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アクセルは、姉の叩き起こす声で到着に気付き、重い足取りで外に出た。僅かな睡眠だったが、体調は回復していた。母は既に家に入っており、姉はガレージに向かった。
週末は庭で朝食をとる習慣のソニアは、兄の退院を聞いて食欲が戻り、ブランチを食べていた。相変わらず、ミルクと大きなボックスが立っている。
久し振りの父を見ると、少し痩せていた。お陰で高身長が際立っている。アクセルは抱擁を交わすと、父に怪我の具合を訊かれた。だが、それよりもと、引っかかってならない件を伝える。
「父さん、あのトロフィー持ってってくれよ。それか処分して」
「何だ、そんなに邪魔だったか?」
息子の不思議な頼み事に、父は首を傾げてガレージを見る。
「そう、夢でも現実でも視界に入って耐えられねぇ」
庭を見れば事件を思い出し、動悸がしてならない。
「お兄ちゃんガレージで寝てたっけ?」
出迎えの声がけよりも先に、妹は2人の会話に眉を歪める。
「ああそんな気分だよ、本当に。なぁ、助けてよ」
困り果てた息子を、父は少々面白がりながら頷く。
「分かった、積んでいってやる。丁度、譲り先があったからな」
父は早速積み込みに向かおうとした。その時、アクセルは、不意に父を呼び止める。
「もうやらないでくれないか……頼むから……」
神妙な面持ちで顔色を悪くする息子に、父は、その肩を取って胸に引き寄せた。
「我が儘で悪かった……考えを改めてるところでな……今はやってない。母さんとちゃんと話そうと思ってる」
「ならそれも急いでくれ。肩身も物を置くスペースも狭過ぎて、窒息しそうだ。このダンジョンはソロプレイ向きじゃねぇって、知ってるくせに」
父が笑う傍ら、アクセルは視線を感じて振り返ると、ソニアが口いっぱいのコーンフレークを噛みながら睨んでいた。
兄妹だけになった途端、甲高い呼び声がし、2人は肩を跳ね上げる。自転車の激しいブレーキ音が耳を貫くと、全力疾走してきたブルースが、アクセルに大きく抱きついた。
「どこ喰われた!? 殴ったか!? やり返したか!?」
彼はレイラから連絡を受け、帰宅の頃合いをずっと待っていた。イベントを控えている最中の出来事は、落ち着きを奪うばかりだった。
「ジェイソンがドリフトしてくるぜ。それより顔が最悪だ。まだ調子悪ぃの?」
アクセルは事細かに話す気にはなれず、傷の話にだけ触れ、大した事はないと、友人を安心させた。急に訪れたブルースが運んできた空気に誘われる様に、雲間からの細い陽射しが出ると、徐々に心が軽くなっていく。
「俺は手は関係ねぇから、予定通り出られるぜ」
「当たり前ぇだ。骨折してても出させるし」
ブルースの調子もまた眩しく、アクセルは励まされていった。
騒ぎを聞きつけた母が窓から覗くと、気前よく、中に入れとブルースに声をかけた。ブルースは礼を返そうと手を上げた矢先、背後から別の声が重なった。
「ああそらどうもサンキューでーす」
レイデンがアクセルの母に手を振り返しながら現れると、後からジェイソンが足早に追いついた。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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