2回目のデート
「よし、プレゼントは置けたな。今日は信次も寝てくれたし。喜んでくれるといいな」
◇
「うーん、よく寝た!」
昨日早く寝たのもあって、アラーム無しで5時に起きれたぞ。
信次、大丈夫かなあ。泣いてたよね。
京平に俺が行くからいいよ、って言われて、慰めには行けなかったけど、滅多に信次は泣かないから、やっぱり心配になる。
まだ5時なのもあって、京平は気持ちよさそうに寝ていた。早いから寝かせといてあげよ。
おや、プレゼントが2つ置いてある。
そうだ、昨日はクリスマスイブ。あちゃあ、私置き忘れてたよ。
京平のだけでも、今から置いとこ。
中身は皆で一緒に見ようっと。
信次には、直接プレゼント渡さなきゃ!
「信次、おはよー!」
「亜美早。おはよ」
「信次、遅くなってごめん。クリスマスプレゼント!」
「寝てる時に置いて欲しかったな、ありがと」
信次は笑いながら受け取ってくれた。
「兄貴起きたら、兄貴のと一緒に開けるね」
「ありがとね。後、昨日泣いてたでしょ。大丈夫?」
すると信次は少し恥ずかしそうな顔をして、応えてくれた。
「うん、兄貴が泣かせてくれたから、もう大丈夫だよ。亜美も心配してくれてありがとね」
「何で泣いてたの?」
「亜美にはまだ内緒。いつか言うから」
ぶー。私には内緒って、なんか除け者にされたみたいな気持ちになる。
でも、信次の気持ちの問題だろうし、無理強いは出来ないしな。
「私もお弁当作ろうか?」
「大丈夫、もう3つ作ってるから。洗濯も焦る必要ないし、亜美は兄貴を抱きしめてあげて」
確かに京平は昨日も落ち込んでいたしなあ。少しでも、京平を癒したい。
ここはお言葉に甘えようかな。
「じゃあ、もうちょい寝てるね。ありがとね」
「おやすみ、亜美」
「おやすみ、信次」
そんな訳で部屋に戻った私は、ギュッと京平を抱きしめた。
京平の寝息が、何だか心地良い。
広い肩幅と温もりが、寧ろ私を安心させてくれる。
いつでも私は京平の味方だからね。
私が抱きしめたら、京平も寝ながらではあるんだけど、抱きしめ返してくれた。
いつだって、受け止めてくれてありがとね。
気付いてくれてありがとね。愛してるよ。
私はそっと、京平の唇にキスをした。
◇
「じゃあ、お仕事頑張ってね。のばらさん」
「信次くんも、夜からのバイト頑張ってくださいまし」
むにゃむにゃ、のばらの声がする。
そっか、お弁当取りに来たのか。のばらって今日確か……中番じゃん!
やば、寝過ぎた。私が慌てて飛び起きると、京平も欠伸をしながら起きて来た。
「ふわあ、おはよ。亜美」
「おはよ、京平。まだ眠い?」
「や、充分眠れたよ。ありがとな」
京平は私を抱きしめてくれた。お礼言われる事なんて、何もしてないんだけどなあ。
でも、やっぱり京平に抱きしめられるの好きだなあ。心がふわっと安心するの。
私も京平を抱きしめた。
「落ち込んでたけど、亜美が側にいてくれると安心出来るよ。ありがとな」
「それなら良かった。今日は一緒に楽しく過ごそうね」
「俺達が付き合って、初めてのクリスマスだもんな」
「じゃあ、そろそろプレゼント持って、皆で開けよ」
これも多分我が家だけかもしれないけど、プレゼントは皆で一緒に開けるんだ。
何でかって言われると困るけど、こんな時間も私は好きだよ。
私達はプレゼントを持って、リビングに向かう。
ちょうど信次も、リビングに居た。
「おはよ、兄貴、亜美」
「おはよー。信次」
「信次、おはよ」
「お、そろそろ開ける? 楽しみ!」
皆考える事は一緒だね。それぞれがプレゼントを持って、ソファーに腰掛ける。
「じゃあ、せーので開けよ。せーの!」
私の掛け声で、皆プレゼントを開け始めた。
これは誰のかな? うさちゃんの団扇と、来年から使える手帳だ!
