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スポーツとして行われる狩猟がある。射止める事を目的とするだけでなく、野生生物や植物、天候を意識しながら、銃器に対して安全性を重んじるといった姿勢を身に着けるためのものだ。忍耐を要するそれは、自分との勝負という言い方もされ、獲物を狩ってそれらを達成できた時には、誇りと喜びが凄まじいとされている。
「父さんがするトロフィーハンティングは、娯楽のためのものだけど、ビジネスに置き換えれば、実際に収益が大きい。アフリカの野生動物だと、象やライオンの毛皮は、かなり儲かる。それに、大型動物は需要が高いとされてるわ。昔、人のために生まれるライオンがいて、犬と同じ様に繁殖施設があった。幼獣は、触れ合い向けに。成獣は、繁殖用かトロフィー向けに売買するの。今では、商業目的での繁殖や飼育、ハンターに売る事も触らせる事もしなくなったけど。まぁただ、そうして厳しい規制を張っても、密猟はなくならない。ハンターがいなくなる訳じゃないから」
この時、2人の息が止まった。
「……止めてよ」
「何も言ってねぇだろ……」
狩猟ビジネスは、現地の収入や雇用を生む。そして、大きな資金源にもなる。狩猟による収益の一部は、野生生物の保護に当てられる事もある。人に危害を加える個体だけでなく、健康的な個体や若い個体を殺したり、雌を譲ろうとしない個体も含めて駆除をする必要がある。つまり狩猟は、環境保全に貢献しており、今後も必要だという考え方も多い。規制が強まれば失業者が増え、生活のためにも密猟をせざるをえなくなるという事も出てくる。ガイドや観光客を装い、猟をしに敷地に入るなどは容易いものだ。
アクセルは、そんな事情を少なからず考えてみた事がある。そして昨晩、自分がその事で雑に放った言葉が蘇った。
「ホリーさんは、世間が言う様な人なんかじゃない」
「分かってる」
とはいえアクセルは、胸に淀む何かに眉が寄ってしまう。そして、ふと、口に当てていた右手を見た。先程まで感じなかった、奥底からの痛みに、鼓動が速まる。車内のエアコンを目だけで確認しても、ヒーターはついていない。妙な熱さを感じてならず、姉はどうかと、横目で窺う。話していた時とは違い、半ば険しくなる顔は、少し青白く見えた。
ハンターを襲う男と、姉がホリーを通じて聞いた狩猟の話が、頭痛に変わっていく。次第に嘔気を催し、痺れる様に痛む右手で目を覆うと、僅かに窓をすけた。
空は起きた時よりも薄暗く、自らの顔を眺める様だった。それに酔いが増し、堪らず目を閉じた。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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