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森林は夕陽を遮り、早々に日没を迎えている様だった。朝から広範囲にわたって、レンジャーと警官が、目撃者情報を頼りに捜査をしていた。不可解な銀の液や、銀に染まる要因を探るべく、野生動物を捕獲した檻を片手に、引き返していく。感染症の疑いも含めて、ツツドリや梟、リスにアライグマが、細胞の検査の対象になった。
「一番手っ取り早いコヨーテがいないとはな」
「夜行性だから。まぁ、運がよけりゃ昼間でも見られるんだけど、よっぽどだよ」
警官が、レンジャーの後ろで溜め息を吐く。
「銀色をした個体は、突然変異としてあり得るか?」
「そう言われると否定はできないけど、そんな電球みたいに、明らかに光る被毛は考えられないね。あくまで銀に見える灰色として区分するのが一般的だろう。殆どは褐色をしていて、そこから灰色寄りか、黄色寄り、或いは黒色寄りがいる。四肢は橙色で、尻尾は黒色。頭から胴体だけで、大きくても3ft。体高は2ftにも満たない。シベリアンハスキーか、ジャーマンシェパード辺りの大きささ。それを考えると、そちらが少年から聞いたコヨーテの情報は、まるで狼だ。街で犬みたいに連れ回すなんて、ありえないぞ」
そうも言っていられない状況だと、警官は首を横に振る。
「被害者が言うには、ヘッドライトを向けられた様に眩しい目をしてる、と。そんな光を放つ動物はいるのか?」
「イルミネーションじゃあるまいし、信じられないね。海洋生物や昆虫でも、そこまで発光する種類なんて聞いた事がない。でもコヨーテは、圧倒的な夜間視力を持つし、遠くからでも目が光って見える。だが、それはなにもコヨーテだけじゃない。網膜に届いた光を反射させる働きは、犬や猫とか、馴染みある小動物にもある共通点だ。暗い場所での視力を高めるんだよ」
檻に小動物の体重がかかると、警官は持ち手を変える。レンジャーの話を聞く傍ら、周囲を警戒していた。ほぼ1日かけて森林を探ったものの、事件の手掛かりになるものは何もなかった。
「動物に怪我を負わされた際に、狂犬病以外で、何か他の症状や特殊な病気はあるか?」
襲撃された被害者の多くは、患部の炎症が長引き、それによる発熱や嘔気を催すなどが見られた。中には無症状で、傷の手当てのみで回復した者もいる。どれも長期的なものではなく、一時的なものだった。銀の液体を見た者は少なく、それに触れたのは、最近通報があった少年のみだ。
「尿を介す事によって、肝臓や腎臓の障害が起こる、レプトスピラ症がある。後、引っ掻き傷を理由に傷口が腫れて炎症を起こす、パスツレラ症。皮膚の強烈な痒みが出る、カイセンとかも。細かい病気はたくさんあるが、排泄物や外傷によるウィルス感染によって、風邪に似た症状とかが考えやすいだろう。寄生虫なんかにやられりゃあ、命に関わる事が多い」
どの専門家も似た様な事を言う。そして決まって、銀の液体などと例えられそうな体液を持つ動物はいない。街の捜査も並行しているが、容疑者と思しき者の拠点は明らかになっていない。
「ハンターじゃない人が被害を受けるのは初耳だな。そうなると、誰もが襲われても不思議じゃない事になる。いよいよ外に出るのが怖いよ」
※3ft=約91cm 2ft=訳61cm
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サスペンスダークファンタジー
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