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「兄貴の苦手分野だろう。俺が代わりに、分かりやすいコードを教えてやる。よく叩き込むんだ」
「音楽の事なら別にいいわ」
興味がないと知っていながら、なぜそれを教えようとするのかと、ソニアは食事を続ける。だがレイデンは、彼女を指差し、振り向かせた。
「君は素敵だぜ。だからこそ気をつけろ。“無防備でオーギーに会いに行くな。そこにはクソ不味いクリームパイしかねぇ”」
キャシーが悲鳴を上げた矢先、ソニアの両耳を激しく塞いだ。離れた両親は、顎が外れかかる。
ジェイソンは、レイデンの背後に回って肩を掴み、そっと黙らせた。出遅れたアクセルとブルースは、唇を噛んだまま、ソニアを恐る恐る見つめる。
レイデンのコードに隠された暗号は、大人だからこそ分かるものだった。しかし、ネットの海を誰でも自由に泳ぎやすくなった現代、若すぎる段階で、耳を疑うスラングが飛ぶようにもなった。
ところがソニアは、周囲の驚きと慌てように肩を竦め、呑気にコーンフレークを口に運んだ。
「クラスにオーギーって子はいない。仮に誘われたって、無防備で会うなんてあり得ないし、クリームパイを食べようってんなら、それこそお断り。デートはカフェで、ダークトフィーバントとフローズンドリンクでしょ」
彼女が感じるままに置き換えられたコードは、張り詰めた空気を一気に緩めてしまった。
「ちょっともう……あんた！ 妹に変な事吹き込まないでよ！」
キャシーが大きく脱力すると、レイデンに噛みついた。
「失礼、ビッグシスター。リトルレディーが可愛過ぎるんで、つい、釘を刺しておこうと」
両腕を広げ、爽やかに返答するレイデンは、キャシーを逆撫でするだけだった。キャシーは弟を睨み、唇だけで、付き合う友達を考えろとまで言う。
遠目で見ていた両親は、冷や汗を流すものの、次女の真っ直ぐな受け取りや、息子の友人のユニークさに、静かに笑った。
片や、寡黙なジェイソンは、僅かに焦りを見せていたものの、この場の誰よりも表情を変えないでいる。そして、キャシーにも敢えて聞こえるよう、ソニアを呼んで振り向かせると、レイデンの肩を引き寄せたまま言った。
「あいにく、世界は残酷でな。そのコードを早々に知っておかないと、簡単に闇に落ちちまうんだよ。その頃には、知らなかったや、教わってないでは済まない。声にしなくとも、どこかに仕舞っておいてくれないか。いつか君のやり方で、誰かを救えるかもしれないから」
レイデンは歯を見せ、愛らしくとぼけるのだが、アクセルとブルースは気付いていた。彼の目はここにあらず、笑ってなどいなかった。
※アンプロテクト
前ページの補足です。レイデンはこれを「避妊をしない状態」として話しています。ソニアが何か聞きたくても聞こうとしない様子を見て、レイデンは遠慮というガードを張られていると捉えました。なので、そのプロテクトを外して聞きたい事を聞け。そうすればいいものが「生まれる」＝お互いがスッキリする、新たに何かを知れるぞ、と訴えています。
※ベアバック
素足をベアフットといいますが、この場合は背中ががら空きの状態です。馬の場合は、鞍が付いてない状態の事です。背中が広く空いたドレスをベアバックドレスと言うのですが、要は「無防備な状態」です。
この事から、レイデンは化粧で色気を出す事に必死のソニアに、注意喚起をします。
※オーギー
レイデンが発音するのは、頭文字がOの方。ソニアが聞き間違えて発音するのは、頭文字がAの方で、男の子の名前によくあるものです。レイデンは、飲酒や性的行為が乱雑に発生する場を意味しています。よって、そんなところに行くなという事を言っています。
※クリームパイ
美味しそうで可愛らしいこの表現。実は、望まない妊娠に繋がってしまう行為そのものを指します。超大人ワードですので、発言するのはお控えを。
ここで纏めると、レイデンはソニアに、ノーバックで常軌を逸した場に行くととんだ被害にあうぞ、という事を、印象的なコードに変えて言いました。
メンバーは、レイデンの背景がいかなるものかを知っています。中でもジェイソンは、身に染みて分かるものがあり、レイデンを責めず、ソニアに別の言い方をしてでも諭す選択をしました。
※ダークトフィーバントとフローズンドリンク
スターバックスにあったとされるスイーツメニューでございます。チョコレートドーナツみたいな見た目のケーキで、上にクリームなど色々トッピングが付いてます。フローズンは文字通りですね。
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サスペンスダークファンタジー
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