頑張る拓実くん(信次目線)
「じゃ、お互い後数時間、頑張りましょうね」
「うん、頑張ろうね!」
休憩時間が終わった僕達は、お互いを労って休憩室を後にする。
休憩が終わったら、お迎えフィーバーが待っていた。
「絵梨、ぐっすり寝てますね」
「今日は海苔巻きごっこをしましたからね」
「あ、それ昔やってたよ。すきな子に布団巻く時、テンション上がったなあ」
嘘、海苔巻きごっこポピュラーだったの?!
絵梨ちゃんのお父さんのピュアな時代、可愛いなあ。
「後、僕今日を以て、暫くお休みを頂きます。絵梨ちゃんにも伝えたかったのだけど」
「そっか、時任くん受験生だもんね。頑張ってね」
「ありがとうございます」
こうして絵梨ちゃんはお父さんに抱かれて帰っていく。
にしても、他のお父さんやお母さんも、海苔巻きごっこ知ってたんだよなあ。
海苔巻きごっこって単語を出すと、皆さん懐かしそうにしてたしね。
皆さん一度は海苔巻きになって育ったんだなあ。
さーて、皆を送り出したとこで、相変わらず拓実くんは寝ないなあ。
お父さん、院長が早く迎えにくるかもだから、待ってるんだろうな。
でも、早くって言っても、22時なんだけどね。予定時間。
普通の4歳児は寝てる時間だから、無理しないで。
「拓実くんは寝ないの?」
「とうちゃんがんばってるから、おきてる」
「お父さん心配しちゃうよ?」
「だって、とうちゃんおこしてくれないもん。あそびたいもん」
拓実くん、院長と遊びたいんだね。
院長は多忙だから、中番って事自体珍しいもんね。
院長、22時には迎えに来てくれるかな?
それとも、もっと遅くなっちゃうのかな?
「解った。じゃあ一緒に待ってようか」
「信次、ありがとな!」
今日もりす組は拓実くんしか居ないから、僕は拓実くんと遊ぶ事にした。
本当は寝かせた方がいいんだろうけど、僕も拓実くんと同じように、家で兄貴の帰りを待ってたから、気持ち解るんだよね。
いつも家で、亜美と兄貴の取り合いしたもんなあ。
で、すぐ2人とも寝かされるっていう、ね。
兄貴、大変だっただろうなあ。
「何して遊ぼっか?」
「とうちゃんにプレゼントつくろうかな。がんばってるもん」
「じゃ、一緒に作ろっか!」
拓実くんに折り紙の本を見せると、メダルを作りたいと言ったので、折り紙の本を見ながら、一緒に作る事にした。
「ああ、きれいにおれねえ」
「折り目を付けるとやりやすいよ」
「お、やってみるぜ!」
メダル、4歳には難しそうだなあ。
でも、拓実くんは自分で作り上げる気満々だ。
手伝おうとしたら、キッ! ってされたし。
それなら、僕は出来る限りサポートしていくからね。
「ああ、できたけどずれてる。やりなおしだ」
「折り紙の端と端を綺麗に合わせるといいかもね」
拓実くん、自分の作品には手を抜きたく無いタイプだね。
4歳にしては集中力も凄いし、院長の息子さんってだけの事はあるなあ。
もう10回は折り直してる。僕、4歳の頃、そんなにできなかったよ。
そんな拓実くんの努力の甲斐あって、遂に拓実くんが満足出来る作品が出来たみたいだ。
「後は真ん中にシール貼って、紐をつけて完成だね」
「きんぴかのをはるぜ!」
「紐はどのリボンがいいかな?」
「しろ! とうちゃんいつもしろいふくきてるから」
僕がリボンを渡すと、拓実くんはセロテープでメダルにリボンを付けて、ようやくメダルが完成した。
「やったぜ! とうちゃんよろこんでくれるかな……すー。すー。」
「ありゃ、拓実くん寝ちゃったか。起こした方がいいのかなあ?」
本人は起きたがってたけど、親御さんの立場を考えたら寝かせた方がいいんだよね。
僕が判断に迷っていると、小暮さんがやってきた。
「しー、寝かせといてあげて。実は院長、明日久々に休みなんだ。拓実くんの為に、ね」
「そうだったんですね」
「今日早いのも、明日朝から拓実くんと遊ぶ為って張り切ってたよ。拓実くんには寂しい思いさせてるからって、頑張ったみたい」
