デート終わり(信次目線)
「それって、のばらと付き合いたいって事ですの?」
「うん、一緒にずっと居て欲しいんだ」
な、んとか言えたぞ。全部本音。愛してるって伝えるのは、こんなに緊張するんだね。
のばらさんは、少し照れながらも俯いて、僕に話してくれた。
「おかしいのですわ、私、信次くんの事、そういうふうに見た事なかったのですわ」
あ、やっぱり? 解っていたとはいえ、胸にグサッと来る。何やってんだよ僕。無駄に傷付くんじゃないよ。
「でも、ごめんなさいと言おうとすると、違う意味で苦しいのですわ。のばら、自分が解らないのですわ」
違う意味? どういう意味なんだろう。
振ってごめんねシクシク、って意味ではないんだろうけど。
「だから、答えはちゃんと出すから、考えさせて欲しいのですの」
「解った。待ってるからね」
「後……」
のばらさんは、僕の服の裾を持って震えてる。
「どうしたの? 大丈夫?」
「大丈夫ですわ。後、のばらがどんな答えを出しても、友達でいてくださいまし。信次くんが大切なのは、確かなのですわ」
怯えないで。怖がらなくて大丈夫だよ。どんな答えでも、ずっと側に居るからね。
「うん、ずっと側にいるから」
ああ、めちゃくちゃ抱きしめたい。でも、付き合ってる訳じゃないし、反則だよね。
だから、僕は、のばらさんの頭をポンポンした。
「寒くなって来たし、そろそろ瀬尾家に行こう」
「待って、信次くん。渡したいものがあるのですわ」
「ん? 何かな」
「はい、開けてみて欲しいですの」
のばらさんのプレゼントを開けてみると、中にはマフラーが入ってた。
僕、マフラー持ってたんだけど、干した時にカラスに破かれちゃってから、新しいの買えてなかったんだよね。
のばらさんがくれたってだけでも嬉しいのに、必要としてるものをプレゼントなんて嬉しすぎるよ。
「ありがとね、早速着けさせてもらうね。あと、僕からも」
「え、何かしら? 開けてみますわね」
実は僕も、のばらさんにプレゼントを用意してたんだよね。喜んでくれるかな?
「わあ、ネックレスですわ。可愛いですわ」
「着けてくれたら嬉しいな」
「着けますわ。んと、着けるの手伝って下さいます?」
うわ、また緊張することを。のばらさんのうなじを見て、僕は少し手が震えた。ネックレスが無事着けられたのは奇跡だと思う。
「有難うございますわ」
「緊張したよ。震えてごめんね」
「そんなにのばらの事、愛してくださってるのね」
「うん、愛してるよ」
愛してるって気持ちを一度伝えていると、ドキドキはするけど、言えるようにはなるもんだね。
のばらさん、ちょっと照れてるや。照れ顔も可愛いなあ。
「これからはのばらって呼んでくださいまし」
「え、寧ろ良いの?」
「何でか解らないのですけど、灯って呼んでる信次くんを見て、胸がざわついたのですわ」
「ふふ、解った。僕の事も信次って呼んでね」
「信次」
「のばら」
僕達は何をやってるんだろうね。でも、こんな時間も何だか嬉しいと思ってるのは、僕だけかな?
もしかして、のばらさん嫉妬してくれてるんじゃ? って、淡い期待も生まれたしね。
や、勿論期待しすぎは良くないけどさ。
「じゃあ、行こっか」
「そうですわね」
僕はのばらの手を握った。気持ちが昂って、握らずにはいられなかったんだ。
あ、やらかした……って、思ったんだけど、意外にも、 のばらは握り返してくれた。
これは優しさからなのかな? だとしても、受け入れてくれてありがとね。
こうして僕達は、手を握りながら、駅まで歩いていく。
空を飛んでも良かったけど、今はこのままずっと歩いていたかったから。
君の温もりが、愛しくて仕方なかった。
◇
「信次です、入りまーす」
僕達は海里と海里のお母さんの看病をする為、瀬尾家に戻ってきた。
海里のお粥を僕が作ってる間に、のばらがお母さんの分を温めてくれる流れになった。
昼とは別の野菜にして、味付けも少し変えてみようかな。栄養摂って貰わなきゃ。
「では温め終わりましたので、持っていきますわね」
「のばら、ありがとね」
今は17時半。もうすぐ灯達も帰ってくるかな?
