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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
クリスマス事変
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番外編:夢を叫んだ日

「あ、また懐かしい写真が出て来たぞ」

「高校の入学式の写真だね、若いなあ私」

「相変わらず兄貴変わんないね」


 またまた京平は、お父さんに送る写真を整理していたみたいだけど、またまた懐かしい写真が混じってたみたい。


「髪結んでたもんな、この頃の亜美」

「いつも結んでくれたもんね」

「亜美って髪すら結べないのか、って思ってたよ、僕」

「だって、京平に結んで貰いたかったんだもん!」


 ◇


「京平、髪結んでー」

「亜美、もう高校生だろ。そろそろ自分で結べよ」

「だって、京平に結んで貰わないと気合い入らないもん!」


 今日は高校の入学式。苦労した受験勉強の上、何とか公立で可愛い制服の東都東高校に入学が決まった。

 今回こそ友達出来るかな? ドキドキする。


「いつものゴムでいい?」

「うん、お願いね」


 本当は全然自分で結べるんだけど、京平に触られたいが為に、結んで貰ってたり。

 だって愛してるんだもん。しょうがないよね?

 こうでもしないと、京平触ってくれないし。


「ほい、出来たぞ」

「ありがとね。じゃあ一緒にいこ!」

「普通の高校生は、保護者とは行きたがらないのに」

「私は京平と行きたいもん、いいでしょ?」

「甘えん坊だな、まあいいけどな」


 だって、少しでも一緒に居たいもん。一緒に学校行けるのなんて、今日が最初で最後だもんね。

 それにしても、折角可愛い制服着てるのに、一言も可愛いとか言ってくれないなあ。京平のケチめ。


「ほら、行くぞ」

「ああ、待ってえ!」

「いってらっしゃーい」


 折角一緒に行くんだもん。手を繋いでもいいよね? 私は周りの目を全く気にせずに、ギュッと手を握った。


「亜美、恥ずかしくないのか?」

「だって、京平のこと、家族としてすきだもん」


 はい、嘘ー。異性として愛してるぜこの野郎。

 ここまでしても気付いてくれないんだもん、鈍いよね京平。

 でも、恥ずかしくないのか? って言ってる京平だけど、いつも握り返してくれるんだ。優しいよね。


「甘えん坊さん」

「だってすきだもん!」


 きゃー、すきって言っちゃった。マジ照れるよ本当。京平どんな顔してるかな?

 チッ、普通の顔してやがるぜ、ショックだぜ。

 しかもなんか変な方向向き始めたし。鈍過ぎるよ、もー!


「電車乗るけど、定期持って来たよな?」

「勿論!」


 ああ、もうすぐ電車かあ。手繋ぎタイム終わっちゃうや。こんな事なら近くの東都高校……は、レベルが違い過ぎるんだよなあ、もう、何で私はバカなんだよ!

 手繋ぎタイムを続けたい私の願いも虚しく、駅まで着いちゃった。

 京平は切符買わなきゃだから、その時に手を離した。寂しいなあ。


 と、京平が目を離した隙に、人に飲まれていく。ちょうど電車が来て、人がわっと降りて来たみたい。

 私は慌てて、京平の手をもう一度掴んだ。そして、力強く引っ張る。

 ふー、迷子にならなくて良かった。


「わりいな、亜美」

「もー、飲まれちゃダメでしょ!」


 こういう天然なとこもあるけど、そんなとこも含めて、私は京平を愛してるよ。


 ◇


 こうして、電車にゆられて二駅で、東都東高校の最寄駅に着いた。

 通勤ラッシュの時間なのもあって、電車はかなり混み合っていたけど、京平が私を人混みから守ってくれた。

 電車に乗る時はいつもそうなんだよね。ありがと、京平。


「京平、今日も守ってくれてありがとね」

「ん、当たり前の事だから気にすんな」


 私はもう一回京平の手を握った。愛してるが止まらないよ、愛してる、愛してる、愛してる。

 京平はちょっとびっくりしてたけど、また握り返してくれた。


 学校の最寄駅となると、同じ制服を着た学生がチラホラとお目見えする。

 そして、皆、チラホラと京平を見てる。

 ふふん、京平はイケメンだもんな。勝手にだけど手を繋いでるぜ、いいだろー!


「俺、なんか付いてるか? すごい視線を感じるんだけど」

「大丈夫。いつも通り格好良いよ!」

「亜美はいつもそう言うけど、格好良くはないぞ」


 もー、イケメンの癖にその自覚が全くないのは困ったもんだな。

 5年後くらいには流石に気付くかな? 自分のイケメンぶりに。


 こうして、京平はそのすごい視線の正体に気付かないまま、東都東高校に辿り着いた。

 私はこのまま教室に行かなきゃだから、京平とは別行動。悲しいなあ。


「じゃ、俺は体育館に行ってるぞ。友達出来るといいな」

「うん、また後でねー」


 うう、寂しいよお。どうせコミュ障な私は、悪目立ちこそするけど、友達は出来ないだろうし。

 話し方とか、距離の詰め方とか、もう全然解らんのだよこの野郎!

 ええい、この際だ! と、体育館に行ったけど、普通に京平に摘まれて、追い出されちゃったしなあ。


 仕方ねえ、クラス分け見るか。えっと、1年B組か。ええい、ままよ! 私は意気込んで教室に向かう。

 が、既に同中とか、先に来てる子達でグループが出来上がっていて、コミュ障の私はとてもじゃないけど、入れる余地がなかった。

 話しかけようとしてみたよ? でも、何話したらいいか解らんと、何も話せないよね?

