クリスマスディナー
私達は乾杯ドリンクを飲みながら、料理が来るのを待っていた。
「お、思ったよりワインだな。ノンアルなのに」
「ほええ、ノンアルも進化してるね」
「本当は呑みたいんだけどな」
「ダメだよ、薬の副作用は怖いんだよ!」
京平、お酒に関しては舌が肥えてるからなあ。そりゃ本音は呑みたいよね。
でも、そこは私が厳しくしなきゃ。何かあってからじゃ遅いもん。
「亜美が叱ってくれるから、頑張れてるのはあるよ。ありがとな」
そんな話をしていると、前菜がやってきた。
「お待たせしました。タコのカルパッチョです」
「おおお、タコが綺麗だよお」
タコの赤と野菜の緑が本当に綺麗で、食べるのが勿体無いくらい。
ディナーって見た目も素敵なんだなあ。
「「いただきます」」
「うーん、タコのプリプリ感と野菜のシャキシャキ感が、ドレッシングと合わさって美味しいー!」
「ドレッシングがいいなあ。レシピが気になる」
京平はレシピが気になったのか、すごく味わって食べていた。
再現してくれるのがとても楽しみ!
「ただ、タコ結構高いんだよなあ」
「我が家で出す時は、誰かの誕生日の時だね」
我が家では、京平の誕生日の時は私と信次。
信次の誕生日の時は、私と京平
私の誕生日の時は、京平と信次と、家族で作ってたりする。
皆料理出来るもんだから、喧嘩にならないようにこんなルールになった。
私の誕生日はまだなんだけど、どうなるんだろう。
「次はどんなのが来るんだろ、わくわく」
「カルパッチョも美味しかったし、楽しみだな」
「あ、ワインお代わりしてもいい?」
「良いけど、酔いすぎないようにな」
ちょっとペース早いかもだけど、カルパッチョが美味しくて、ワインもう無くなっちゃったんだよね。
二杯目はじんわり呑まなきゃ。私、酔うと寝ちゃうし。
私はウェイターさんを呼んで、赤ワインのお代わりと、京平のノンアルコール赤ワインも頼んだ。
「お、ありがとな、亜美」
「私も出すから、遠慮しちゃダメだよ。京平」
とは言ってもノンアルコールだけど、少しでも京平に楽しんで貰いたいからさ。予約したのは信次だけど。
「そうは言うけど、亜美お金あるのか? プレゼントめちゃくちゃ買ってたじゃん」
「普段節約してるから心配しないで。お金も下ろしてあるし」
私のが使えるお金多いのに心配するもんなあ、京平。
因みに私は家に4万入れてるけど、それ以外は私のお金だから結構使えるのじゃよ。
貯金出来てるから入れるお金増やすよって言ってるけど、京平も信次も自分の為に使えって言うの。2人とも優しすぎるよね。
それに五十嵐病院から結構貰えてるし。京平ほどじゃないけど。
家に入れられないなら、お金は友達や家族のプレゼントや、デートに使いたいしね。
「亜美とのデートに使えって条件で、今月から5万のお小遣いだから、格好付けたかったんだけどな」
「無理はしないの。私のが使えるお金多いんだし」
そんな話をしている内に、さっき頼んだ飲み物と一緒にスープがやって来た。
「お待たせしました。2品目のソラマメの冷製スープと、ご注文された赤ワインとノンアルコール赤ワインです」
ソラマメの冷製スープとは、また聞いた事ないメニューだなあ。どんな味かな?
「おおお、ソラマメがいる。コクがあって、クリーミーですごく美味しいよ!」
「ブイヨンもしっかりしてて美味いな」
ブイヨンってなんなんだろ? 京平は知ってるみたいだけど。
私、そんなに料理に詳しくないからなあ。
ただ、私にも解ることは、美味しいって事!
