10
ブルースは、話そうとしないアクセルを見て、彼が自分自身に困り果てている様に感じた。さっさと吐き出してしまえと言いそうになるところ、ジェイソンのアクセルへの問いかけに抑えられ、ソファーに寝そべるギターに目をやる。曇った顔は、起きている不気味な事態のせいで、余計に変形していった。それから逃げる様にアクセルを振り返っても、友人をどう助けるべきか、いい手が一向に浮かばなかった。
未だに黙りを貫くアクセルの隣に、レイデンが大きく座ると、俯く彼の肩を取った。それでもアクセルはびくともせず、レイデンは同じ様に前屈みになると、フローリングの杢目に視線を這わせていく。
否が応でも、受け入れ難いものと向き合わねばならない。アクセルが今立たされている状況は、自分が経験してきた事とはまるっきり違っている。だが、先の不安ばかりに囚われて何も言い出せないでいる様子は、いつかの自分と重なった。自分がそんな厄介なものに縛られている時、アクセルが言ってくれたのは
「お前の音が欲しいんじゃねぇ。お前が欲しいんだ。だから、お前がどんなだろうと関係ない」
気付けば口が動いており、身が竦んだ。アクセルが向き合うのは、そんな言葉が通じる様なものでは、きっとない。
「いや、そうだろ」
ところが、痺れを切らしたブルースが割り込んだ。広いスタジオが勿体ないくらい、ひっそりと小さな円が壁際にできあがる。
「賢い事は言えねぇけど、そういう事なんだよ。そりゃあ、今日はビビらされる事ばっかだったけど……でもそれは、今やお前だけの問題じゃねぇ。俺達の問題だろ?」
アクセルは、それに釣り上げられる様に顔を上げた。自分の誤魔化しなど、全て空振りに終わっていた。メンバーを困らせている事に、溜め息が零れていく。
レイデンが口にした言葉をすっかり忘れていた。この場に集まる彼等の発言1つ1つに、少し身が引き締まった。ずっと前から彼等は信用できる存在だというのに、随分ぼんやりしていた。
「納得したなら診てもらえ。お前だけじゃなく、他の人への救いに繋がるかもしれないだろ」
ジェイソンの、淡々としながらも胸を掴んでくる様な言葉に、アクセルは自ずと頷く。
全てを打ち明けるにはまだ後ろめたくとも、自分の身に変化が起きている事をメンバーが知ってくれている。それだけでも、緊張と熱が引いていった。
レイデンは微笑むと、アクセルの肩を叩いて立ち上がり、何気なくモニターの方に向かった。スタジオ中の張り詰めた空気を解消しようと、脇の長テーブルに置かれていたリモコンを取った。
「へぇ。下のステージのモニターができるだけじゃねぇんだ」
新しい発見にブルースが呟いては、ここに住めるなどと呑気にレイデンと話し始める。
そんな2人を見ながら、ジェイソンはアクセルに笑いかけると、ドラム席に戻った。
その時、いつもの夕方のニュース番組に切り替わった。
“相次ぐ襲撃事件の容疑者について、警察は、本年に入って行方不明の男性医師、ステファン・ラッセルに焦点を絞り、捜査範囲を広げる方針を発表しました――”
MISSING PERSONからWANTEDの表記に変わった彼の情報には、先日、被害者の動画から切り取られた写真が追加されていた。誰も予想だにしていなかった方向転換であると、女性アナウンサーの忙しない声に、4人の調子は狂わされていった。
-----------------------------------------
サスペンスダークファンタジー
COYOTE
2025年8月下旬完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
インスタサブアカウントでは
短編限定の「インスタ小説」も実施中
その他作品も含め
気が向きましたら是非




