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「施設が許さないだろ? 優秀なスタッフがいなくなるなんて痛手だ。じいさん、ばあさん、子ども、それに犬だって悲しむ。今すぐ考え直した方がいい」
アクセルは言いながらサラダを頬張ると、更にハニーマスタードを効かせる。
「なら電話すれば? 実際、お兄ちゃんの事を気にしてたし。まだ歌ってばっかいるのかって。進路はどうするつもりなんだって。定まっていないなら、それこそ脳みそが岩になってるって」
「そいつは最高だ」
母は、子ども達の会話を半ば聞き流しながら、2杯目のスープを注ぐ。横からソニアが自分の器を差し出すと、兄に、ついでにそちらのスープ皿も寄こすよう、指先だけで促した。
アクセルは、フォークをサラダに突き立てると、妹に器を渡す。床では足音を立てずにはいられない。母はそれを、目だけで止めるように訴えると、息子に2杯目のスープを差し出した。
わざわざ言葉で叱りはしない。長女もまた神経質で、そこが自分によく似ている。息子がそれに嫌気が差してしまう部分には、別居する夫が重なり、心境が分からない訳ではなかった。
だが、いつまでも幼児ではない。片や高校3年、もう片やは就職まできた。どの路に進むかなど好きにしてよい。それよりも、関係性を整えてほしかった。
食事を再開する母に目もくれず、アクセルはげんなりする。向かいの席では、妹が、スタートを切ったばかりの中学生活の愚痴を溢し始めた。かと思えば、すぐに顔を輝かせ、明日から新しい朝食を取るのだと、準備に向けて夕食を搔き込む。
アクセルが妹の急変に眉を寄せると、母はサラダを取りながら鼻で笑って言った。
「オーツはプラスチック要塞の上からラミネートされて、手も足も出ない。落ち着きなさい」
妹の新たな朝食とやらに、アクセルは吹き出す。
「コーンフレークと変わんねぇじゃねぇか」
ソニアはテーブルを叩くと、激しく首を振った。
「オーバーナイトオーツは、栄養がたっくさん詰まった健康サポートに適した食事なの。これからは、美容もちゃんと意識していかなきゃいけないんだから」
「なら今朝、シリアルカルトのゲートが閉鎖された事になる。冗談だろう、ひったひたのマシュマロ入りシリアルで、そんな貴重な日を飾るのか」
「木曜日のメニューだから仕方ないわ」
「ヘッドなら考えろ。金曜日こそ捨てがたい最高の日、オレオシリアルがレジスタンスを起こす」
「子どもじみてるわ、そんなの。グレードが上がったら、食事は前の晩から仕込むのよ。お兄ちゃんこそいいの?毎度つまらないトーストで。そろそろフレンチトーストか、ワッフルを焼くべき。せめて飲み物はミルクを止めて、ブラックコーヒーじゃなきゃ。レイラがほとほと愛想尽かすわ」
アクセルのスプーンが落ちた。一言余計なところは間違いなく姉の影響だと、目が震える。
「母さん新型ウィルスだ。ワクチンがいる。このままじゃパンデミック再来だ」
「拗らせてから検討しても十分間に合う。一晩ポッキリの発熱よ」
どういう意味だと、ソニアは顔だけで母に問いかけた。母は、その馬鹿げた表情に見向きもせず、マカロニチーズを取りながら、子ども達にさっさと食事を済ませるよう、手だけで促した。
※オレオシリアルは、そのまんま、オレオでできたシリアルです。そこに更にオレオを入れて食べるソニア(妹)です。
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