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男はアクセルに近付くと、声を出すのがやっとの彼を、胸倉から立たせた。
コヨーテは舌を出し、アクセルの有様に息を荒げ、鼻を鳴らす。そしてまた地面を嗅ぎ回ると、軽やかな咀嚼音を立てた。
「誰が待ってる……」
男に不意に訊ねられ、アクセルの呼吸は鎮まっていく。男は昨晩と違って冷静だったが、アクセルは警戒の眼差しのまま口を開く。
「……奥さんと子どもだ……とぼけんじゃねぇ……」
このまま大人しく話せるならば好都合だろうと、アクセルは震えながら男と向き合う。だが男は、不思議なものを見る目でアクセルを眺めるだけだった。
「……ステファンだろ?」
男の、目にかかる髪を首だけでどかす動作は、まるで獣だった。男はアクセルを放すと、その場の匂いを嗅ぎ、コヨーテがいた方を向く。それに、アクセルはすぐさま眉を寄せた。慌てて玄関の階段を駆け下り、唖然とする。
「おい、あいつは!?」
「……狩ったもんはどうした」
噛み合わない返答に足止めされるも、アクセルは間を置き、淡々と答える。
「処分した。ここにはもうない。うちはもう、誰もハンティングをしない」
男は、アクセルの言葉に顔色1つ変えず、虚ろな目を地面に落とす。沈みかける陽による逆光が、その身を更に闇で包んでいった。すると、足取り重く、敷地の入り口に向かう。何処を見ているでもない目付きは、元より冷酷だった。貫く眼差しや、鼻をひくつかせる男に、アクセルは狼男というワードが過ると、焦りが込み上げる。
「なぁ、どうしちまったんだよ!? あんたは人の筈だ!」
男が大人しいあまり、食いついたのも束の間、何かの騒音が話の先を遮ってきた。家の中からかと、アクセルは目を剥くと、コヨーテの気配を嗅ぎつける。家を荒らしていると察した途端、居ても立っても居られず舌打ちした。
「あいつどうにかしてくれよ! 人の家荒らすなんて、とんだ躾だな!」
それでも男は応じず、道路のずっと先を眺めていた。アクセルは焦燥に駆られながらも、彼に釣られて同じ様にそちらを向く。
人影1つない道路の先に、意識が引き寄せられていく感覚がした。何かが近付いて来る。それも、かなりの速さでだ。
男が足早に敷地を出て行くのを、アクセルは呼び止めようとした。だがまたしても、意識が道路の先に引っ張られてしまう。接近する何かに焦りが掻き立てられ、分からないまま苛立ちの声が先走ると、家に飛び込んだ。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
2025年8月下旬完結予定
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