海里のお父さん、身体弱いから無理してないといいけど。
よし、海里のお粥出来た。持っていこう。
僕は海里の部屋に、ゆっくり入っていく。
うん、海里は予想通り、ぐっすり眠っていた。
「すー、すー」
「海里、ご飯だよ。食べられるかな?」
「おわ、信次。夜もありがとな」
「しっかり食べるんだぞ」
僕が来るまで寝てたようで良かった。明日には熱、下がるといいね。
「食欲無くても、信次のお粥なら食べられるや。ねえちゃんのとは違って」
「こら、灯への感謝の気持ちがないじゃん」
「だって、なんか違うんだもんよー」
海里はそう言いながら、もしゃもしゃお粥を食べたのち、薬を飲んですぐ寝てしまった。
相変わらず空気読めない、人を気遣えない海里だなあ。正直すぎるんだよ。
僕は海里のそんなとこ、嫌いじゃないけどね。
僕が海里の部屋を出ると、のばらもちょうど出てきた。
「海里くんはもう寝てまして?」
「うん。速攻寝てたよ」
「本当に無理してたのでしょうね」
「だろうね、寝てただろうにまだ隈があったもん」
のばらが気付いてくれなかったら、まだ無理してたかもだし本当に良かった。
風邪引いてからずっと夜は寝てなかっただろうし、昼もあいつ起きてたしな。
つまり、4日は寝てなかったんじゃないかな。
「明日も看病しにいかなきゃだな」
「頑張ってくださいまし」
のばらは、僕の肩をポンっと叩いてくれた。
「じゃあ、最後に我が家においで。クリスマスイブだしね」
そんな話をしていると、瀬尾家の玄関が開いた。
「ただいまー。あ、信ちゃんにのばらさん、いらっしゃい」
「あ、信ちゃんだー」
「ああ、灯、縁ちゃん、おかえり」
「おかえりなさいまし」
灯と縁ちゃんが帰ってきた。
お父さんが未だに帰ってこないのがちょっと気になるけど。
あれ、のばらがちょっと不機嫌な顔してる。な、何で?
「入れ違いだね、僕達今から帰るとこ」
「そっか、今日も看病ありがとね」
「海里も寝るようになってくれて良かったよ」
「そっか。早く家族が元気になるといいな」
「じゃあ、また明日ね」
兄貴も今1人で準備してるだろうから、早めに帰らなきゃ。のばらも何故か不機嫌だし。
「ねえ、私達も信ちゃんの家に今日も行っちゃダメ?」
「ダメですわ!!!」
「の、のばら?!」
え? 何でのばらは灯にダメって言ったんだろう? 意外すぎて、僕はびっくりした。
「はは、嘘ー! そんな急には無理なの解ってるよ。それにもう信ちゃんご飯作ってくれてるもんね」
「うん。灯達のはイブ仕様にしたから、楽しんでね」
「ありがと、信ちゃん。じゃあ、また明日ね」
僕達は瀬尾家を後にした。その直後、のばらが頭を掻きむしりながら、僕に言う。
「ごめんなさい、のばら、なんかイラッとしちゃいましたわ……。灯さんにも機会があれば、謝らなきゃ」
「大丈夫だよ、急に来られても準備出来ないのは確かだからさ。ありがとね」
何でのばらがイラッとしたかは解らないけど、キッパリ言ってくれて正直助かったのはある。
「さあ、今日のご飯は何かなあ、楽しみ」
「昨日のご飯も美味しかったから、のばらも楽しみですわ」
「兄貴も料理上手だからなあ」
本当、告白保留された、した同士の会話とは思えないよね。どちらに転んでも、友達なのは変わりないんだけどさ。
でも、フラれたとしても、諦めがつかないであろう僕も確かにいて。
そういうの嫌だったはずなのに、人って変わるもんだね。
それだけ愛しちゃったんだなあ。
「ただいまー!」
「おじゃましますわ」
「お、信次おかえり。のばらさんいらっしゃい」
「おかえりー、信次。のばらー!!」
うおお、亜美がのばらに抱きついてきた。羨ましいなあ。もう!
「亜美ー!」
「信次、つまんない事しなかった? 大丈夫?」
「楽しかったですわ。心配しないでね」
楽しんで貰えたなら良かった。僕のお小遣いだと、これが精一杯だったからなあ。
バイト代入ったら、もっとのばらにアピールしたいな。
「あ、兄貴、手伝う事ある?」
「んにゃ、ないから座ってまってな」
「2人とも手を洗ってね」
僕達は手を洗って、食卓で兄貴のご飯を待つ事にした。
「今日のご飯は何か、京平全然教えてくれないんだよー。ケチだよね」
「こら亜美、ケチって言わないの」
「そう言えば、兄貴今日は大丈夫だったの?」
すると、キッチンから兄貴がひょっこり顔を出して答える。
「残業してこうとしたら、また棚宮さんに怒鳴られたぞ。今回は失敗したところないはずなんだがな」
「とか言ってるけど、終わった後、ちょっと凹んでたけどね」
「そりゃ凹むでしょ。ひどい人も居たもんだなあ」
本当に、ただでさえ繊細な兄貴を怒鳴りつけるなんて許せない。
今日は大丈夫だったみたいだけど、また鬱症状が悪化したら……心配で仕方ない。
「京平、そろそろ院長にその棚宮ってジジイのこと、相談した方がいいんじゃない?」
「それは考えたけど、告げ口みたいで嫌なんだよなあ」
兄貴、自分が傷付いても、相手の事を考えちゃうんだよな。もっと自分を大切にして欲しいよ。
自分が怒鳴られた時は、怒らないもんな、兄貴。
「さ、出来たぞー。信次、運ぶの手伝って」
「はーい」
僕しか呼ばなかったってことは、全部重そうだからだね。
僕らの仲だから、大皿どーんって感じにしたみたい。確かにこのメンツなら気にしないや。
「ほい、まずはローストビーフな」
「続いて、フライドポテトとソースたち!」
「ミニトマトのカプレーゼも作ったぞ」
「兄貴、ポテサラも作ったんだね。僕好きー」
「今日はチョコケーキにしたぞ」
兄貴の手際の良さは尊敬するなあ。僕も自信はあるけど、兄貴ほど素早くは出来ないからなあ。
美味しさでは勝負出来るけどさ。
「うわあああ、今日も美味しそう!」
「へへ、気合い入れたぜ」
「早く食べましょ! 食べましょ!」
「「「「いただきます」」」」
うお、のばら、めちゃくちゃお皿に乗せてるね。
ケーキあんなに食べたのに、もう消化出来たのかな?
