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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
恋愛バトル
10/220

頑張らなくちゃ

「じゃあおやすみ亜美、夜更かししちゃ駄目だからね」

「解ってるよー、おやすみ」


 信次は私に念を押しながら、自分の部屋に入っていった。ここまで言われたら、京平を待っていられないし、どちらにしても京平に怒られてしまう。

 かと言って寝るにはまだ早いので、さっきまでやってた看護師の座学の勉強をする事にした。

 逆に早く寝れば、京平の帰ってくる頃には起きれるかもしれないけど、信次が起こしてくれなきゃ起きれないから、それは無理なのだ。朝が弱い自分が悪いとは言え、なんだか悔しい思いである。


「それなら、看護師としてのスキルをあげなきゃ」


 私がまだ未熟だからかな。看護師長から遅番に入る許可をいただけていない。

 仕事は問題なく出来てるはずだから、知識の足りなさを心配されてるのかもしれない。だから頑張らなきゃ。

 実は昨日も眠れなかったから、勉強はしていたのだけど、楽しくなっちゃって夜更かしになっちゃったんだよなあ。

 正確には気づいたら机で寝ちゃってて、深夜に布団で寝直したのだけど。


ーー実になるといいな。


 そしたら、京平とシフト合うことも増えるだろうし。

 ……って、何考えてるの私。沢山の患者様をサポートするのが、私の使命なんだから。看護師の遅番に、恋愛感情を混ぜちゃダメだ。いけないいけない。


「今、京平とのばらは、一緒にオペ室にいるんだよなあ……」


 正直、看護師としては確実にのばらに負けている。僅か1年で総合看護師になってるし、五十嵐病院にこの人在りと言われてる麻生先生からは、いつものばらは指名されていた。

 で、麻生先生は、麻酔科医には何故か京平を指名しがちだし。今日もそれで、京平は遅番になったしね。


ーー私も、もっと色んな人をサポート出来る看護師になりたい。


 そう思ったら、気持ちがすっきりした。すっきりしたと思ったら、何だか気が遠くなる。あれ、なんだろ……。


 ◇


「……美、大丈夫か?」

「まさか勉強しながら寝ちゃうだなんて」


 ん、誰かの声が聞こえる。でも、身体が動かないや。でも、心地よい声だな。安心しちゃう。

 いつも助けてくれる大切な人達。


「こんな所で寝て、風邪引いちゃうよ」

「しっ、起こしちゃ可哀想だ。俺が部屋まで運ぶよ」


 私の身体はふわっと持ち上がる。憧れのお姫様抱っこかな? そして抱きしめられながら、布団に降ろされ、優しく温かいものが掛けられた。気持ち良いや。


「いつも頑張ってるね、亜美は」


 優しい声が響いて、私の身体はとろけてしまいそう。

 そして、おでこに優しいキスをしてくれた。

 素敵な夢だな。醒めたくないな。

 これが現実だったら、良いのにな。


 ◇

ーーピピピピッ、ピピピピッ。


「んー、よく寝た。ん? 私目覚ましなんて掛けたっけ?」


 目覚まし時計は、11時に鳴ったらしい。ちょうど良い時間だ。


「それに、なんで布団で寝てるんだろう? 夜、部屋に来た覚えないのに……」


 色々と謎は深まるばかりだが、もう起きる時間。準備を始めなきゃ。

 と、リビングまで歩いていると、予想外の事が起きた。


「お、亜美、おはよ」

「きょ、京平?! 確か今日は早番なんじゃ?」

「院長に「無茶なシフト組むな!」って怒られて、中番にして貰った。医師会合も昼からだしな」


 京平が少しでも沢山眠れたなら良かった。院長グッジョブである。

 因みに、そんな無茶なシフトは、内科主任部長である京平自身が作っている。若手に無理させたくないらしく、たまにこんな無茶なシフトを自分に当てるからなあ。

 因みに今日は水曜日。病院は休みだが、入院患者様の容態確認と、医師に関しては医師会合の日でもある。

 育児センターがお休みなのもありお子様持ちの方々も休みだから頑張らないと。


「そういえば、亜美机で寝てただろ。今寒い時期なんだから気を付けろよ」

「あ、気付いたら布団で寝てたけど……」

「俺が運んだ。亜美も大きくなったなあ」


 そうか、京平が運んでくれたのか。ん? 昨日みた夢とよく似ているなあ。まあいっか。


「重たかっただろうに、有難うね京平」

「亜美あんま運動しないもんな。そりゃ太るよな」

「し、仕事で動いてるもん!」


 相変わらずデリカシーのない京平だ。そんなに重たかったのかなあ……ちょっとショックである。


「目覚ましも京平?」

「あ、目覚ましは信次。俺が亜美を運んだ後、気付いてくれてさ」

