表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*完結* COYOTE   作者: terra.
New
94/184

13




 ぬかるんだ芝生で立ち止まり、一帯を見渡した。茂みから木々、奥に広がる森。そこへ、草の摩擦音が際立った瞬間、アクセルはスマートフォンを突き付けた。




 目の前に、瞬く間に煙の如く現れたステファンは、茶色い瞳で画面を見た。



「ほら......ホリー・ラッセル。あんたの奥さんだ、よく見ろ!」



 ステファンは画面に見入る。しかし目を細め、眉を寄せ、首を傾げた。

 アクセルは息が震えた。目の前の彼の様子から、自分が近頃体験した忘却の症状を思い出すにつれ、更に震えが込み上げる。



「忘れてんじゃねぇよ……あんたはっ……あんたは何やってんだ! しっかりしろよ!」



 アクセルはスマートフォンを投げ、ステファンの胸倉に掴みかかった。

 急な刺激が、ステファンに歪なものを呼び寄せる。睫毛の1本1本までもが銀に染まりゆくと、尖る眼差しに銀の眼光が灯る。その光を受けた毛先から、頭髪全てが眩い銀色に染まった。




 だが、アクセルは怯まなかった。初見よりも遥かに違っている今の感覚は、自分がステファンと対等である様に思えた。

 ステファンは、首元で震えるアクセルの手を見つめる。彼の増していく力や身体が、同じ臭いを放っている。聞こえてくる荒い息遣いと、混ざって出る小さな威嚇は、アクセルの細胞の変化を証明していた。



「奥さんは立派な人だって、あんたが一番知ってるだろ! 生き物にも優しい彼女を愛し、子どもも授かった! どういう訳か、まだ生まれてねぇけどよ……俺は、それがもしかしたら、その子もあんたを待ってるんじゃねぇかって、思うんだよ!」



 ステファンの丸い瞳孔が、縦筋に変わると、彼はアクセルの手を掴み返した。しかし、引き剥がすには力が足りず、力みは眼振に変わる。アクセルは、身体の異変を利用し、ステファンを更に揺さぶった。



「つくづく信じられねぇがなぁ、認めてやるよ……こいつもまた、意味のある事態だって……聞こえねぇもんが聞こえるのも、見えねぇもんが見えるのも、全て、何かを得るチャンスだってな!」



 強まる雨に誘われる様に、銀の(もや)が、2人の周りを巡りはじめた。2人はその行き先を目で追うと、そこから浮上した銀の発光体から、銀色のコヨーテが数頭現れた。



「……俺に、子だ? ……知るか……俺は、狩り返すだけだ……」



 ステファンの重い発言は、土に埋もれていく様だった。アクセルは首を振ると、舌打ちしては、ステファンの胸倉を力いっぱい掴み直す。



「いいか、俺も、あんたも、コヨーテじゃない! 目ぇ醒ませ! 帰る場所があんだろうがよ! 銀の犬になって忘却喰らってる場合か! 人もいい生き物だって、ハートがあるって、バケモンに解らせてやらねぇでどうする!」



 言葉に被さる様に、激しい威嚇が放たれた。コヨーテ達の煌々とした眼光が牙に反射し、雨粒や足元の雫に触れると、暗い公園に歪な美しさが生まれていく。




 アクセルは引き下がらず、一帯に流し目を向けて言った。



「質問がある、犬っころ。吐けば報酬をくれてやる」



 群れの中の1頭が背筋を伸ばした。見るからに区別が付かない銀のコヨーテ達も、態度を変えられれば、先日の客人がどれだったかがすぐに分かった。









-----------------------------------------


サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月下旬完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんにちは! まさかのステファン!!( ; ロ)゜ ゜ アクセルは恐怖を感じながらも、ステファンの目を覚まさせようと訴えていましたね。 ステファンは何か憎しみのような怨嗟を背負っているようにも思えまし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