12
もうすぐ病院の近くに着く頃。ほどよく席が埋まる車内では、乗客がスマートフォンに釘付けになっていた。そこでふと、ある事を思い出すと、アクセルはポケットからスマートフォンを抜いた。
開いたニュースサイトでは、テレビで聞いた情報がトップにきていた。そこに寄せられるコメントは、警察を急かす言葉が多かったが、中には、容疑者の妻を怪しむ声もある。見ている限り、妻はそれに対して何もアクションを起こしていない。もはや、その力も残されていないのではないかと感じた。
また、さほど知らない彼女の事を考えている。まるでリードを引かれる様に、思考の渦に導かれていた。何故か、その渦の流れを読もうとし、そこを冷静に泳ぎ切ろうとしてしまう。
“ハンティングの歴史に、のめり込みすぎたんじゃないか”
“ハンターを阻止するために、自ら狼男になるなら、薬品開発のための施設があるだろう。地下とか空き地も、徹底的に調べるべきだ”
“警察がこんなにてこずるなんて。自分の身は自分で守るしかないんだわ”
“狼男の子っていうなら、自分の身体にそんな仕掛けをする目的が、皆目分からない”
アクセルは画面を切り、立ち上がったところで、バスが停車した。そこはまだ、比較的自宅に近い停留所だったが、足早に降りた。
小雨になりゆく中、立ち尽くした。幸い、周囲は無人だった。不可解な感情で曇った顔を、気にせずにさらすことができる。
街灯から抜け、目深に下ろしたフードの中で、雨に歪む影をじっと見下ろす。両目に熱を感じるあまり、水溜りに異変を探ってしまう。
雨の強い匂いに、辺りを取り囲む自然の香りを感じた。朝よりも冷たい風が、不意にフードを払い除ける。
やり場のない焦燥を噛み締めていた。まるで自分の事の様に思えてしまう、煮え切らないものを見てしまったせいだ。
姉は、講師ホリー・ラッセルを高く評価している。多くの命のために、国境を越えて環境捜査をしてきた人だ。その人は、自分がきっと見る事ができないであろう未来のために、身を粉にしていた。姉が、絶えず生き物について思考を巡らせ続けられるのも、時に反対の言葉を受けながらも立っていられるのも、その人が関わっているからだろう。
なのに、関わりのない他人が、一体、その人の何を言え、何を評価できるのだろう。
アクセルは、見聞きしてきた他人の言葉を思い返す内に、熱が込み上げてきた。
ホリーが遠くから指差されている光景は、自分の姉がそうされている様にも思えてならなかった。そして、その繋がりは知らぬ間に誰かに特定され、伝染していくのだろう。人に限らず、動物達にも――
顔を上げ、目を見開いた途端、昨晩、部屋で聞いたコヨーテの言葉が浮かんだ。そこから、断片的になっていた記憶が線になり始める。
画面がさらしてくる気味の悪い出来事は、悪夢を長々と見ている様だった。それを見なかった事にはできず、また、身体もそうはさせまいと訴えているのか、足は既に、自宅近くの自然公園に向かっていた。
-----------------------------------------
サスペンスダークファンタジー
COYOTE
2025年8月下旬完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
インスタサブアカウントでは
短編限定の「インスタ小説」も実施中
その他作品も含め
気が向きましたら是非