それならたくさん寝とかなきゃね。明日は楽しんでね、拓実くん。
僕は拓実くんを布団に運んで寝かせた。
完成したメダルは、拓実くんの鞄の中に入れとく。直接渡したいだろうしね。
「結局、子供達にしばらく会えなくなる事、言えなかったな」
「大丈夫、私が時任くんの話しとくから。君を過去にはしないよ」
「ありがとうございます。小暮さん」
寂しくなるけど、やる事やって戻ってくるからね。出来れば忘れずに待っててね。
いや違うな、忘れても構わないから、元気な笑顔をまた見せてね。
「すみません、拓実寝てますか?」
「あ、院長。今寝たとこですよ」
時計を見ると22時。院長、拓実くんの為に定時で上がったんだね。
「よっこらしょ。明日は家族で遊園地に行くぞ」
「久々ですもんね。院長が休み取られるの」
「最近はオペが続いたからな。拓実には寂しい思いをさせてしまったよ」
「家族第一ですもんね、院長は」
「そう、家族がいるから頑張れるからな」
院長は拓実くんをおんぶして、小暮さんと話してる。
「院長先生、お久しぶりです」
「おお、信次くんもお疲れ様。拓実からも信次くんの話は聞いてるよ」
「そうなんですか?」
「ああ、変な奴が最近来たけど良い奴だぞ、ってな」
変な奴扱いは相変わらずなんだな! ちょっと切ない。
「いつも拓実をありがとな、受験勉強頑張れよ。そして、五十嵐病院に入社してくれ」
「こらこら院長、まだ5年以上先の話ですってば」
「そうだったな。そうだ、ライム交換しとこうか。拓実が寂しがるといけないからな」
僕と院長は、拓実くんをキッカケにライム交換した。うわあ、バイトの身分でこれは光栄過ぎるよ。
「それと、冴崎を守ってくれて有難う。深川から聞いたぞ。怪我は大丈夫かね?」
「はい、まだちょっと痛みますが、大分回復しました」
「そかそか。九久平は首にしたから、安心してくれ」
院長はそう言った後、子守唄を歌いながら帰って行った。
やっぱりあの九久平は首になったか。のばらを殴ろうとしたから当然だな。ざまーみろ!
「よーし、今から休憩時間だ。カツ丼食いにいくぞ!」
「小暮さん、休憩時間に僕とご飯するんですね?!」
「だってそうしなきゃ、人足んないんだもん」
「え、もしや明日休みだから朝から朝まで通し……」
「あ、気付いちゃったか!」
小暮さん、頑張るなあ。僕が居ない間、ここは大丈夫なんだろうか?
兄貴以上に過酷な勤務だし、小暮さんがぶっ倒れないか心配すぎる。
院長、早く人を増やしてあげてね。
「じゃあ着替えたら緊急外来前ね」
「了解です!」
よっしゃ、カツ丼カツ丼。美味しいとこって言ってたから楽しみだな。
僕はサッと着替えて更衣室を出ると、ちょうど着替え終わったのばらに会った。
「信次、お疲れ様」
「のばらもお疲れ様!」
「今からカツ丼ね。羨ましいのですわ」
と、のばらが言い切る前に、盛大な腹の音が外に響き渡った。犯人は勿論……。
「は、恥ずかしいのですわ」
「のばら、もしかしなくてもお腹空いてるよね?」
「今日は巡回多めだったから、お腹空いたのですわ」
どうしよう。僕、今から小暮さんとカツ丼だから、ご飯作ってあげられないし。
でも、腹ペコののばらを放っておくなんて、出来ないよ。
僕が困っていると、甲高い声が響く。
「話、いや、腹の音は聞かせてもらったよ!」
「小暮さん!」
「やだ、小暮さんにも聞こえてらしたんですね」
「お腹空いてんなら、一緒にカツ丼食べよ。冴崎さん、1人ご飯出来なそうだしね」
「何故それを?! そうなのですわ、本当にありがたいのですわ!」
「よーし、じゃあ皆で行こっか!」
こうして、小暮さんとのばらと僕とで、カツ丼を食べに行く事になった。
不思議な組み合わせだなあ。
信次「拓実くん、明日は楽しんでおいでね」
京平「院長明日休みかあ、気を引き締めねば」
のばら「かっつどん! かっつどん!」
亜美「そういえばのばらってお嬢様なのに、色んな食べ物知ってるよね」
のばら「料理本を見るのが趣味なのですわ。作れないけど」