僕は若干胃にまだケーキいるけど。
「ローストビーフ、滴る肉汁が最高すぎる。フライドポテトはホクホクでいろんな味が楽しめるし、カプレーゼはフレッシュだし、ポテサラ、お芋の味が感じられて好き!!」
「美味しいのですわ!!」
「兄貴のポテサラ、僕も好き」
「楽しんで貰えてるようで良かった」
皆笑っている。なんか幸せだな。こういう時間って。皆に出会えて良かった。ふと、そう思った。
「じゃあ、俺はもう寝るから。後はごゆっくり」
「え、兄貴もう寝るの? 食べてないじゃん」
「明日は早く起きたいから。おやすみ、皆」
良く見たら兄貴もうパジャマだ。お風呂も入ったんだなあ。それだけ亜美との時間を大切にしたいんだな。
え、てか、お風呂入ったのに、ご飯こんなに作ったの? 凄いなあ。
「因みにお風呂は一緒に入ったよ」
「ですわね。というか亜美、肌プルプルになりましたわね」
「卵肌ってやつ使ってるんだ」
「あ、CMでやってたのですわね。のばらも使おうかしら」
買ったの僕なんだけど、ね。でも、確かに亜美、肌綺麗になって来てる。結構良いやつなんだな、あれ。
いや、違うな。兄貴の愛を一身に受けてるからだね。恋は乙女を美しくするらしいし。
亜美も乙女だったんだな。意外すぎる。
「ごちそうさまでした! 私も歯を磨いて寝よっと」
「え? 亜美も寝るの?」
「だって、京平の側に居たいんだもん」
そう言って亜美は、ササっと歯磨きをして。
「おやすみー。のばら、信次」
「おやすみですわ、亜美」
「おやすみ、亜美」
僕達は、また2人きりになった。とは言っても、まだご飯普通に食べてるけどね。
「亜美がごめんね。いつも兄貴優先で」
「亜美らしくて良いですわ。亜美のそんなとこも、のばらは好きですわ」
相変わらず優しいね、のばら。亜美の我儘も、受け止めてくれてありがとね。
「あ、紅茶頼んでもいいかしら? ケーキ食べるのですわ」
「うん、淹れるから待っててね」
僕ものばらと一緒にケーキ食べようかな。ホットミルクも並行して作っとこ。
僕、カフェイン摂ると眠れなくなるんだよね。
◇
「信次、今日はありがとうございましわ」
「のばらもありがとね。楽しかったよ」
「明日、お弁当取りに伺いますわね」
「美味しいの作るからね」
こうして、寂しいけれど、のばらも帰っていった。
でも、また明日会えるから。大丈夫、大丈夫。
告白も保留されたけど、大丈夫、大丈夫。
そう思って、部屋に戻ったんだけど、ダメだった。僕が、この僕が、泣いてるじゃん。
情けないけど、不安が募りに募っちゃった。
居なくなることはないのに、何でだよ。僕のバカ。
僕がひたすら泣き続けていると、優しい声が響いた。
「信次、大丈夫か?」
「兄貴、寝てたんでしょ? どうして……」
「信次が泣いてる声がしたから」
兄貴は何も聞かずに、僕を抱きしめてくれた。
明日があるから早く寝ただろうに、起こしちゃってごめんね。でも、安心するよ。
僕は兄貴の胸でいっぱい泣いた。不安とか怖さとか、全てぶつけて。
「大丈夫、信次の想いは届くから」
「うん、いつか届けたい」
泣き疲れた僕は、少し眠たくなってきた。
精神的にも体力的にも、疲れちゃったんだ。
「少し安心した。ありがとね、兄貴」
「それなら良かった」
「おやすみ、兄貴」
僕はちょっと甘えることにした。兄貴の腕の中で、僕は寝る。
寝付くまで側にいてね、兄貴。
兄貴は僕を布団まで運んでくれて、優しく笑ってくれた。
「おやすみ、信次」
京平「信次、よく頑張ったな。大丈夫だよ、お前なら」
作者「初めての愛だもんね、不安になるよね」
京平「初めての愛で9年片思いしてた俺よりは偉い」
作者「こじらせすぎだよな!」