表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*完結* COYOTE   作者: terra.
Waning Crescent
80/184

18




「止めようぜ……家事の分担はうちのルールだ。俺は変わった。帰って来るのに合わせてやったんだぜ! 結構、鋭くなっただろ?」



 それこそ酷く気味が悪いくらいにだと、アクセルは表情に滲ませながら、歯を見せる事を絶やさない。違和感に苛まれながら、とにかく頭に浮かんだ言葉をそのままを口走っていた。だが幸い、キャシーは弟にあっさり納得すると、そのまま収納を託した。



「ま、そうね。あんたは確かに、変わったわ」



 姉の微笑みに、アクセルは少し胸を擽られる。以前なら、犬の喧嘩の様に喚き合っていたのに。お互いを認め合えない状況が続くのだとしか思えなかったが、(ようや)く陽の目を見られたと、油断した。

 手伝おうと純粋な気持ちでストックの戸を開けた途端、食料の雪崩が起きたと同時に、キャシーの叫びが家を軋ませた。








 アクセルは、後から戻った母と姉に食事の支度を任せ、逃げる様に部屋に向かう。コヨーテのとんだ騒ぎが起きた上に、2度目の片付けをするはめになり、身体は再び不調に陥った。

 溜め息を吐きながら灯を点けると――ふと現れた獣に叫んだ。




 一体何事かと、駆け上がってくる姉の声がした時、アクセルは部屋から首を突き出し、笑みだけで待ったをかける。



「いやその、俺もそろそろスクリームを鍛えねぇとなって!」



 キャシーは止まると、弟に白い目を向け、呆れた足取りで引き返していった。




 アクセルは胸を撫でおろす暇もなく、顰め面のまま部屋に戻る。ベッドでは、居なくなった筈の銀のコヨーテが優雅に毛繕いをしており、大きなあくびを見せた。足場が軋むほど伸びをすると、輝かしい被毛を震わせる。動作に合わせ、美しい銀の筋が際立った。



「外に出たんじゃねぇのかよっ!」



『ブツはどうした、坊主』



 コヨーテのお求めの物が何かを分かっていても、アクセルはどうでもよいだろうと首だけで否定しながら、恐れ半ばにコヨーテに近付く。



「何がどうなってる……世間がパニックなのは、お前のせいだろ!」



 同じ言語を鮮明に放つ獣のそこら中を、細かく舐め回す様に眺めてしまう。コヨーテは小さくくしゃみをした様に見えたが、どうやら笑ったようだ。



『来るべくして来た。そういう順序だ』



 訳の分からない事をと言いかけたところで、ふと、アクセルは思考を巡らせる。このままコヨーテを引き止め、何かを聞き出している内に捕獲できるならば都合がいい。ところが



『呑気だなぁ人間……我々は……自然は……お前達を見てる……』



 アクセルは、見開いていた目を尖らせる。こちらの胸の内などお見通しとでも言わんばかりのコヨーテに、苛立ちが込み上げた。だが今は、騒がず冷静さを保つ事に徹した。



「ステファンは、何でお前なんかと行動してる……」



 不運にも、スマートフォンはベッド脇の棚の上にある。自分の記憶力に縋ったとて、警察はどこまで信用するだろうか。アクセルはコヨーテを凝視しながら、耳を研ぎ澄ませる。そのままベッドに居座るならば、毛でも(よだれ)でも何でも落とせと、切に願った。




 コヨーテは喉を低く鳴らすと、ベッドのそこら中を興味深く嗅ぎ回る。枯れ葉や土とは違う柔らかさを、四肢でじっくりと堪能する様子は、子どもを見ている様だった。



「明らかにおかしいだろ……あの人に何をした!?」



『何も珍しい事じゃあねぇ。何なら改良は、そちらさんが専門だろう』



 アクセルは、口を開きかけたところで硬直する。手が震えた時、右手に痛みがした。視界が揺れ、足が自ずと引き下がっていく。

 怯えた小動物の様なアクセルを、コヨーテは、銀の眼光越しに見据えていた。









-----------------------------------------


サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月下旬完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんにちは! いつもお疲れさまです( ・∀・)っ旦 アクセルとキャシーがお互いを認め合うようにしたのもつかの間、結局キャシーはアクセルをまだまだ子供だと言う認識でしたね(^-^; でもあれはアクセルが…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