「ああ、ワインが進んでしまう」
「気を付けろよ、ワインは度数も高いしな」
小さな器に注がれたスープなんだけど、コクが凄いあって、ワインと相性良いんだよね。
私、お酒弱いけど、味は好きなんだ。これも京平の影響なんだけどね。
ふひ、大分酔ってきたかもん。身体と顔が暑くなってきたよん。
「ウェイターさん、水を下さい」
「かしこまりました」
「はひゅー、ありがと。京平」
「次からは亜美もノンアルにしろよ」
うう、ご飯が美味しいとお酒が進んじゃうけど、やっぱり弱いなあ私。
家なら兎も角、ここはホテル内のレストランだし、ほどほどにしなきゃ。
「お待たせしました。お水です」
「ありがとうございます」
んぐんぐ。少しだけスッキリしたかも。
まだまだディナーは続くんだし、寝る訳にはいかないもん。
「大丈夫か?」
「うん、心配掛けてごめんね」
京平の優しさに感謝しながら、私は少しずつ酔いを醒ましていく。
さあ、次はどんなご飯かな? 楽しみ。
「ワクワクした顔してるな」
「だって、ご飯美味しいもん! 次どんなのかなあ、って」
「また信次も連れて来ような」
京平は優しい顔をして笑ってくれた。そうだね、また家族でも行きたいね。
私達がほっこりしていると、次の料理がやってきた。
「お待たせしました。3品目のチーズリゾットです」
「ありがとうございます」
「美味しそう! ありがとうございます」
おおお、とろけるリゾットがとても美味しそう。
「うん。チーズのコクがご飯と絡み合って、とろける味わいがすごい素敵!! 美味しい!」
「チキンブイヨンが良いなあ。美味い」
また京平ブイヨン言ってるよー。
食べただけで、ブイヨンが使われてる事が解るんだなあ。
夜ご飯、京平に料理教わろうかな?
私も、もっと上手になりたいもん。
「京平に料理教わりたいな」
「いつでもいいぞ。一緒に作れるの楽しみ」
「さっきからブイヨンブイヨン言ってるやつ、知りたいな」
「出汁みたいなもんだけど、一緒にやろうな」
「楽しみ!」
京平と一緒に料理するのって、信次の誕生日くらいしかないから嬉しいな。
私も成長していかなくちゃね! ブイヨンを知りたいし!
ああ、チーズリゾット美味しい。
「亜美の美味しい顔、やっぱり好きだな」
「だって美味しいもん」
「これからも美味しいの、食べさせたいな」
「楽しみにしてるね!」
京平と信次がいつも美味しいご飯を作ってくれるから、私は幸せだよ。ありがとね。
またいつか、京平のお弁当も食べたいし。
ダメダメ、京平が早起きしなきゃになるでしょ!
私の舌が覚えてる限りで、京平のお弁当再現したいなあ。
「俺だって作りたいけど、信次と亜美が寝ろっていうから」
「京平は睡眠が必要な体質なんだから仕方ないよ」
まーた京平は見抜いてくるなあ。
気持ちは有難いけど、まずは自分の身体を大切にして欲しいな。
「ああ、自分の体質が嫌になるよ」
「少しずつ折り合い付けてこ。京平が無理せずに、料理出来るように」
「でも、俺の弁当食べたいって思ってくれてありがとな」
「私、まだまだだしね。もっと成長したいな」
看護師の勉強も、料理も、どれも手は抜きたくないもん。全部成長するぞ。
「あ、ウェイターさんすみません、ノンアルの赤ワイン2つください」
「かしこまりました」
「ふー、亜美が暴走しなくて良かった」
「酔いたくないし、普通に言う事聞くってば」
もー、京平の中で私はまだまだ子供なんだろうな。やる事はやってんのに!
でも、心配してくれてるって事だもんね。それは感謝しなきゃ。
「ごめん。子供扱いしてる訳じゃないからな、ただ」
「私を心配してくれてるんでしょ。ありがとね」
「そうだぞ、無理はすんなよ」
「お酒強くなりたいなあ」
「飲み過ぎないから、いいんじゃね?」
確かに。お酒の飲み過ぎはカロリーの摂りすぎに繋がるし、程々が1番だよね。
「お待たせしました。ノンアルコールの赤ワイン2つです」
「ありがとうございます」
「来た! ありがとうございます!」
そんな訳で無理しない為にも、ノンアルの赤ワインにしてみたけど、どんな味かな?
