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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
入り乱れる心と心
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応えられない痛み(信次目線)

 え、ちょっと待って。いま、好きって言った?


「本当は信ちゃんが、もう少し大人になったら言うつもりだったのに、勝手に大人にならないでよ」

(あかり)、そんな前から僕の事……」


 (あかり)はハッとして、僕を見つめる。


「そうだよ、海里が信ちゃん連れて来た時から。冷静で、家族思いで、言う事は言うけど優しい信ちゃんが、好きなんだもん」


 (あかり)はそう言うと、押入れからドカドカ何かを出して来た。


「これは5歳の誕生日プレゼント、これはクリスマスプレゼント、これは10歳の誕生日プレゼント、これは……」

「ずっと、プレゼントも用意してくれてたの?」

「そうだよ、照れ臭くて渡せなかっただけだもん!」


 どうして僕は気付いてあげられなかったんだろう。

 (あかり)は、こんなに僕の事を思ってくれているのに。

 それと同時に、どうして僕はそれを知っても、(あかり)の気持ちに応えてあげられないんだろう。


「ごめんね、(あかり)。僕、のばらの事を愛してるから、(あかり)とは付き合えない」


 すると(あかり)は、大きなため息を吐いて語り出す。


「違うでしょ。私の事、好きじゃないから付き合えないんでしょ。そんな優しさ要らないよ」

「ごめん……気付いてあげられなくて」

「ふんだ、信ちゃんなんかのばらさんにフラれちゃえばいいんだ。後で後悔しても遅いんだからね」


 (あかり)はそう強がって、会社へと出掛けて行く。

 泣いてる事は解っていたけど、僕は何も言えなかった。

 すると、部屋の戸が開く音がした。


「ねえちゃん、告白したんだね」

「海里……僕」

「ねえちゃん、アピール全くしてなかったし、気付かないのも無理ないよ。プレゼントも渡せって言ってたのになあ」


 海里は僕を責めたりはしなかったけど、心配そうな顔をしている。

 ずっと(あかり)の思いを知ってたんだろうな。

 起きて来たのも、(あかり)が泣いてたからだね。


「なあ信次、厚かましい願いなのは解ってんだけど、ねえちゃんのプレゼント、貰ってやって。これがあると、ねえちゃんが前に進めないから……」

「解った。(あかり)の気持ちに気付けなかった責任もあるし」

「全然捨てていいからな。11年分あるし」


 9歳から20歳の(あかり)からのプレゼント。

 僕を思って、用意してくれてたプレゼント。

 応えられなくてごめんね、(あかり)

 大切にするからね。だから、僕の事は忘れてね。

 

「ねえちゃんがごめんな、信次」

「ううん。今まで気付けなかったし、応えられない僕がいけないから」


 僕は、(あかり)が渡せなかった僕へのプレゼントを持って、瀬尾家を後にした。

 部屋に戻った僕は、ひとつずつプレゼントを開けていく。

 (あかり)は丁寧に、プレゼントひとつひとつに、メッセージカードを付けてくれてる。


「これはカメカメマンの鉛筆だ。昔流行ってたし、好きだったなあ」


"信ちゃん、おたんじょうびおめでとう。たのしんでね。"


「お、カメカメマンのメンコだ。この時の僕、カメカメマンすきだったもんなあ」


"信ちゃん、クリスマスだね。よろこんでくれたらいいな。"


「お、これは料理本だ。この頃から兄貴と一緒に料理作るようになったんだよね」


"信ちゃんおめでとう! かぞくのためにがんばる信ちゃんはえらいぞ!"