 こうして、私は早くも、ぼっち確定したのであった。早すぎる!


「皆さん、体育館に行くので、並んでください」


 担任の先生かな? 私は言われるがままに並んだ。

 が、他の子達は、新しく出来た友達と話してて、全然並ばないんだよなあ。

 うんうん、そりゃ話したいよね。気持ちは解るよ。私もそっち側行きたかったよ。

 でも、そっち側に行けないんなら。


「みなさーん、並んでくださーい!」


 先生のお気に入りになって、自分を守るしかないんだよね。おうおう、皆睨み付けてくる。

 こういう立場って嫌なんだけど、やらざるを得ないから仕方ないよね。


 そういう行動をすると、そういう子と認識されて、また更なる問題が降りかかる。


「えと、時任さんだったよね。今日、新入生代表挨拶する予定だった子がインフルエンザになっちゃって。台本は用意するから、代わりにやってもらっていいかな?」

「え、私で良いんですか?」

「時任さん、成績順でも2位だったから、順当だよ。安心して」


 く、2位だったのか。地味に悔しいな。でも、代表挨拶とか初めてだなあ。受験頑張って良かった。

 まあ、半分以上、京平が勉強を見てくれたお陰だけど、ね。

 夢の為にも、これからも頑張らなくちゃ。

 私は先生から台本を渡されて、流れを聞いた。うう、台本があるとは言え、緊張するなあ。


「家族がイケメンだからって調子に乗ってるよね、あの子」

「本当、良い子ぶっちゃって、やな感じ」


 ああ、私の事だな。しらんぷり、しらんぷり。

 けど、やっぱり痛いや。ちょっと泣いちゃった。すぐ拭いたけど。

 こういう立場は、慣れっこなはずなのにな。


 そんな私を無視して、時間は流れ、入学式が始まった。

 来賓の方の挨拶や、在校生の歓迎の挨拶などが終わり、いよいよ私の出番だ。


「続いて、新入生代表挨拶、代表、時任亜美」

「はい」

「え、亜美?!」


 京平の声が体育館中に響き渡る。そら何も言ってないのに、私が代表挨拶って聞いたらビビるよね。

 さあ、いよいよ登壇して話すぞ、私。


「本日はお日柄もよく、私達新入生を温かく……」


 台本もあるし、大丈夫……。じゃ、ないな。

 私の言いたい事は、この中にはないもん。

 京平を目の前にして、嘘なんて付けないよ。

 もう嫌われてるもん、正直に生きていいよね。


「と言うのは置いといて、私には夢があります。人を助ける人をサポート出来る看護師になる事です。その為に成績も常にトップを狙い、虎視眈々と受験に備えて行きます」

「時任、おい、台本通り!!!」


 私は笑いながら台本を破って、話を続けた。


「私1人の力は小さいですが、私にはイケメンで頭も良い自慢の兄がいるので、兄の力を大いに借りながら、強くなって行きたいので、皆さん見守ってください。因みに兄は天然で、よく怪我をして帰ってくるので」

「亜美、そろそろ黙ろうな……」


 勿論黙らない。


「そんな兄の怪我を治しながら、実務レベルも上げて行きたいです。皆さん、応援宜しくお願いします! 時任亜美!! あ、因みに、あそこにいるのが兄です!」

「亜美、バカ、バラすな!!!」


 皆は一斉に京平を見て、吹き出したり笑ったり、拍手をしてくれた。本音が言えて良かった。


「がんばれー、時任亜美!」

「にいちゃん大好きすぎだろ」

「ぶっ飛んでんな、今年の新入生!」


 勿論これで終わるはずもなく、私はこっ酷く担任に叱られまくり、クラスでも常に笑われるという悪目立ちをするのであった。

 皆、私達の事情を知らないので、物凄くブラコンって言われたなあ。

 違うもん、血は繋がってないし、愛してるんだもん!


「亜美、もうああいう真似は止めろよ。そんで、看護師になるのが夢だったのか」

「うん、小さい頃からの夢なの。いっぱい助けて貰ったもん」

「しゃーねえな、勉強見てやるよ。上位キープしろよ」

「ありがとね、京平!!」


 京平は私を見るなり、不安そうな顔を浮かべる。


「式の前、ちょっと泣いただろ? 何かあったのか?」

「いやあ、悪目立ちして、陰口言われちゃって……」

「何だと?! そいつらとっちめる!」

「大丈夫だよ、私には京平がいるから」


 だから、高校生活も大丈夫だよ。心配しないでね。


「無理はすんなよ、いつでも助けにいくから」

「ありがとね、本当にキツかったらそうするね」

「じゃ、記念に写真撮るか。はい、チーズ」


 京平は私を引き寄せて、写真を撮ってくれた。


 ◇


「亜美、そんな事したの?! バカじゃない?」

「本当にな。俺すげえ恥ずかしかったわ」

「しょうがないじゃん。愛してるんだもん」

「バカ、照れる事言うんじゃないよ」


 あの時の私は、本当に勢い半分だったけど、頑張って夢を叶えたよ。

 看護師になる事と、京平の彼女になる事。どっちも叶えたよ。

 京平、これからも力をいっぱい借りるね。愛してるよ。

作者「京平がよそ見してたのは、照れ顔を隠す為で、写真とったのも、亜美があまりにも可愛いのでツーショットが欲しくて撮りました」

京平「照れるな」

亜美「あ、照れてたんだ」

京平「そういう意味じゃないよな、とは思いつつも、すきって言われたらそりゃ、な」

信次「そういう意味だったのにね」

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