「お、思ったより赤ワインだ」
「だろ。最近はノンアルも結構美味しいぞ」
葡萄ジュースになるんじゃ? って思ってたけど、ちゃんと赤ワイン感もあって美味しいや。
京平の為にも、ノンアルにはどんどん進化して貰いたいな。
うん、チーズリゾットとの相性も良いね。美味しい。
「ふふ、美味しい顔で良かった」
「ノンアルの赤ワインも美味しいね」
私達がチーズリゾットをひとしきり楽しんだ後、メインディッシュがやってきた。
「お待たせしました。黒毛和牛のステーキです。ソースはお掛けして宜しいですか?」
「はい、お願いします」
「お願いします」
うひょー! ステーキだ! やっぱりお肉ってテンション上がるよね。
ソースを掛けられた時のジュワーって音も、食欲を唆るよね。
あああ、もう匂いからして良いよ。早く食べたいな。
「ごゆっくりどうぞ」
私は一目散にステーキに齧り付いた。
「肉汁が最高だよお。ジュワーとして。ソースもお肉との相性がバッチリで最高! 美味しい」
「焼き加減もいいな。また家でも作ろうかな」
「お、それは楽しみ!!」
「その為にも稼がないとな」
京平ったら、既にかなり稼いでるのに、もっと頑張るつもりなんだね。頑張りたいんだね。
そんな京平を、私は支えたいな。
「無理はしないでよ」
「何のこれしき。まだ全然働けるさ」
そうやってまた無理するから心配なんだよ。私の心配よりも、自分の心配をして欲しいよ。
今の勤務体系になってからは、鬱症状も減って来てるし、しばらくはこの勤務で様子を見て欲しいなあ。
余裕がある、って感じる位が1番良いしね。
「俺は勤務増やす交渉するけどな」
「だから無理はしないでってば」
また見抜いて来た上に増やすだって? どこまでも仕事人間だよなあ、京平。
そんな性格だから、こっちは無理すんな、って言ってるのになあ?
「今の時間だと、問診も短めになってるんだよ。ゆっくり話を聞いてあげたいんだ」
「京平がいつも言ってる拠り所になる、ってのだよね」
「そう、今の時間のままじゃ、焦らせちまうよ」
いつだって患者様第一だよね。そんな京平だから、私も愛してるんだよな。
京平の診療時間が17時までになったのは、京平が受け持ってる患者様には、院長から連絡済み。
つまりは、下手な残業が出来なくなった。と言う事で。
それも考慮して、京平は間に合わせるかつ患者様の容態を確認しているのだけど、時間ギリギリになってしまうし、お互いにキツいよね。
時間変更になった患者様も少なくないし、それも京平の心を痛める原因だろうな。
「せめて診療の日だけでも、元に戻して貰わないと」
「京平の身体を考えたら、無理はして欲しくないけど、今の状態も京平の心には良くないもんね。麻生愛先生に私からも話すよ」
「ありがとな、亜美。患者様に迷惑かけてる現状は、やっぱり嫌なんだ」
「解って貰えるといいね」
京平の優しい気持ちが、麻生愛先生にも伝わりますように。
「折角のクリスマスに、俺の話をしてすまんな」
「ううん。京平の気持ちが知れたしね」
「ありがと、亜美。亜美が彼女で良かった」
私も京平が無理せず頑張れるよう、支えるからね。
恥ずかしいから本人には言わないけど、さ。
「亜美が居なかったら、俺、とっくの昔にダメになってたよ。亜美が亜美だから、いつも救われてるよ」
「私も京平の頑張る姿とか優しさとか、京平からいつも力を貰ってるよ。ありがとね」
お互い素直に本音を語り合う夜になったね。
夜景も、私達に微笑みかけてるような気がした。
「そうだ、亜美にプレゼントがあるんだ」
「え、もう貰ったよ? 私」
私がそういうより先に、京平は私に跪いて何かを取り出した。
