表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*完結* COYOTE   作者: terra.
New
96/184

15




 ステファンは、アクセルの不可解な発言に、怒りの吠え声を放つと、助走をつけた。

 だが、その速さも出方も、アクセルは見通せていた。矢の如く、しかし緩やかに迫るステファンの脚を、瞬時に脇で抑えた。心身は、慣れない体格と消耗で犇めいている。それでも、決して放さなかった。




 強い固定に身動きできないステファンは、バランスを崩し、腰を落としてしまう。アクセルと向き合う体勢になると、招集された動物達は、アクセルを目掛けて牙の攻撃を仕掛けた。

 ところが、ある音声が騒ぎを払拭した。



“子どもは、夫と共に迎えると決めてる。私や家族にしか知り得ない彼が、何であろうとも、今どんな状況にあろうとも、妻として私は、見合った器を設ける義務がある。これを誰かが遮ろうとするならば、こちらも都度、相応の対処を取る。愛する人と、人生を守るためならば、誰だって戦うのではないかしら。少なくとも、私と彼はそう”



 例え独りになろうとも、戦う。それを胸に、番組に出た妻ホリーのメッセージは、どれほどの人達が記憶しているのだろうか。消されずに残されていた動画は、ステファンに聞かせようと、予め準備しておいたものだった。




 ステファンは、水を打った様に静まり返る。動揺が滲む銀の瞳から、コヨーテ化する歪な現象が、そっと引いていく。

 アクセルの身体もまた、それが伝染する様に、異変が一気に冷めていった。しかし、気持ちも身体も追いつけず、圧し掛かる疲労に倒れた。




 2人から光が抜けていく様に、呼び寄せられた小動物達も引き返していく。アクセルは、芝生の隙間からその様子を眺めた。同じ銀の姿から、元の被毛の色を取り戻し、何事もなかったかの様に森へ消えていく光景を。




 (ようや)く訪れた静寂に、アクセルは大きく安堵を漏らすと、痛みに頭を押さえながら、首だけを起こした。そこに、元の姿で呆然と座るステファンがいた。

 お互い、泥にまみれた身体に血が滲んでいる。冷静さを取り戻したと同時に全身が痛みだし、アクセルは起き上がるのがやっとだった。だが、目の前の彼はそんな素振りも見せないでいる。




 作戦に手ごたえを感じるのも束の間、アクセルは、周囲の新たな異変に目を疑った。生きた煙の様に宙を蛇行し、接近するのは、銀色の光の(もや)だ。美しいそれに見入っている内に、それは、自分とステファンを柔らかく包み、傷と汚れをあっさりと消してしまった。




 アクセルは息が止まりかける。捜査が難航している理由が明らかになり、途方もない絶望感に苛まれた。右手の包帯を解くと、薄い爪痕だけになっている。それも、光の影響でやっと分かる程の細さだった。



『お前の願いが叶うといいなぁ、坊主。お勧めはしねぇが』



 コヨーテは低く唸る様に言うと、未だ何かに困惑したまま動かないステファンを、前足や胴体で刺激する。そうしている内に、ステファンはコヨーテに目を向けるのだが、それまでだった。



「ああそうかよ、残念だ……理由は……」



 アクセルは、残った泥を払いながら、コヨーテに横目に見る。



『叶ったとて、終わるからだ』



「じゃあ、お前等がやる事だって無意味だろ……」



 ところが、獣の低い哂いが肌を擽った。



『無意味なものか。こちとら早い事、貴様等がおらん世界を待ち望んでるまで。ただ少々、それまで我慢ができんだけ。何分、血の気が多いもんでなぁ』



 コヨーテは、眩い被毛を震わせると、前足を手入れし始めた。









-----------------------------------------


サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月下旬完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんにちは! お忙しい中、投稿お疲れ様です( ・∀・)っ旦 アクセルはやはり超人的な身体能力を身に付けてますね。 コヨ-テが牙を向け、襲おうとしたその時に、ステファンの奥さんのメッセージを聞いて闘争本…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