「ああ、それ僕から。亜美、まだ手帳買ってないなあって思って。団扇もそれなら使えるでしょ?」
「ありがとね、信次! 信次が今開けたのは、私のだね」
「医学書だ! 今月結構使っちゃって、医学書買えなかったから嬉しいな。ありがとね」
「俺のは、マグカップだ。これは信次かな?」
「うん、兄貴の小さかったから、おっきいの買ったよ!」
「コーヒー沢山飲めるから嬉しいや。ありがとな」
と言う事は次で私と、京平のプレゼントがお目見えってことだね。
京平のなんだろ? 箱自体は小さいのだけど、かなり嫌な予感がする。
いいや、開けちゃえー!!
「お、亜美は冬用のパジャマか。ありがとな」
「兄貴……!」
「京平……!」
「ん、どうした?」
「どうしたじゃないよ!!」
何と、京平が私にプレゼントしたのは、お風呂の改造工事を行う案内書。つまり、発注済みと言う訳で。
「風呂沸かすの、コレで楽になるだろ?」
「そうだけど!」
「因みに僕のは、キッチンの改造工事をする案内書」
「2人とも頑張ってるからな」
京平、私達のプレゼントにどんだけお金掛けてんのよ! 明らかに高額すぎるよ。
それがプレゼント出来ちゃうくらい稼いでいるのだろうけどさ!
「はい、お礼は?」
「ありがと! 京平! 私、お風呂溢れさせちゃうから嬉しいよ!」
「キッチンも広くなると使いやすいね。ありがとね」
でも、何だかんだで私達が欲しかったものなんだよね。ありがとね、京平。
「じゃ、朝ごはん食べよ」
「僕は昼ご飯だけど、準備するね」
「あ、信次。昨日の余ったやつ食べるから出しといて」
確かに京平は昨日イブのご飯食べてないから、余ってるはずだよね?
「あ、それなんだけど、のばらさんと楽しく食べきっちゃった。ケーキ以外」
「マジか。結構量あったと思ったんだけど。楽しく食べてくれたんなら良かった」
「じゃ、私達はデザートにケーキ食べようね」
信次とのばらの食欲にはびっくりだけど、それだけ楽しい時間を過ごせたみたいだね。
そうなると、ますます信次の泣いてた理由が解らなくなるのだけど、ね。
◇
「お待たせ、京平!」
「お、今日も可愛いじゃん」
「今日の亜美は、プレゼントに包まれてるね」
そう、服はのばら。真っ赤なワンピースがおしゃれ。ブレスレットは蓮、イヤリングは友、髪飾りは朱音と、皆が選んでくれたプレゼントを身に纏ってみた。
「じゃ、行こっか」
「おう、任せとけ」
「いってらっしゃーい」
「「いってきまーす」」
京平は、優しく手を繋いでくれた。私も、笑って握り返した。久々のデートだし、楽しむぞ!
「で、どこにいくの?」
「そうだなあ、しばらくは亜美と一緒に歩きたいな」
「奇遇だね。私もそうしたかったの」
一緒に手を繋いで歩ける機会ってそんなに無いし、ゆっくりのんびり一緒に過ごしたいな。
京平といれば、どこでも楽しいしね。
そんな訳でご近所の、樹々が生い茂る公園を歩く事にした。
森林浴って言うのかな。気持ち良いや。
「たまには自然に触れるのもいいな」
「うん、なんか癒されるよね」
樹々のざわめきだったり、木漏れ日だったり、身近な公園なんだけど、ゆったり2人で歩くと、本当に安心できるんだ。
ね、京平とだからだよ。愛してるよ。
「あの木陰でちょっと休もうか」
「うん、いいよ」
あれ、京平もう疲れたのかな? おじさんだからしょうがないか。若くないもんね。
でも、私が座ると、京平は私の膝に頭を乗せて来て、ニヤリと笑った。
「亜美に膝枕して貰いたかっただけ」
「もう、甘えん坊なんだから」
いいよ、京平。いっぱい甘えてね。京平は頑張ってるもんね。
木陰はちょっと寒いけど、京平が私に触れてくれてるから、温かいよ。
あれ、京平寝てるや。疲れちゃったのかな?
