、切り替えて大池さんの所に行くぞ」
そうだ、今は仕事中。患者様の事を考えなくちゃ。
大池さんはこの時間なら、ランニング終わりで病室で休んでらっしゃるだろうしね。
「やっぱりインスリン療法になっちゃうかなあ」
「だな。でも、ランニングを継続して体重が落ちれば、薬に戻せるし、治る見込みも出てくるよ」
そこが2型糖尿病の良いところだね。
ただ、過去に暴飲暴食をしてただろうから、そんなに簡単ではないけどね。
大池さんは頑張ってらっしゃるから、成果が出て欲しいなあ。
「大池さん、深川です。今後の治療法についてお話しさせていただきます」
「時任です。同席させて頂きます」
「ああ、深川先生。お願いします」
京平は、今後の治療法について話し始めた。
「薬を併用しての治療を行いましたが、残念ながら血糖値、ヘモグロビンA1c共に高めです。その為、インスリン療法に切り替えます」
「つまり、注射を打つって事だね」
「はい。暫くは、看護師が毎食事前にインスリン注射を打ちますが、少しずつ自己注射も覚えていただきます」
「相変わらずデブだし仕方ないよな」
「体重は徐々に落ちてますので、心配要りませんよ。運動を続けていただければ寛解の見込みもありますので、頑張りましょうね」
すると、大池さんは不思議なお願いをする。
「なあ深川先生、今晩一緒に走ってくれないか? 運動療法として自分がやってる事が適切か知りたいんだ。なかなかデブ改善しないしさ」
「より脂肪燃焼に繋がる走り方もありますしね。では、少し遅めになりますが、19時ごろ伺いますね」
「ありがとう深川先生、先生は親身になってくれるから嬉しいよ」
京平ってば、一緒に走る約束してるよ。
19時なのは、先にご飯を作ってから走るからだな?
「時任も連れて行きますので、お願いいたします」
「お、亜美ちゃんとも走れるのはいいね」
「宜しくお願いします」
流れで宜しくお願いしますって言ったけど、聞いてないよー。京平め。
でも、どっちにしても私達走るし、私がいた方が都合が良いもんね。
「それでは、また夜お願いいたします」
「楽しみにしてますー!」
私達は病室を後にした。
「さてと、仕事終わったらすぐ買いに行かなきゃな」
「え、ご飯作るんじゃないの?」
「買わなきゃでしょ、亜美のジャージ。亜美のゆるゆる服見せたくねえよ」
確かにあの服、運動する格好じゃないし、人様に見せられるような服装じゃないもんね。
相手が患者様なら尚更だ。
「今日は晩ご飯、信次に頼むかな。時間ないし」
「朝寝かせてあげた分、夜頑張れってスタイルだね」
京平はそういうと、ササッと信次にライムで連絡をする。
「じゃ、お互い頑張ろうな」
「うん、またあとでね」
亜美「のばら、誰がすきなんだろ? イケメンって言ってたし友かなあって思ったけど、あいつ料理からきしだしなあ」
のばら「日比野さんは可愛い後輩ですわ」
亜美「あと、私に報告するようなイケメンなんていないよお。蓮は歳上だし、イケメンじゃないし」
蓮「おい、失礼だぞ!」
京平「さ、ジャージ買いに行くぞ」
亜美「良いのが見つかるといいな」