止まらない涙(信次目線)
「うーん、よく寝た」
朝4時半、かなり早いんだけど、亜美達も遅かったし、朝の家事は僕だけでやるつもり。
兄貴にキャッシュカードを渡したら、やっぱり高い買い物をしてからに。
僕達へのプレゼントにお金掛けすぎでしょ。
もう渡さないようにしなきゃ。
僕は洗濯機のスイッチを入れて、朝ご飯とお弁当作りを始める。
今日は僕バイトあるから、お弁当5つだね。
バイトまでは、海里のお見舞いと勉強があるから、お弁当のが都合良いんだよね。
海里のお母さんは昨日無事に治ったけど、海里はどうかなあ。
睡眠取ってるならそろそろ治るかな?
今日のバイト行ったら、しばらくはバイト休んで受験勉強しなきゃだから、子供達にも伝えとかなきゃ。
寂しいけど、受験が終わったら戻ってくるからね。
さーて、今日の朝ご飯は、ソーセージとスクランブルエッグとコーンスープにしよ。
それと並行して、お弁当も作ってくぞ。
今日ものばら、喜んでくれたらいいな。
律儀にお礼言ってくれたのが嬉しかったなあ。
のばらにはサンドイッチも作ってあげよ。野菜たっぷりいれて。おっと、生ハムも入れよ。
僕の力で、のばらの栄養失調を改善させてあげなきゃ。
のばら、あんなに食べる子なのに、今までよく耐えて来たよね。
それだけ真剣に、看護師という仕事と患者様に向き合っていたんだね。
これからは僕も支えるからね。
僕がお弁当を詰め出した頃、亜美が起きて来た。
「おはよー、信次」
「おはよ、亜美。今日は僕が朝の家事やるから、兄貴と一緒に起きといで」
「え、いいの? 眠たかったからありがたや。じゃあ、おやすみー」
「おやすみ、亜美」
昨日遅かったし、亜美呑んでたもんね。
しかもテンション上がってて、むちゃくちゃ僕に指輪見せつけて来たもんな。
兄貴はめちゃくちゃ照れてたけど。
だから亜美、無理はしないでね。
よし、お弁当も詰め終わったぞ。
皆美味しいって、言ってくれたらいいな。
洗濯機も終わったみたいだし、干そうかな。
実は亜美には無理させたくないってのは、兄貴から言って来たんだよね。
俺が起きるから、亜美は寝かせといてって。
でも僕は、兄貴にも無理して欲しくないから、僕が全部やる道を選んだ。
遅かったのは2人ともなんだし、ね。
僕学校休みなんだし、もっと甘えてもいいのに。
にしても、のばらの選んだ亜美のワンピ、亜美に似合ってたし可愛かったなあ。
これからは亜美の服、のばらに選んで貰おうかなあ。
僕達が選ぶと、どうしてもボーイッシュになっちゃうし、亜美も照れてスカートは嫌がるし。
そんな事を考えながら、僕は洗濯物を干し終わった。
なんか亜美のワンピも、そうだねって言ってるみたい。
元々朝の家事は1人でやってたし、お弁当がちょっと増えても大丈夫だな。
僕が休みの時は、亜美も寝かせてあげようかな。亜美も働いてるんだし。
って、抱え込み過ぎると、また僕寝ちゃうな。程々にしなきゃね。受験生だし。
よーし、朝ご飯も完成。まだ余裕あるから、コーヒー飲もっと。
朝のコーヒーはリラックス出来るし、目も醒めるし良いね。
ふー。ボーッとしてると、のばらの事ばかり浮かぶ。
どんな返事をくれるんだろう。のばら、歳上好きだし、やっぱり圏外なのかなあ。
ダメだ、考えると涙が止まらない。どんだけ愛してるんだよ、バカ。
のばら、愛してるよ。片想いだとしても、思い続ける自信があるよ。
ごめんね、スッキリしないね、僕。
僕が泣きながらコーヒーを飲んでると、2人とも起きて来た。
「信次、おはよ。大丈夫? ごめんね、朝の家事大変だったよね」
「ああ、おはよう亜美。全然平気。そっちは」
「おはよ信次。あっちで話聴こうか?」
「大丈夫、心配かけてごめんね。2人とも」
もう僕が泣いてる事はバレバレだな。亜美にも話しておこう。