 そうやって、ひとつずつプレゼントを開けてく度に、(あかり)の優しさが伝わって来て、ものすごく僕は苦しくなった。

 でもいい、僕だけが苦しめばいいから、(あかり)は前に進んでね。

 僕が(あかり)に出来るのは、もうそれだけだから。


 僕って最低だよ。

 泣きたいのは(あかり)のはずなのに、なんで僕が泣いているんだろう。

 朝、あんなに泣かせて貰ったのに、まだ泣いてるんて、バカバカバカ。

 最低な上にバカだよ、僕。


 僕は(あかり)のプレゼントと、メッセージカードを机にしまって、結局泣き続けてしまった。

 そうしているうちに、時刻は11時半になる。


ーーピンポーン。


「のばらですわ。お弁当取りに来ましたわよ」


 いけない、のばらが来た。こんな顔、見せらんないや。

 僕は急いで顔を洗って、のばらを出迎える。


「のばら、お待たせ。お弁当だよ」

「信次、どうしたの? 泣いてるじゃない?」


 嘘、顔も洗ったのに。新たな涙が溢れて止まらないでいるよ。


「大丈夫、大した事じゃないから。じゃ、また夜ね」


 (あかり)の事はのばらには言えないな。僕は慌てて誤魔化した。

 でも、のばらは心配そうに僕を見つめる。


「信次は泣くタイプじゃないから、心配ですわ」

「そ、そうでもないよ。多分ちょっと疲れただけ。心配してくれてありがとね。仕事頑張ってね」


 僕は嘘も交えながら、のばらを帰そうとするんだけど、のばらは納得してくれない。


「少し休んだ方がいいですわ」


 のばらは僕を運ぼうとしだしたけど、運べる訳がなかった。

 ので、僕はとりあえず、のばらと僕の部屋に入る。

 のばらは部屋に入ると、僕の布団を敷いてくれて、僕を寝かせてくれた。


「少し側にいますわ。だから、安心してくださいませ」


 そういうとのばらは、僕をポンポンしながら、手を握ってくれた。

 どんな時だって、のばらは優しいね。こんなに最低な僕なのに。


「今日のバイトも無理しないでくださいまし。でも、出来れば会いたいのですわ」

「僕も、のばらに会いたいな」

「それなら、いまはゆっくり寝るのですわ。信次は頑張っているから」

「ありがとね、のばら」


 のばらがポンポンしてくれたお陰かな。なんか、安心してきたよ。

 落ち着いてきた僕は、泣きながらではあるけど、ゆっくり眠りに着く。

 

「おやすみ、のばら」

「おやすみ、信次」


 ◇


 それから僕は、安心した気持ちで眠っていたんだけど、時折夢ののばらが微笑みかけるから、きっとニヤけ顔で寝てただろうなあ。

 でも、お陰で少し前向きに捉える事は出来たよ。

 最低なのは変わらないにしても、それで落ち込む必要はないのだから。

 選べなかったのだからしょうがない、で済む話ではあるんだし。

 あ、そういえば、僕アラーム掛けてなかったな。やばい、今何時だろう。

 そう思った時、僕の携帯電話が鳴った。僕はその音と共に目覚める。


「もしもし」

「信次、良かった。アラーム掛けられなかったから、電話で起こしましたわ。後30分ですわよ」

「わざわざありがと。お陰で起きれたよ」

「お互い頑張りましょ!」


 のばら、わざわざ電話で起こしてくれるなんて。

 にしても僕、ガッツリ寝過ぎでしょ。思った以上に疲れてたみたいだね。

 さーて、支度しなきゃ。鞄にお弁当2つ入れていざ出発。

 う、昼ご飯食べてないからお腹減ったけど、我慢我慢。

 今日を以て、しばらくバイトは休みになるんだしね。

 僕は駆け足で五十嵐病院まで向かう。


 急いで着替えた僕は、遅番の人達が子供達を預ける手伝いをする。

 今日は結構遅番の人多いなあ、皆様お疲れ様です。

 大学生になったら、僕ももう少しバイト入りたいなあ。

 医学生にそんな暇はないらしいって噂にしても。


「よ、時任くん。今日終わったら完全なる受験生だね」

「小暮さん、そうですね。頑張ります」

「そうだ、ご飯どこがいいとかある?」

「カツ丼食べたいです!」

「おっけ! 私美味しいとこ知ってるから、任せときな」


 小暮さんはめちゃくちゃ笑顔で、ピースする。

 僕は小暮さんから、りす組さん担当だよって伝えられてりす組へ向かった。

 今日はカツ丼を楽しみにしながら、頑張るぞ。

 

 りす組では、今日もまたヘンテコリンな遊びが流行っていた。


「お、信次。やっときたか」

「そう言えば、遅番さんの中に拓実くんいなかったね。今日は何時からいるの?」

「12時から。父ちゃんはやくむかえにくるかもなんだ」

「お、それは楽しみだね」

「うん、いっぱいあそんでもらうんだ。のりまきごっこで!」


 ん? のりまきごっこ?


「いまみんなやってるぜ、信次ものりまきにしてやるよ」

「あ、それで僕を待ってたのか。なるほど」

「ふいー、信次、のりまきあったかいよ」


 既にのりまきにされた絵梨ちゃんが、転がりながら話しかけてきた。

 どうやらのりまきごっことは、身体を具材に見立て、布団を海苔に見立て、身体に布団をぐるぐる巻きつける遊びのようだ。

 でも、僕布団持ってないんだよなあ。海苔巻きになれないじゃん。


「安心して時任くん、職員用の布団あるから!」

「あ、小暮さん。今日も監視してくれてたんですね」

「そ、安心して海苔巻きになってね」


 小暮さんは拓実くんの側に布団を置いて、去っていった。


「よし、信次、ふとんのすみにねっころがれよ」

「はーい!」


 とは言ったものの、僕の体重を拓実くんが転がす事はほぼ不可能なんじゃないか?

