7
アクセルは猫の首裏を引っ掴むと、校内から飛び出した。
『いいぞ、やれやれ! そんなやつ、やっちまえ!』
その様子を天井から見ていたモッキングバードは、興奮しながらアクセルを追う。
アクセルは、石畳の道に猫を下ろすと、下顎を掴んで睨みつける。猫は、口をもごもごさせながら、前足で抵抗を繰りかえす。
『餌は奪うもんじゃねぇ、自分で獲るもんだ! この界隈じゃ、当たり前ぇだ!』
「連絡網があるなら、連中に言っとけ! アクセル・グレイは、コヨーテじゃねぇって!」
アクセルが猫に怒鳴りつけた矢先、モッキングバードが彼の肩にとまった。
『いやいや、そいつは無理があんだろう。あんたはあれだ、そちらで言う、ご新規さんってやつだ。新形態のシルバーコヨーテで、こっちじゃ、神様の怒りの象徴みてぇだなって噂だ』
「……どういう意味だ!?」
アクセルはモッキングバードに振り向くと、周囲からのレンズに目が泳いだ。この異常事態を探られては色々と厄介だと、アクセルは咄嗟に猫に向き直る。
「いいかい、この鳥は鳴きが悪くて、喰うと腹を下す。学校のアイドルがいなくなられちゃ、困るんだよ」
モッキングバードは狂い鳴き、アクセルを激しく突いた。アクセルはそれを大きく払い除けると、そのまま猫の前足でハンドシェイクする。周りにはあたかも自然に見えるように、だが、隠し切れない焦燥に震える手で、猫の手を乱暴に放した。
その場は笑い声に染まる。友人達からは、一体何の真似かと揶揄われ、アクセルは、何ともない様子を装い続けた。
「動物コメディ映画のコピーだよ。ハロウィンは、その獣医になろうと思って」
どういう風の吹き回しかと、友人達は彼の肩や頭を引っ叩いて笑い飛ばす。
その手前、共に食事をしていた3人は立ち尽くしていた。騒ぎの最中、ブルースとレイデンは、レイラから4コマ目前でのアクセルの事を聞いていた。
ブルースは首を傾げたまま、どうにも動けなかった。レイデンは無表情のまま、何か違うものを見る目で、アクセルの誤魔化す姿を眺めていた。
その後、動物とのフラッシュモブを忘れる一心で、アクセルは廊下で歌った。音楽がエントランスの外まで流れていく。ドラムが欠けていて間抜けに聞こえるが、観衆は気にせず、好んで聴いてくれた。
他国のニュースに影響されてできた歌詞が、やっと音楽に変わった。昔の出来事になり、話題にされなくなっていても、世界にその爪痕は遺され、消える事はない。
罪を犯してしまった者達が、辛苦や痛み、歪みながらも生んだ笑顔がある。それらはほとんど見えず、この先で触れられるのかどうかも分からない。しかし、確かに息吹いている筈だ。
忘れてはならない事が、音楽というデータに変わる事。書籍と同じ様に、当時を知らない誰かに語ったり、聴かせたりできる代物になるならば、価値があるだろう。時代の波に上手く乗せられるように、長く揺蕩い、耳から耳へ伝わっていく様に。自分達の歴史の一部にする様に。
-----------------------------------------
サスペンスダークファンタジー
COYOTE
2025年8月下旬完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
インスタサブアカウントでは
短編限定の「インスタ小説」も実施中
その他作品も含め
気が向きましたら是非