毎日頑張ってるもんね。寝かせといてあげるね。
私は京平をポンポンしながら、優しい気持ちに包まれていた。
ずっと側にいるからね。安心してね。
ふわあ、私も京平の顔を見てたら、眠たくなって来たなあ。おやすみ、京平。
◇
「ふわあ、いつの間に寝たんだ、俺。亜美、そろそろ起きよっか」
「ふわああああ、京平、おはよ」
「おはよ、亜美。寝かせてくれてありがとな」
今は、えっと15時か。1時間くらい寝てたのかな?
うう、少し冷えてきたなあ。
「寒くなってきたな。どこいこうか?」
「京平と、イチャイチャしたい……です」
「奇遇だね。俺も。後、敬語禁止だぞ」
いつも夜にそういう事するから、ゆっくりまったり京平と交わった事ないんだよね。時間なくて。
京平にもいつも気を使わせちゃうし。
だから、ゆっくりじんわり、したいなあ。って。
「そういうとこってどこにあるんだろ?」
「区内ならあるんじゃね?」
「じゃ、駅までいこう!」
私達は手を繋いで、駅までの道を歩いてく。
京平、なんだか楽しそう。そんな顔を見てると、私も楽しくなってくるよ。
色々あったけど、私、京平に会えて良かった。
私の病気も、京平に会う為になったんじゃないかな? って、思っちゃうくらい。
そう思うと、病気も愛しくなるよね。
「私、糖尿病になって良かったかもしんない」
「ん、急にどうした?」
「だって、病気のお陰で京平に会えたんだもん、私」
「確かにな。でも、亜美には健康でいて欲しいから、治療は怠るんじゃないぞ」
「勿論!」
人生には限りがあるけど、めいいっぱい京平と居たいもん。その為にも、治療はしっかりやらなきゃね。
「こういう時間も愛しいよ、京平」
「ずっと側にいるからな、覚悟しとけよ」
私は頷いて、京平の手を少し強く握る。
「私も、ずっと側にいるよ」
「ありがとな、心強すぎるよ」
私ね、京平と信次は手離さないって、もうずっと前から決めてるから。
だって、家族だし、愛してる人達だから。
何があっても味方だし、助けるからね。
◇
それから私達は、区内のラブホテルに行って、お互いに抱きしめて、愛を確かめ合った。
いつもみたいに時間を気にしなくていいから、まったり幸せになれたよ。
とろけるような優しさに包まれて。
「幸せだよ、京平」
「うん、俺も」
愛を確かめ合った後、京平は腕枕をしてくれた。京平の腕枕、好きだなあ。
お互い休みながら、まったりする。
落ち着くんだよね。腕枕。
「疲れたか、亜美」
「ううん。腕枕落ち着くからさ」
「でも、ゆっくり休みな。無理はすんなよ」
「ありがとね。まったりしとく」
京平はギュッと抱きしめてくれて、頭をポンポンする。
「もー、眠たくなるじゃん」
「寝てていいぞ」
「やだ、もっと一緒にまったりしたい」
「我儘だな、でも俺もそうしたいな」
そんな訳で、私達はまた愛を確かめ合って、お互いに疲れて、お互いを抱きしめあった。
「京平、愛してる」
「俺もだよ、亜美」
お互い笑い合いながら、抱きしめ合ったり、キスしたり。
幸せだなあ、私。ずっとこうしてたい。
私も京平を幸せに出来てるといいなあ。
「と、そろそろチェックアウトの時間だな」
「まったりしてると時が過ぎ去るのは早いよね」
私達は慌てて着替えて、チェックアウトを済ませた。
京平が全部出そうとしてたから、ちゃんと割り勘にしたよ。
「全然俺が出すのに」
「私も稼いでるんだし、甘えてばっかは嫌だよ」
「ありがとな、亜美」
「この後は、どうするの?」
って、私何も考えてないじゃん。なんか考えとかなきゃダメでしょ、私。
「実は、クリスマスディナーを予約してあるんだ」
「嘘、ディナー! 初めて聞く単語」
「亜美に喜んで貰いたくて」
私達家族は、滅多に外食しないし、ましてやしたとしても、お財布に優しいとこにしか行かないから、ディナーなんて生まれて初めてだった。
「どんなのなんだろ、すごい楽しみ!」