 これは布団が動くと同時に、僕が巻かれにいくしかないな。


「えいや!」


 よし、布団が動いた! 僕はすかさず、布団を身体に巻きつけた。

 ふ、身動きが取れないな。


「ふう、のりまきしょくにんのあさははやいぜ」


 今夕方なんだけどな! こうして拓実くんの手によって、多くの子供達が海苔巻きと化した。

 子供達は身動きが取れない状態を何故か楽しんでいて、中には遊び疲れたのと布団の気持ちよさで眠る子もいた。


 拓実くんは、そんな海苔巻きな僕らを、コロコロ転がしてくる。

 僕は拓実くんの意図する場所に、頑張って自力で転がってるけど。なにこれ、キツい。

 子供は軽いから羨ましいなあ、と思いながら、僕は海苔巻きとして時間を過ごした。


 とは言え、寝てる子達は普通に寝かせてあげたいし、そろそろ海苔巻きやめたいな。

 拓実くんには悪いけど、そろそろ寝てる子達を解放してあげなきゃね。

 僕は海苔巻きから、人間に戻った。ふー。人間っていいな。


「あ、信次、のりまきからにげるなよ!」

「しー、寝てる子は海苔巻き卒業させてあげなきゃね」

「あ、絵梨もねてるじゃん。たしかにのりまきはかわいそうだよな」


 なんだかんだで良い子だね。

 僕は海苔巻きを解いて、そのまま海苔だった布団に皆を寝かせていく。

 ゆっくりおやすみ、皆。

 やれやれ、ほとんどの子達が寝ちゃったな。

 しばらくこれない事は伝えたかったんだけど。


「おやすみ、絵梨」


 ふふ、拓実くん、絵梨ちゃんの寝顔みて、男らしくなってるじゃん。頼もしいな。


「時任くん変わるよ。休憩行っといで。いやあ、今日は沢山寝てるねえ」

「海苔巻きになってましたからね」

「時任くんの海苔巻き面白かったわ」

「小暮さん、結構大変だったんですよ」


 海苔巻きは疲れる事を力説しながら、僕は休憩室までいく。

 休憩室まで行くと、のばらが笑いながら手を振ってる。


「信次、こっちですわ」

「のばらもお疲れ様」


 なんだかんだでまだ返事は貰えてないし、ネガティブに捉えすぎて朝は泣いちゃったんだけど、やっぱりのばらといると落ち着くんだよね。


「今日のお弁当も楽しみですわ」

「口に合うといいな」


 そういえば22時にはカツ丼が待ってるんだよなあ。昼抜きとはいえ、お弁当2個は食べ過ぎかなあ。

 1個目を食べてから考えるか。


「んー、今日のお弁当も美味しいですわ。ぶりの照り焼きの絶妙な味付けもさる事ながら、この切り干し大根が良い感じですの!」


 相変わらず、魅力的な美味しい顔だな。

 この顔を見る為なら、いくらでもご飯作ってあげたくなるよ。


「今日は和食とサンドイッチにしてみたよん」

「飽きが来ないし、素晴らしいですわ!」


 って、のばら、もうお弁当食べ尽くして、サンドイッチ食べてるじゃん。

 よし、まだ食欲ありそうだし、僕のお弁当1個あげよっと。


「のばら、もう1個お弁当あげる。中身は違うやつ」

「え、いいんですの? 嬉しいのですわ!」

「僕、この後小暮さんにカツ丼奢ってもらうからね」

「え、羨ましいのですわ」


 既にお弁当とサンドイッチも食べ終わって、僕のお弁当も食べてるのに羨ましいって言えるのばらの食欲が凄いよね。


「僕、明日からバイト暫く休むからさ。受験勉強頑張らなくちゃ」

「なるほど、小暮さんなりの景気付けなんですわね。寂しくなりますわ」

「お弁当はこれからも作るし、年末は勉強見に来てね」

「勿論ですわ。信次にも海里くんにも合格して貰わなきゃ!」


 最近気疲れから寝ちゃってばかりだから、明日からは本腰いれなきゃ!

 涙も今日で最後だぞ、僕。まずは勉強だぞ。

 海里の風邪治ってたら、一緒に勉強するかな。

 そう言えば兄貴、いつから休みなんだろ?

 兎にも角にも、目指すはひとつ。


「絶対合格するからね」

「その息ですわ!」


 と、 のばらは言いつつも。


「でも、今日みたいに泣くほど無理はしないでくださいまし。程々が1番ですわ」

「心配させてごめんね、のばら」


 のばらにそう言うと、のばらは僕の頭をくしゃくしゃにして笑う。


「でも、今はいつもの信次だから安心しましたわ」

「いっぱい泣かせて貰ったし、休んだしね」

「明日はちゃんと勉強するのですわ」

「勿論!」


 フラれた自分を想像して泣いたり、人を傷つけて泣いたり、色々あったけど、亜美と兄貴とのばらのお陰で立ち直れたしね。


「ありがとね、のばら」

「あら、 のばらは何もしてないですわ」


 僕を寝かせてくれて、更には起こしてくれたのに、そんな事言っちゃって。

 ますます愛しちゃうじゃん。おバカのばら。


「のばら」

「なんですの?」

「なんでもない」


 本当は愛してるって言いたいけど、のばらは真面目だからこんなとこで言われたく無いはずだから。

 でも、片想いなんだけど、また伝えさせてね。

 伝えたくてたまらないから。

のばら「なんでもないなら、名前呼ばないでくださいまし!」

信次「ごめんね、のばら」

京平「友達以上恋人未満な感じだなあ」

信次「恋人になりたいいいいい」

亜美「のばらは、何が解らないんだろ。聴いてみなきゃ」

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