「本当に皆様有難うございます」

「あ。こら、敬語禁止だぞ」


 本当に私、家族に助けられてるなあ。感謝がいつも尽きないよ。


「さ、早く血糖値とインスリンな」

「わ、解ってるよ」

「あ、ご飯なあに?」

「ハムエッグとプチトマトとコーンスープとご飯な」


 私は、血糖値を測って値をインスリンポンプに入力して、インスリンを注入する。インスリンポンプは、3月から使っているけど大分慣れてきた。


「後、蜂蜜レモンありがと。遅番明けに甘いものは嬉しかった」

「京平大変なシフトだったもんね。今日もそんなに寝てないでしょ?」

「いやあ、当初の予定より眠れたから大丈夫」


 昨日何時に帰って来たかは知らないけど、いくら中番とは言え普段より眠れていないのは確かだしね。だっていつもと違って寝癖もないし。


「さ、今日も信次が朝ご飯作ってくれたから食べよ」

「これ信次が作ったんだ! バイト明けなのに、また早起きしてくれたんだ。有難いよね」


 本当によく出来た弟である。出来の悪い姉に似なくて本当に良かったよ。


「「いただきまーす」」


 んー、今日も信次のご飯美味しいなあ。これがあるから仕事も頑張れちゃうよ。

 後はラッキーな事に京平と同じシフトだし、休憩時間はまたお喋り出来るかもだしね。


「あ、あと亜美。明日仕事がある日の勉強は禁止な。無理は良くないからな」

「も、もうあんな所で寝ないからああ」


 ああ、また禁止事項が増えていく。自業自得ではあるのだけど。


「休みの日にやればいい。俺達も常に亜美を見ていられる訳じゃないしな」

「信次か京平がいる前ならいいでしょ?」

「まー、それならいっか。でも無理はすんなよ」

「了解!」


 ふー、なんとか少しは勉強時間が確保できた。勉強しなきゃ、遅番入れて貰えないままになっちゃうもんね。


「「ごちそうさまでした」」


 今日は時間に余裕があるから、ゆっくり洗顔と歯磨き……と、寝癖直しが出来る。

 あ、寝癖直し切れてたんだった! と、慌てていると。


「ああ、寝癖直しなら、信次が昨日買って来てくれたから入ってるぞ」

「それなら良かったあ」

「掛けすぎるんじゃねえぞ」

「解ってるよー」


 一昨日と同じ過ちは繰り返しちゃいけないもんね。と、歯磨きをしながら、私は思う。

 歯磨きが終わったら、寝癖を直してっと。


「よし、完了。着替えてくるね」

「本当に亜美がダメなのは朝だけだな」

「京平は口周りちゃんと拭くんだよ」


 私はタオルで京平の口を拭いた。いつも抜けてるよなあ、この人は。


「う、うわ、有難う。ビビったあ」


 たまにはびっくりさせなきゃね。昨日の仕返しだぞ。


 ◇


 私達は準備が出来たので、五十嵐病院へと向かった。

 京平が纏うビシっとしたスーツが本当にカッコいい。写真撮りたくなる。

 前頼んだら拒否られたから、出来ないのだけど、私は再度チャレンジする。


「京平、やっぱ写真撮っちゃダメ?」

「1人だけで写真とかバカみたいじゃん。そんなに写真が欲しいなら……」


 京平は、私の肩を掴み、グイッと自分に私を引き寄せると、スマホを私達に向けて。


ーーパシャッ。


「じゃ、後で送るからな。亜美は今日も無理すんなよ」


 京平はそう言うと、医師会合会場まで近い入り口まで駆け足で走っていった。スーツなんだから、無理に走らなくてもいいのにね。


 私は、いつもの更衣室まで歩いていきながら……。


ーーこれって、もしかしなくてもツーショットだよね?


 京平に深い意味がないのは解ってるんだけど、これはニヤけずにはいられない。京平から写真が届いたら、こっそり焼き増ししなきゃ。自分の手帳に挟めばバレないもんね。

 勉強頑張ってるご褒美かな? すごい嬉しいや。


 ◇


 今日の私の担当は、採血と入院患者様の巡回になった。

 17時に早番の看護師さんから引き継ぎを受けて交代する。その時間になるまでは、採血担当になる。

 私自身も毎月採血されているのもあって、実は採血は得意分野だ。されてる側の気持ちなら、痛いくらい解るからね。看護学校でめちゃくちゃ練習したのだ。


「はい、今日は3本摂りますよー。ちょっとチクっとしますからね。手の痺れとかはないですか?」

「ないでーす」


 今採血をしている患者様は、私と同じ糖尿病なのもあって検査項目が非常に多い。

 私はもう慣れちゃったけど、針が刺さってる時間が長いのは辛いよね。なるべく痛くないといいな。


「はい、終わりました。絆創膏を貼ってある箇所を5分程止血お願いします」

「有難うございました」


 ◇


 こんな事を繰り返しながら、17時の引き継ぎの時間となった。今日は誰からの引き継ぎかな?