「僕、 のばらさんを愛してて、でも告白保留されちゃって、フラれた訳じゃないのに嫌な事ばかり考えちゃった」
「え、信次、のばらの事愛してたの?」
「僕なんてまだ子供なのに、ね」
「信次は成熟してるし、立派な男だよ。そこは自信持ちな」
兄貴が優しく僕を抱きしめてくれた。
情けないよね。まだ結果が出た訳じゃないのに泣いてるんだもん。
人を愛するって、こんなに苦しい事でもあるんだね。でも、愛する事を止められないんだね。
「ごめんね。ご飯にしよっか」
僕は兄貴を振り払って、無理矢理朝ご飯の支度をしようとしたんだけど、亜美に静止された。
「ダメ、もっと泣いていいよ信次。苦しいんでしょ?」
今度は亜美が優しく抱きしめてくれた。
何でバレちゃうかなあ、まだ泣き足りないこと。
色々あるんだけど、単純に今、苦しいんだよ。
兄貴、亜美、ありがとね。今は泣かせてね。
もうちょっとしたら笑うからね。
◇
結局、兄貴も亜美も優しいから、ギリギリまで泣かせてくれた。
慌てて朝の準備をさせちゃって申し訳ない。
でも、おかげで大分すっきりした。
海里の様子みたら、少し昼寝して気持ちにゆとりを持とう。
「信次です、海里の様子を見に来ました」
「ああ、信ちゃん。いつもすまないね」
玄関口に、海里のお母さんが出迎えてくれた。
「海里も、やっと普通のご飯食べれるようになったよ」
「それなら良かったです」
そんな訳で様子を見に、僕は海里の部屋に入る。
海里はご飯をむしゃむしゃ食べていた。
「よ、信次! 連日ありがとな」
「大分顔色良くなったね。安心したよ」
「熱も下がって来たよ。良かったわあ」
海里、やっと隈も引いて来たし、良かった。
「後は微熱って感じかな?」
「だな。今日も寝て完治するぞ」
そう言って、海里はご飯を食べ尽くし、薬を飲んでさっさと寝てしまった。
これなら明日には完治するかな?
僕は安心して、海里の部屋を後にする。
部屋から出ると、出勤間際の灯に出会した。
「あ、信ちゃん、おはよ。海里のお見舞いありがとね」
「あ、灯、おはよ。もう少しで治りそうだね」
「信ちゃんのお陰だよ。ありがとね。あれ、信ちゃん、泣いてた?」
灯は心配そうに僕を見つめる。
僕って意外と隠し事出来ないな。灯に泣いてた事バレちゃうなんて。
「私の部屋においで。話聞かせてよ」
「ちょ、灯、仕事あるでしょ?!」
「信ちゃんの方が大事!!」
僕は引っ張られるがまま、灯の部屋へ連行された。
「何があったの?」
「や、どうって事は無いけど」
言うの恥ずかしいんだよ。そもそも灯には言うつもり自体無かったし。
けど、泣いた事バレてるんなら、言うしかないな。
「のばらに告白して、返事保留されて、悪い風に考えちゃっただけ。おかしいでしょ、フラれた訳じゃないのにね」
自分でも解ってるんだよ、おかしいのは。
ただ、曖昧にされちゃうと、嫌な方向に考えやすいのは昔からだけど。
すると、灯は、ワナワナとしだした。やべ、これ怒ってるな。
「なにそれ。信ちゃん昔からパッキリしてないとダメなのに酷すぎる。許せない」
灯は僕を布団に押し倒して、そのまま僕の視線までかかんで、真摯な目で僕を見つめる。
当の僕がびっくりして、何も言えずにいると、灯は一息で捲し立てた。
「そんなやつ止めて私にしなよ、ずっと好きだったんだから」
作者「信次は強メンタルだけど、ポジティブな訳じゃなくて、その時の最適解を選ぶタイプで、答えのしっかり出せない曖昧な対応をされると、途端にネガティブになるんです」
京平「パッキリしていれば、悪い事でも立ち向かうタイプだけど、曖昧だと昔から泣いちゃうもんな」
亜美「のばらはそれを知らなかったのかな? 知ってて言ったのかな?」
信次「そして、灯が僕の事好きだって?!」
作者「どうなるのかしらね。次回を待て!」