12
騒ぎを畳む様に、アクセルは慌ててメンバーを部屋に迎え入れた。最後に部屋に入ったのが昨日の朝だが、かなり昔に思えてしまう。途中の宿題を適当に纏め、デスクの端に寄せると、適当に座るよう皆に促しながら、ベッドに腰掛けた。
ジェイソンはデスクに着くと、目の前のコンポやCDに目を惹かれ、弄り始める。すぐ傍には、作詞が詰まったノートやメモ帳が積んであり、本を読む様に目を通した。
中学からの仲であるブルースは、アクセルの部屋もよく知っている。一時期はポスターの壁だったのに、どういう風の吹き回しだと、落ち着いた部屋に圧倒されていた。そして、ベッド脇に凭れかかるアコースティックギターを見るなり飛びついた。
「見ろよ、拗ねてんじゃねぇか! 俺が可愛がってやる」
あっさりとチューニングされ、それは嬉しそうに、緩やかな音色を奏でると、アクセルに渡った。
「いい加減、上達しろ」
相変わらずの流れだ。ブルースの指導は厳しく、彼がこれまで褒めた事がある相手は、敢えて行方を追っていないライバルだけだ。
頼んでもいない指導が始まると、窓を嗅ぎつけたレイデンが割り込んだ。
「絶景じゃねぇか……即効ヤれんのに何で進まねぇんだ」
レイデンは窓を全開にして上半身を突き出すと、隣の家に今にも飛び掛かりそうになる。アクセルは彼のシャツを掴み、乱暴に中に引っ張った。しかしレイデンは、部屋一帯を見回してから、焦るアクセルを穴が開くほど見つめる。
「てめぇだけのラビリンスが確立してなさすぎだ。禁断の書庫の匂いもしねぇほど清掃するとはな。止めとけ、いざって時に発揮の仕方が分からねぇんじゃ、ハニーが風邪引くぞ」
「ああ! 包むんだから風邪引くか! 窓は聖域だ、触んな!」
ジェイソンの短い口笛が鳴る。彼は読書の姿勢を崩さないまま、僅かにアクセルを見てニヤけた。
レイデンは揶揄いもそこそこに、端の音楽雑誌を取ると、ジェイソンの足元に座る。
騒ぎも気にせず演奏に浸るブルースが顔を上げると、アクセルの指導を再開した。新たに仕上げたバラードこそ、弾き語りがしやすいだろうと、特に熱くなっている。だがアクセルは、彼が目指す演奏領域に積極的に進もうとしていなかった。否、進める訳がなかった。
直接言葉にはせず、演奏指導と言い換えて、ブルースが後押ししてくれている事は分かっていた。それにいつも通り待ったをかけ、留守であろう真っ暗な隣の家に目を逸らしてしまう。
今朝会った事が信じられないくらい、彼女はまた、遠くなっている。ほんの僅かに共有した体温も、触れたというちっぽけな記録に変わり、温度を忘れてしまっていた。それに冷めてしまうと、弦を弾く度に、刺激で顔が引き攣る。
「なぁ、忘れてたけど……痛ぇよ……」
ブルースは、アクセルの右手を見るなり上体を伸ばした。その横から、ジェイソンの止めろと言う声がすると、ブルースは、素直にアクセルからギターを取った。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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