「あ、亜美。こっちよ」

「のばら?! あ、今日はのばらから引き継ぎなんだね」

「そうですわ。後、休憩時間でいいからライムみなさいな。送ってかなり経ちますわ」

「ごめん。あんまライム見る方じゃなくて」

「じゃ、引き継ぎを始めますわよ」


 悪い癖が出ちゃったなあ。私、ライム起きてすぐ見るタイプじゃないんだよなあ。

 それは置いといて、のばらの申し送りは完璧だった。しかも、私にも解りやすいようにと患者様毎にポイントも書いてくれていた。

 私ものばらみたいに、しっかりした看護師さんにならなくちゃ。


「引き継ぎは以上ですわ。質問はないかしら?」

「寧ろ完璧だよ。有難うね」

「では、休憩にいってらっしゃいまし。ライムみるのですよ」

「了解! みたらすぐ返すね」


 中番は17時半から休憩に入る。京平は医師会合終わったかな?

 たまに長引く事もあるから、休憩時間が合わないこともあるんだよなあ。


「あ、亜美さん。お疲れ様です」

「友くんお疲れ様ー! 友くんが中番なの珍しいよね」

「いつも中番の方が休みでしたからね。亜美さんの顔が見れて嬉しいです」


 そう、友くんは優秀なので、もう遅番勤務にバリバリ入っている。男という事もあるんだろうけど、知識、技術に置いても完璧だからなあ。自慢の同期だ。


「まだ蓮も戻って来ないから、医師会合長引いてるかもですね」

「そっかあ、落合先生も大変だよねえ」


 と言う事は、京平も来ないって事かあ。期待はしてなかったけど、ちょっと残念。


「ん、深川先生も来ないって事かあ。って、しょげませんでした?」

「な、何で解ったの?」

「顔に書いてありましたよ」


 私の気持ちは、いろいろな人に簡単に見抜かれてしまうなあ。どんだけ隠し事が出来ないんだ、私!


 と、今の話で忘れかけてたけど、のばらからのライムみなきゃ。直接言えばいいのに、何でライムにしたんだろ、のばら。


 私はライムを開くと、色んな人からライムが届いていた。


(えっと、これは信次から。『ごめん。のばらさんの勢いに乗せられて、のばらさんと亜美と僕とでクッキー作る事になっちゃった。のばらさんがグループライム作ったから、入っといて』かあ)


 そっか、だからのばら、ヤキモキしてたんだなあ。信次を利用して皆でクッキー作りだなんて。のばらは上手なんだろうなあ。お菓子作り。

 恐らく京平にあげるためなんだろうなあ。京平、クッキー大好きだもん。

 信次には「了解!」って返した。


 続けて、のばらからグループライムのお誘いが来てた。かなり遅くなっちゃったけど私はポチッと入る。

 行動が早いか、私が入った事を確認した信次が今までのライムの流れを直ぐに送信してくれた。


(のばらったら、私が入ってからライム流せばいいのになあ。えっと、「私の休みは土曜日だよ」っと)


 まだのばらは勤務中なので、のばらの勤務が終わったら、話は進みだすだろう。

 次の休憩時間も、ライム見るのを忘れないようにしなければ。


 と、まだライムがある。これで最後かな?


(あ、京平からだ。『ほい、写真な。無理すんなよ』かあ。写真写り悪くないかなあ、どれどれ?)


 私は昼間に京平が撮った写真を確認してみる。相変わらず京平はかっこいいなあ。容姿的な面だけでも、何度も惚れ直してしまう。

 対して私は驚いた顔してらあ。変顔になってなかったのは、不幸中の幸いだけどね。

 私は京平に、「写真ありがと! 医師会合引き続き頑張ってね! 無理はしないでね」と、送っておいた。

 

「亜美さんニヤけてますね。深川先生から写真が届いたのですか?」

「な、何でまたまた解ったの?!」

「顔に……って言うのは嘘で、深川先生が写真撮ってるとこ見てました」


 嘘、あれ見られてたのか。なんか恥ずかしいや。でもあれ、普通の人がみたら、彼氏彼女に見えたりすんのかな? だったら嬉しいんだけどな。


「そうなの、京平のスーツ姿撮らせてって言ったら、1人で撮るのはヤダって言って」

「良かったですね。亜美さん」

「うん、絶対焼き増しする!」

「亜美さんの驚いた顔も、可愛かったですよ」

「って、それも見てたの?!」


 とりあえず今日の勤務は、この写真で乗り切れそうだ。

 京平の気まぐれだったんだろうけど、写真、しかもツーショットはかなり嬉しいや。

信次「亜美は頑張ってる時は集中しすぎちゃうからなあ。僕が寝る前に亜美にも寝ろっていえば良かったよ」

京平「もう1人での勉強は禁止させたから大丈夫だと信じよう」

亜美(こそーり勉強してやるう!)


作者「亜美、良かったなあ。写真ゲットできて」

亜美「むふふ、絶対焼き増しするんだ」

京平「そんな写真焼き増しして、どーすんだ?」

作者「黙れ、鈍感」

京平「ひど!!」


作者「次回もお楽しみに!」

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