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「起きて早々に悪いが、知っての通り、急を要する。少しの間よろしく頼むよ。傷の件だが、故意に削らなければそうはならない。何があった」
アクセルは硬く手を組んだ。食事から片付けまでは鮮明に思い出せたが、それ以降が、まるで夢を見ている様にぼやけている。点在する記憶は散らばっており、警官には、繋げる事が困難であると前置きしてから切り出した。
「男が庭に入ってきた。全身、黒い服で……あと犬が……いや、大きいが、あれはやっぱコヨーテだろう……シルバーをしてた……」
母が青褪める横で、1人の警官が2枚の写真を順に差し出した。どちらに写る人物も、姿や顔は殆ど変わらないが、ある点のみ、大きく違っていた。
「これは失踪中の男。こっちはブレているが、最近、ハンターの2人が襲われた際に録画したものから切り抜いた、銀髪の男だ。君が遭遇したのは写真の男か、或いは他の人物か」
仕事場であろう所で白衣を着て微笑む男性は、どこにでもいる医師だった。片や、噂になっている、銀髪に眼光を見せる男性は、横からどうにか撮影したと分かるほどに歪んでいた。
「……両方だ」
周囲の顔が一変すると、アクセルは焦りが込み上げる。
「俺は本当に何ともないのか? 爪を入れられた時に、銀の液体を見た気がする。溶けた鉄みたいで熱かった。夢でも同じ感覚がした」
どんな夢かと尋ねられ、アクセルは、ただ感じたままを懸命に答えた。すると母が、夜中に唸っていたと付け足す。
警官は黙り込み、互いを見合った。銀の液体については、事件でも情報として挙がっている。しかし、それを特定できるものが一切見つかっていない。触れられたのであれば、何かしら痕跡がある筈だった。
「貴方が気を失っている間、傷や身体も調べさせてもらったわ。だけど、その時点で銀の付着物もなければ、採取した細胞からも、そういったものは検出されていない。あと、昨夜に庭も調べさせて貰ったけど、これといった痕跡は何もなかった」
アクセルは、怪我と奇妙な記憶だけを刻まれた事態に、目が揺れる。心境をどの様に伝えてよいか分からなかった。それを見兼ねた母は、息子の肩を抱くと、腕を擦る。
「なぁ……その人、何か病気なんじゃないか……? 髪と目がシルバーになっていくところを見たんだぜ……? これ、奥さんに連絡するの……?」
当たり前の事をつい聞いてしまったが、言い換えようのない何かが、胸の中で淀んでいた。
「その様な事はこちらも初めて聞く。精査をしてから伝える事になるよ。病気かどうかは、本人を確保しなければ特定しようがない」
どうせなら、もっと安心できる様な、希望がもてる様な事を、奥さんに伝えたかった。そうする事を歌で打ち込んできたというのにと、アクセルは呆然とする頭を抱え、溜め息を吐いた。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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