表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
入り乱れる心と心
106/238

頑張る拓実くん(信次目線)

「じゃ、お互い後数時間、頑張りましょうね」

「うん、頑張ろうね!」


 休憩時間が終わった僕達は、お互いを労って休憩室を後にする。

 休憩が終わったら、お迎えフィーバーが待っていた。


「絵梨、ぐっすり寝てますね」

「今日は海苔巻きごっこをしましたからね」

「あ、それ昔やってたよ。すきな子に布団巻く時、テンション上がったなあ」


 嘘、海苔巻きごっこポピュラーだったの?!

 絵梨ちゃんのお父さんのピュアな時代、可愛いなあ。


「後、僕今日を以て、暫くお休みを頂きます。絵梨ちゃんにも伝えたかったのだけど」

「そっか、時任くん受験生だもんね。頑張ってね」

「ありがとうございます」


 こうして絵梨ちゃんはお父さんに抱かれて帰っていく。

 にしても、他のお父さんやお母さんも、海苔巻きごっこ知ってたんだよなあ。

 海苔巻きごっこって単語を出すと、皆さん懐かしそうにしてたしね。

 皆さん一度は海苔巻きになって育ったんだなあ。

 

 さーて、皆を送り出したとこで、相変わらず拓実くんは寝ないなあ。

 お父さん、院長が早く迎えにくるかもだから、待ってるんだろうな。

 でも、早くって言っても、22時なんだけどね。予定時間。

 普通の4歳児は寝てる時間だから、無理しないで。


「拓実くんは寝ないの?」

「とうちゃんがんばってるから、おきてる」

「お父さん心配しちゃうよ?」

「だって、とうちゃんおこしてくれないもん。あそびたいもん」


 拓実くん、院長と遊びたいんだね。

 院長は多忙だから、中番って事自体珍しいもんね。

 院長、22時には迎えに来てくれるかな?

 それとも、もっと遅くなっちゃうのかな?


