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アクセルは胸騒ぎがした。特定の情報に敏感になってしまい、もう、元の自分の身体ではなくなってしまっているのだろうか。
状況が変わった今、もし再受診をすれば、隔離されるのではないか。また、その失踪者と同じ異変を持つ者であると決定付けられた場合、生活はどうなってしまうのだろうかと、目が泳いでしまう。
想像すればするほど、足先から震えた。すぐに行動するべきだが、それでも、震えが胸の疼きに変わるにつれ、立ち竦んでしまう。テレビに容疑者の妻の写真が映された途端、不安に鼓動が速くなる。
つい、胸を押さえてしまうと、ジェイソンと目が合った。アクセルは、こちらに気付かずテレビに釘付けになる2人を見て、再びジェイソンに向き直る。そして、何も言うなと、無言で彼に首を横に振りながら告げた。
ジェイソンは気になり、そっと立ち上がるも、アクセルは慌ててマイクを片付ける。そのまま鞄をさらうと、スタジオを飛び出す手前、後で連絡するとだけメンバーに言い残した。
その場がテレビの音だけになると、男性アナウンサーの声と同時に別のニュースに切り替わった。空気は、ただアクセルが欠けただけの静寂なんてものではなかった。緊張と不安が、部屋ごと暗くしていく。
放ったらかされた楽器は、人が声を失くした様だった。そんな愛器に嫌気がさしたブルースは、充満するネガティブな感情を拭おうと、テレビを切ったその手で冷えたギターを掴んだ。
「準備すっぞ。まだ、時間あんだからよ……」
*
雨に濡れたフードの冷たさが、体温を和らげてくれた。バスの窓には、雫で伸ばされるネオンの筋と、賑わう街並みが流れていく。そこに、病院に向かうのに強張る表情が合わさった。
唾を飲んだ拍子に喉がビリついた。力み過ぎただけでなく、獣の声が漏れた影響かもしれない。
大切に向き合っている喉を、冷えた手で静かに掴んだ。夢を叶えるために、想いを伝えるために必要な臓器は、呼吸や食事といった目的を越えた、あらゆる意味での急所に値する。自分にとって、最もなくてはならないものだった。
ボトルの冷水で痛みを飲み干すと、水滴にまみれていく窓の自分を見つめた。行き交う人々や自動車よりも、目の前に映る自分の姿に釘付けになる。
学校で遭遇したモッキングバードや、野良猫の発言が耳を擽る。当時は意地になって彼等を払い除けたものの、彼等が何故、あんな不思議な事を言うのかが引っかかる。まるで映画のシーンに放り込まれた感覚だったが、今は、彼等の発言を細かくなぞってしまう。
動物達には、自分がコヨーテに見えているのだろうか。と、窓の水滴が顔の影に伸びるところを、恐る恐る触れる。そして、身体を何となく嗅いでみた。獣臭さなどは微塵もない。それに、髪や体毛にも変わりはなかった。見えない怖さに、再び視線が彷徨った。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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