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「俺達が道具だってんなら、それとは別の何かが存在している。この解釈が正しければ、この事態を解決できるのは他の人間か、或いは、お前らが言う神様ってやつか」
コヨーテのくしゃみに似た笑いが雨音を切ると、足底から擽る様な低い哂いが込み上げた。
『知ったところでだろう、坊主。お前は忘れる』
「答えろ!」
アクセルの獣の威嚇に、集まった銀のコヨーテの群が騒いだ。
『そいつを放せ、噛み砕かれたいのか』
『てめぇがする事は、そいつを喰う事じゃねぇ』
『強欲に塗れた人間を狩れ』
『殺しで満たし、それにしか陶酔できねぇ、哀れな生き物を』
彼等の声を聞きつけた途端、ステファンが眼を光らせた。アクセルの固い手に抗いながら威嚇を放つと、甲高い遠吠えを夜空に響かせた。
自然一帯がその声を受けて震えると、森の奥から、鳥類や小動物が矢継ぎ早に現れた。彼等はそのまま、アクセルに迫り来る。
事態を前にアクセルが歯を鳴らすと、傍のコヨーテは低く嘲笑う。
『わざわざ用意されなくともだ、アックス。コーンフレークの在り処は分かってる。食事はまだだろう、後で取りに行こうじゃねぇか!』
友人気取りで逆撫でされた次の瞬間、アクセルは、喉が裂けんばかりの威嚇を放った。コヨーテに殴りかかろうものなら、ステファンがそれを阻止し、掴み合いが続いた。それでもアクセルは、彼を振り向かせようと、その視線を合わせにかかる。
「戻って来いっ……あんたは、人間だっ!」
伝えたい一心が、獣の声に絡んで放たれた時、瞬く間に身体が一変した。同時に腕力が漲り、ステファンを数メートル先まで投げ飛ばしていた。
地面を打ちながら転がるステファンに、森からの群が銀の閃光の如く寄せ集まる。
片や、コヨーテの群がアクセルに襲いかかるのだが――アクセルの視界が灰色に染まり、迫り来る群がスローの動きに変わった。アクセルは身が竦むのだが、視線は自ずとステファンの居所を捉える。そこで身を起こす彼は、こちらの異変に驚いた表情をしていた。その隙を見計らい、引っ叩いてでも覚醒させてやると、アクセルは反射的に地面を蹴った。
灰色の視界を流れる景色や遊具は、引き延ばされ、輪郭も形も失っている。背後からコヨーテの接近を感じるが、同時に、距離が開いているのも分かった。四肢で走る彼等が、自分の脚に追いつけない。想像を超える速さで駆けている。ステファンに触れるまでのほんの僅かな時間で、そう感じた。
ステファンは、アクセルの急接近に身構え、伸びてくる彼の両腕を躱した。そのまま、その胴体を掴んで横転させると、地面が陥没し、その衝撃で木々から滴が降りかかる。
起き上がれないアクセルに、ステファンは足蹴を喰らわせようとするが――アクセルは華麗に翻り、速やかに立位を取ると、ステファンの頬に1撃負わせた。
ステファンは僅かによろめき、銀の液体を吐き出すと、アクセルを振り返る。アクセルは透かさずステファンの襟首を掴むと、激しく地面に叩きつけ、彼に全体重をかけて抑えた。その時、コヨーテの群や、鳥類の嘴による攻撃が、アクセルに降りかかる。
邪魔されるアクセルは、あっけなくステファンに脇腹を掴まれ、今度は自分が突き飛ばされた。
身体が何度地面を打ったかは分からない。しかし、湧き出る怒気と、彼を振り向かせたいという熱意に、痛みは消え、奮い立つ。
「あんたがしてぇ事かよ、これがっ……これが、奥さんの願いかっ!」
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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