「解った。じゃあ一緒に待ってようか」

「信次、ありがとな!」


 今日もりす組は拓実くんしか居ないから、僕は拓実くんと遊ぶ事にした。

 本当は寝かせた方がいいんだろうけど、僕も拓実くんと同じように、家で兄貴の帰りを待ってたから、気持ち解るんだよね。

 いつも家で、亜美と兄貴の取り合いしたもんなあ。

 で、すぐ2人とも寝かされるっていう、ね。

 兄貴、大変だっただろうなあ。


「何して遊ぼっか?」

「とうちゃんにプレゼントつくろうかな。がんばってるもん」

「じゃ、一緒に作ろっか!」


 拓実くんに折り紙の本を見せると、メダルを作りたいと言ったので、折り紙の本を見ながら、一緒に作る事にした。


「ああ、きれいにおれねえ」

「折り目を付けるとやりやすいよ」

「お、やってみるぜ!」


 メダル、4歳には難しそうだなあ。

 でも、拓実くんは自分で作り上げる気満々だ。

 手伝おうとしたら、キッ! ってされたし。

 それなら、僕は出来る限りサポートしていくからね。


「ああ、できたけどずれてる。やりなおしだ」

「折り紙の端と端を綺麗に合わせるといいかもね」


 拓実くん、自分の作品には手を抜きたく無いタイプだね。

 4歳にしては集中力も凄いし、院長の息子さんってだけの事はあるなあ。

 もう10回は折り直してる。僕、4歳の頃、そんなにできなかったよ。

 そんな拓実くんの努力の甲斐あって、遂に拓実くんが満足出来る作品が出来たみたいだ。


「後は真ん中にシール貼って、紐をつけて完成だね」

「きんぴかのをはるぜ!」

「紐はどのリボンがいいかな?」

「しろ! とうちゃんいつもしろいふくきてるから」


 僕がリボンを渡すと、拓実くんはセロテープでメダルにリボンを付けて、ようやくメダルが完成した。


「やったぜ! とうちゃんよろこんでくれるかな……すー。すー。」

「ありゃ、拓実くん寝ちゃったか。起こした方がいいのかなあ?」


 本人は起きたがってたけど、親御さんの立場を考えたら寝かせた方がいいんだよね。

 僕が判断に迷っていると、小暮さんがやってきた。


「しー、寝かせといてあげて。実は院長、明日久々に休みなんだ。拓実くんの為に、ね」

「そうだったんですね」

「今日早いのも、明日朝から拓実くんと遊ぶ為って張り切ってたよ。拓実くんには寂しい思いさせてるからって、頑張ったみたい」


 それならたくさん寝とかなきゃね。明日は楽しんでね、拓実くん。

 僕は拓実くんを布団に運んで寝かせた。

 完成したメダルは、拓実くんの鞄の中に入れとく。直接渡したいだろうしね。


「結局、子供達にしばらく会えなくなる事、言えなかったな」

「大丈夫、私が時任くんの話しとくから。君を過去にはしないよ」

「ありがとうございます。小暮さん」


 寂しくなるけど、やる事やって戻ってくるからね。出来れば忘れずに待っててね。

 いや違うな、忘れても構わないから、元気な笑顔をまた見せてね。


「すみません、拓実寝てますか?」

「あ、院長。今寝たとこですよ」


 時計を見ると22時。院長、拓実くんの為に定時で上がったんだね。


「よっこらしょ。明日は家族で遊園地に行くぞ」

「久々ですもんね。院長が休み取られるの」

「最近はオペが続いたからな。拓実には寂しい思いをさせてしまったよ」

「家族第一ですもんね、院長は」

「そう、家族がいるから頑張れるからな」


 院長は拓実くんをおんぶして、小暮さんと話してる。


「院長先生、お久しぶりです」

「おお、信次くんもお疲れ様。拓実からも信次くんの話は聞いてるよ」

「そうなんですか?」

「ああ、変な奴が最近来たけど良い奴だぞ、ってな」


 変な奴扱いは相変わらずなんだな! ちょっと切ない。


「いつも拓実をありがとな、受験勉強頑張れよ。そして、五十嵐病院に入社してくれ」

「こらこら院長、まだ5年以上先の話ですってば」

「そうだったな。そうだ、ライム交換しとこうか。拓実が寂しがるといけないからな」


 僕と院長は、拓実くんをキッカケにライム交換した。うわあ、バイトの身分でこれは光栄過ぎるよ。


「それと、冴崎を守ってくれて有難う。深川から聞いたぞ。怪我は大丈夫かね?」

「はい、まだちょっと痛みますが、大分回復しました」

「そかそか。九久平は首にしたから、安心してくれ」


 院長はそう言った後、子守唄を歌いながら帰って行った。

 やっぱりあの九久平は首になったか。のばらを殴ろうとしたから当然だな。ざまーみろ!


「よーし、今から休憩時間だ。カツ丼食いにいくぞ!」

「小暮さん、休憩時間に僕とご飯するんですね?!」

「だってそうしなきゃ、人足んないんだもん」

「え、もしや明日休みだから朝から朝まで通し……」

「あ、気付いちゃったか!」


 小暮さん、頑張るなあ。僕が居ない間、ここは大丈夫なんだろうか?

 兄貴以上に過酷な勤務だし、小暮さんがぶっ倒れないか心配すぎる。

 院長、早く人を増やしてあげてね。


「じゃあ着替えたら緊急外来前ね」

「了解です!」


 よっしゃ、カツ丼カツ丼。美味しいとこって言ってたから楽しみだな。

 僕はサッと着替えて更衣室を出ると、ちょうど着替え終わったのばらに会った。


「信次、お疲れ様」

「のばらもお疲れ様!」

「今からカツ丼ね。羨ましいのですわ」


 と、のばらが言い切る前に、盛大な腹の音が外に響き渡った。犯人は勿論……。


「は、恥ずかしいのですわ」

「のばら、もしかしなくてもお腹空いてるよね?」

「今日は巡回多めだったから、お腹空いたのですわ」


 どうしよう。僕、今から小暮さんとカツ丼だから、ご飯作ってあげられないし。

 でも、腹ペコののばらを放っておくなんて、出来ないよ。

 僕が困っていると、甲高い声が響く。


「話、いや、腹の音は聞かせてもらったよ!」

「小暮さん!」

「やだ、小暮さんにも聞こえてらしたんですね」

「お腹空いてんなら、一緒にカツ丼食べよ。冴崎さん、1人ご飯出来なそうだしね」

「何故それを?! そうなのですわ、本当にありがたいのですわ!」

「よーし、じゃあ皆で行こっか!」


 こうして、小暮さんとのばらと僕とで、カツ丼を食べに行く事になった。

 不思議な組み合わせだなあ。

信次「拓実くん、明日は楽しんでおいでね」

京平「院長明日休みかあ、気を引き締めねば」

のばら「かっつどん! かっつどん!」

亜美「そういえばのばらってお嬢様なのに、色んな食べ物知ってるよね」

のばら「料理本を見るのが趣味なのですわ。作れないけど」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