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*完結* COYOTE   作者: terra.
Waning Crescent
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2




 レイラはアクセルの手を握り返す。事情を言おうとしない彼の様子に、不安が膨らむばかりだった。メディアや近辺で騒がれている事が、彼自身に起きてしまったと思えば思うほど、自分が、彼が抱いているであろう恐怖心を拭ってやりたくなる。なのに目が合わず、その寂しさが勝手に彼の名を零すと



「ああそうだ、ライブハウスで歌うんだ、土曜日に。だから……」



 アクセルは途端に切り出すも、喉が何かで痞えてしまう。

 触れてくるレイラの手を静かに解くと、腕は自然と腹に回った。脇腹に加わる指先の力のせいで患部が疼くのを隠しながら、窓の方を見る。目が痙攣するせいで、眉間が寄っていく。思いつくどの言葉も、彼女を困らせてしまいそうで、唇を強く結んだ。何かにそわそわしてしまい、病衣の襟元から顎、鼻に落ち着きなく触れてしまう。




 そんな彼を前に、レイラもまた、眉をひそめた。引き込んだ足元に力が入り、解かれて行き場を失った手は、腹を強く抱き締める。この無音をどうするべきかを探る様に、脇腹を(さす)る手が大腿に移ると、そっと搔いた。その時、見えない何かによる拘束を思い切って(ほど)く様に、彼の視界に割り込む。



「行くわ、絶対。約束する」



 目を見張るアクセルに、レイラが前のめりになると、互いの膝が触れた。彼女は更に迫ろうと、ポシェットを後ろにやり、宙で戸惑う彼の手を取る。




 約束という言葉に、アクセルは目を瞬かせるばかりだった。真剣な眼差しのレイラは、それに頷いて笑いかけてくる。彼女の仄かな甘い香りに、だんだんと緊張が溶けると、アクセルはそっと、空気でできたクッションに凭れる様に首を傾け、微笑んだ。



「……そろそろ行かなきゃ。朝っぱらから私がいないと、父さんが煩いの。本当、面倒」



 レイラは肩で大きく溜め息を吐くと、視線を落とす。アクセルは、彼女の肩に触れると、山になっていた毛布を退けて更に近付いた。



「ありがとう、もう何ともねぇよ。なぁ、愚痴なんかいくらでも聞いてやるさ。隣だぜ? 窓に何かぶつけて呼べばいい」



 いつもの調子を見せる彼に、レイラはやっと、頬を和らげた。



 





 暫くして母が戻り、抱き締められると、看護師と医師がやって来た。そこへ警官2人も入室し、アクセルは身が引き締まる。



「昨夜は発熱で辛そうだったが、今は顔色がよくなってる。右手首の傷は凡そ0.7インチ幅で、一般男性の親指の爪よりも僅かに長い傷が、深く入っていた。手の甲には3本の傷があって、一番長いもので1.2インチ。搬送されてすぐ、縫合した」



「発熱が感染症によるものかどうかを調べましたが、細菌などは確認できず、血液検査の数値はどれも正常でした」



 母は、医師と看護師の言葉に安堵する。しかしアクセルは、目だけで曖昧な記憶の中を彷徨っていた。警官が先の2人に礼を告げると、彼等が出て行くのと入れ替わりに、本題に入った。








※ここではインチで言うのが習慣です。

0.7インチは、およそ2cm。1.2インチは、およそ3cmです。



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サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月下旬完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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― 新着の感想 ―
こんにちは&お疲れ様です( ・∀・)っ旦 アクセルとレイラが疎遠になるような展開にならないよう祈ってましたが、またお互いで笑い合えるようになって良かったです! やはり打ち解け合える人って大事ですよね(…
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