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まじまじと見られて擽ったいソニアは、目を泳がせると、コーンフレークを掻きこみ、すぐさまおかわりを盛った。
「ミルクに入れてすぐのカリカリ派? ちょっと浸したフワフワ派? じっくり沈ませたクタクタ派?」
気まずい空気を埋めようとする彼女に、レイデンは口角を上げる。彼はソニアの器のスプーンを取ると、底に沈んでいたイチゴを掬い上げ、摘んだ。
「ひったひたで、くたびれて、原形なくしちまった奴がイイ。なぁ――」
レイデンは少し身を乗り出し、ソニアを打ち止める。
「そんな事聞きてぇんじゃねぇだろ。優しいんだな、兄貴に似てよ」
2人のやり取りを殆ど聞いていない3人は、何となく、レイデンの大きな動きに振り向く。ソニアが動かなくなったのを見たアクセルは、朝食の邪魔だろうと、メンバーを部屋に入れようと声を掛けるのだが
「気にすんのは止めとけ、言ってみろ。こういう場合のアンプロテクトは、いいもんが生まれるぜ」
レイデンの発言に背筋をなぞられた3人は、彼に警戒の眼差しを向ける。また、彼等だけではなく、庭にいたキャシーが、テラスに不穏な目を向けた。そこで一緒だった母の洗濯物を持つ手が止まり、ガレージで積み込みを終えた父が、庭の2人に合流したところで立ち尽くした。
ソニアはよく分からないまま、レイデンに素直に応じた。
「タトゥーが枠だけなのは何で? 仕上がってないよね?」
その詳細を知らない妹に、アクセルははっと、話を遮りかける。だがレイデンは、余裕の笑みを浮かべると、器の中からオレオを摘んだまま、指に彫られたアウトラインだけのそれを突き付けた。
「ベーシストだからだ」
意味が分からず、ソニアは目を細める。しんとしたその場は、咀嚼音だけになった。
「この線無くして完成しねぇんだよ、シスター。ベースラインがあるから、綺麗に納まる。色も模様も、音もだ。最終的にぼかされて分かんなくなっちまっても、その線が初めにあっから、メインが際立つ」
周囲は、意外な返答をする彼に、何故、注目してしまったのかを忘れてしまう。
「土台がねぇと完成しねぇ仕組みだ。今日のメイクがイケてんのは何でだ、シスター」
あまり呑み込めないといった顔をしていたソニアだが、その言い換えにしっくりきた途端、目を見開いていく。ベースメイクがなければ化粧が映えないという事かと、こくこくと頷いた。
両親は、面白い友達がいるものだと笑っている。怪しんでいたキャシーもまた、レイデンの意外な教示に胸を撫でおろした。それは、彼の傍にいる3人もまた同じだった。
「けど君は、音楽よりも色気を出すのに夢中みてぇだから、もっとイイ事教えてやるよ」
安堵したのも束の間、不穏な波は再び訪れた。
※アンプロテクト=unprotected を意味しています。
プロテクトは保護するという意味で、その否定形から、保護されていないとなります。
無防備な、無装甲の、というところから、守られていない状態です。
それは後の「生まれるぜ」にかかっているものですが、レイデンが何故この比喩を使い始めたのかは、以降でシーンが終わってから説明いたします。
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サスペンスダークファンタジー
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