「予約しといてなんだけど、俺も経験ないから楽しみだな」
お互い初めましてのディナーなんだね。2人で楽しく食べようね。
「今から歩けばちょうどいい時間になるから、行こうか」
「うん!」
私達はまた手を繋いで、ディナー会場のホテルまで歩いていく。
ホテルに併設されてるレストランのディナーみたい。なんか豪華だなあ。
「信次に申し訳ないなあ、なんか」
「実はこのディナー。信次が俺達の為に予約してくれたんだ。たまには亜美を幸せにしてあげて、って」
「え、そうなの。信次にも帰ったらお礼言わなきゃ」
「本当なら、せめて1週間に一度くらいはデートしたいだろうに、俺が寝てばかりで滅多に出来なくてごめんな」
私は首を横に振る。
「京平の体調のが大事だよ。だっていつも頑張ってるもん。ありがとね」
「亜美の優しさに甘えてばかりだな、俺」
「甘えてよ、京平の事は私が守るから」
「亜美も甘えろよ。俺だって亜美の事、守るから」
京平ってば、私は既に甘えさせて貰ってるし、守って貰ってるのに。
そんな優しい京平だから、私は心から守りたくなるんだろうな。
「でも、毎週昨日くらいに寝れば」
「不健康だよ。ご飯食べずに寝るなんて。昨日で最後にしてね」
「亜美には敵わないな。ありがとな」
そりゃデートもしたいけど、京平のが大事だよ。
私は京平が笑ってくれてるなら、それでいいんだよ。
そんな話をしている内に、目的地のホテルへ辿り着いた。
「うわああ、高級ホテル!」
「レストランは30階みたいだな」
「夜景が綺麗そうだね」
「信次に感謝だな」
私達はエレベーターで、一気に30階まで登っていく。
エレベーターはガラス張りで、そこまでいく夜景も綺麗で、京平と笑い合った。
「なんか緊張してきた」
「レストランに行くだけなのに?」
「こんな高級レストラン来るの初めてだからさ」
京平の手がちょっと震えてる。なんか可愛いな。
「さ、行こ!」
「お、おう」
レストランに入ると、ウェイターさんが私達に話し掛けてきた。
「いらっしゃいませ」
「予約してた深川です」
「深川様ですね、こちらへどうぞ」
ウェイターさんは、私達を夜景の見える特等席に案内してくれた。
信次、席まで良いところを予約してくれたんだな。競争率激しかっただろうに。
優しい弟を持って幸せだよ、私。
「うわああ、夜景むちゃむちゃ綺麗だよ」
「亜美と綺麗な夜景を見れて、幸せだな」
夜景を眺める京平がとても綺麗で、うっとりしてしまう。
日に日に京平への愛してるが、高まっていくよ。
「深川様、最初のドリンクは如何なさいますか?」
「お酒は飲めないので、ノンアルコールのもので。亜美は好きなの飲みな」
「え、じゃあ、赤ワインを」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
毎度ながら、私だけ飲んじゃって申し訳ないなあ。
でも、私がノンアルたのむと、京平もっと不機嫌になるんだよ。優しいよね。
「さ、今の内に血糖測定とインスリンな。カロリー高いだろうから、多めにな」
「ディナーだもんね」
血糖値は85。運動したから良い感じ。
ディナーだからインスリンは多め、っと。
ディナーの内容が解らないから、糖分計算出来ないや。足りなかったら、後で追加しなきゃ。
「お待たせしました。赤ワインと、ノンアルコールの赤ワインです」
「ノンアルの赤ワイン、ありがとうございます」
「赤ワイン、ありがとうございます」
「それじゃ、乾杯しよっか」
「「乾杯」」
2人でいっぱい楽しもうね、京平。
のばら「亜美達楽しんでるみたいですわ」
信次「苦労したけど、予約取っといて良かった」
のばら「亜美、全然デート出来てないみたいだし、たまには楽しんで欲しいのですわ」
信次「兄貴の体調を気にするからなあ、亜美」
のばら「そんな亜美だから、だいすきなのですわ」