7
本当は何もかも不慣れで、追いつこうにも追いつけずにいる。化粧に隠れた瞳が震えていた。背伸びしすぎたカラーバリエーションに埋もれる目は、濡れている筈なのに、ラメと同じにされてしまう。本心が自動的に誤魔化され、あたかも、流行の波に上手く乗れている色気ある存在になっていた。だが、アクセルは妹にこちらを向かせる。
「考えてみろ。家族や、自分が想ってる人は、そんなやり方で誰かの気を引こうとしてるか?」
ソニアはふと、ダイニングの窓から薄っすらと見える隣の家に目を向ける。
「見た目から入っていく事は否定しない。それはどうしても、人間が持つ特徴だ。けど、好きとか、愛してるの本質は、何だと思う?」
17年しか生きていない自分が、何を語れる訳でもないからといって、見放せなかった。それは家族だからなのかもしれないが、例え家族でなくとも、そこに落ち込む人がいる以上、時間を費やすのは当然だった。
「ほら、俺だって何も完成してないだろ? お前と同じやり方をした事だってある。けど結局、そんなもん殆ど機能しなかった。今はマシだけど」
ソニアは兄に目を見開くと、首を傾げた。アクセルは、迷子のリスの様な妹に微笑むと、その固められた髪を耳にかけてやる。
「気持ちなんじゃないか? 手に取れない、目に見えないそれを伝える事。そんでもって、それを聞こうとする事も必要だろう。方法は色々あるから、探さなきゃいけない。俺の場合、それが歌だった。彼女は歌が……音楽が好きだったみたいで……ノってくれるんだぜ……最高だよ……」
声が狭まるにつれ、視線が隣の家に引っ張られていく。ソニアもまた、それを追いかけた。
「大事なのは、潜んでるもんを1つ1つ知って、受け入れる事なんじゃないか……」
ソニアは、兄の自信が無さそうな言葉を噛み締める。そうする内に、何かにつけてダサいと言うクラスメートや、それに乗っかって同調してきた自分を振り返った。どれも、自信を持てない理由によるものだった。ところが兄を見ると、心が落ち着いてくる。あるがまま、自分が好む方法で生きるスタイルを貫く兄は、ダサいだろうか――
「“おいアックス、はよせぇ!” 落第したらお前のせぇだかんな!」
放たれた玄関のドアの衝撃を上回る甲高い声に、2人は飛び上がった。車を停めて現れた彼は、今日も、黒いツーブロックに2本の青いラインと、スパイクを際立たせている。
「誰? いや待て……ソニア!?」
スクリームでの問いかけに、ソニアは顔を歪める。
「止めてよブルース、頭に響くわ」
「目がギンギンだろ? 翼が生えるドリンクより、うってつけだ。今日は家でアップするしかねぇの。それより、俺等の母校はいつからそんなパンクになったんだ?」
「別にそんなんじゃないわ。スナックタイムが無いのは許せないけど。1番貴重な時間を奪うだなんて、センスを疑う」
ブルースは、ソニアを指差しながら同情すると、切り出した。
「人生で12回目の9月を迎えた瞬間、腹が減って集中できねぇ症候群は消えちまう。その直前までのっぺりしてた顔に急に彫刻が入って、4Dに激変しちまうのと同じってやつよ。行くぞ」
ブルースはあっさりと踵を返し、出て行ってしまう。アクセルは、いつもより強く妹を抱きしめると、家を後にした。
ソニアは肩を撫で下ろすと、目を瞬き、キッチンのストックを開け放つ。そして、金曜日の最高峰メニューであるオレオシリアルを、皿に並々と盛った。
※スナックタイム
小学校の間は、昼食までの間に空腹感が発生しやすく、そのせいで集中力が乱れると言う考えから、おやつを食べる時間を設けていたりするそうです。補食という考え方で、昼食後に設けられてるところもあったりするそうです。
-----------------------------------------
サスペンスダークファンタジー
COYOTE
2025年8月下旬完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
インスタサブアカウントでは
短編限定の「インスタ小説」も実施中
その他作品も含め
気が向きましたら是非