「これからも一緒にいて欲しい。俺は亜美と添い遂げたいから」
「つまり、婚約指輪?」
「ではないけど、気持ちはあるから待ってて」
京平が取り出したのは、1組のペアリング。
かなりプロポーズっぽいこと言ってる自覚……は、無いんだろうな。コミュ障め。
でも、その日を楽しみにしているね。
京平はピンクの石が付いたペアリングを、私の右手の薬指に嵌めてくれようとしたんだけど、は、嵌まらない。
「京平、私も添い遂げたい気持ちあるから、左手に嵌めて」
「亜美、でも」
「いいの。京平の気持ちに私も応えたいから」
京平は少し震えながら、私の左手の薬指に指輪を嵌めてくれた。
私の気持ちに応えるように、指輪は綺麗に嵌まる。
「じゃあ、私も京平の指に嵌めるね」
「左手に、頼むわ」
震えていたのに、覚悟は持ってくれてるんだね。
そんな私も震えながら、京平の左手の薬指に、青い石が付いた指輪を嵌める。
あ、ちょうどいいね。
「改めて宜しくな、亜美」
「うん、ずっと一緒に居てね」
すると、様子を見ていたのかな? 周りのお客さんたちが立ち上がって、私達に拍手を送ってくれた。
「彼女大事にしろよー!」
「プロポーズじゃないのかよ!」
「ちょっとあの彼氏、イケメンじゃない?」
「初々しいね!」
いろんな言葉が飛び交ったけど、なんか照れるね。
京平、顔真っ赤じゃん。可愛いな、お主。
「お取り込み中の所、失礼いたします。デザートのケーキです」
「ああ、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「素敵なカップルに祝福ありますように」
私達は顔を見合わせて、もう一度照れる。
本当のプロポーズはまだ先だけど、お互い添い遂げる覚悟を持って、向き合って、付き合っている事が解った。
京平、ずっと一緒にいるからね。
「俺達の誕生石にしたんだぞ。指輪」
「え、じゃあかなりしたんじゃあ……」
「クリスマスだろ。たまにはいいじゃん」
私は2月だからアメジスト、京平は11月だからトパーズ。
婚約指輪じゃないけど、婚約指輪並にお金掛けてんなあ。
おっと、指輪もだけど、ケーキケーキ。
クリスマスケーキは、赤と緑のクリスマスカラーが特徴的な可愛いケーキ。
「ケーキ可愛いなあ。まるでクリスマスの飾りみたい」
「そうだな。でも、亜美のが可愛いよ」
京平、嬉しいんだけど、言ったそばから照れるんじゃないよ。もー!
「このケーキは食べても良いの?」
「クリスマスだし、許す」
「じゃあ、カーボカウントすると少し超えるから、追加でインスリン注入しよ」
私はインスリンを追加で注入する。
インスリンポンプだと、人前でもインスリン注入出来るのはありがたいよね。
さ、ケーキ食べよっと!
「やっぱケーキ美味しい! 赤いクリームはイチゴで、緑はピスタチオ。中はフルーツいっぱいで凄い美味しい!」
「これは新しい組み合わせだな。美味いな」
でも、個人的には京平のケーキのがすきだよ、って言いたいけど、お店の人に失礼だから黙っておこう。
私達はケーキを美味しく食べて、お会計してお店を後にした。
「美味しかったね!」
「いずれ再現するからお楽しみに」
「負けず嫌いだねえ」
「亜美には負けるけどな」
私は京平の手を握りながら、将来の事をちょっと考えてみた。
京平の隣で微笑む花嫁さんに、いつかなれたらいいな。
私も成長するから、待っててね。京平。
左手の指輪にも、そんな風に祈った。
亜美「デート楽しかった。ありがとね、京平」
京平「俺も楽しかったよ、ありがとな」
信次「兄貴、お金使いすぎだから、来月からめちゃ節約するからね!」
京平「すまんな、信次」