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「お兄ちゃんこれ。もうソースかけちゃって」
着くなり、妹が重そうに大皿を差し出してくる。レインボーフラッグを思わせる、彩り豊かなコブサラダが出来上がっていた。久しぶりのそれは、アクセルの大好物で、瞬きを忘れてしまう。
「アクセルお願い。オリーブオイル、お酢、塩コショウ、あと小皿を出しておいて。いつも使ってるやつ」
「あ、忘れてた。お兄ちゃん、ついでにスープ皿も! あと、これにパセリかけといて」
妹が、オーブンから取り出したマカロニチーズをテーブルに置くと、キッチンに戻っていく。入れ替わりに、母が人数分のグラスと2リットルの水が入ったペットボトルを置き、立ち去った。
未だに答えを貰えないアクセルは、テーブルを指先で叩きながら、キッチンの2人を睨んだ。とはいえ、注文は全てコピーしており、速やかにタスク処理に入る。
ダイニングから続くリビングからは、ニュースが流れていた。今話題の、猟師が出先で襲われる事件に、時折、一家は耳を傾ける。
「何、また? 気をつけなさいよ、アクセル。平気で夜に出て行くんだから」
趣味や仕事で猟をするなど珍しい事ではなく、父もよくしていた。ただ、あまりに没頭してしまった事を引き金に、母と口論になり、今は別居している。
母とソニアが食卓につくと同時に、アクセルも料理の仕上げを終え、腰を下ろす。そして、しばしテレビの方を向いた。
“威嚇を見せる野生動物は、ハンティングエリアだけでなく、森林公園内の散策路付近にも現れました。警戒心が高い野生動物が、人を襲おうと身構える様子が、極めて不自然だったという情報もあります。その特徴は、白内障を彷彿とさせる白みがかった、或いは灰色がかった眼を持っている、と。これは、以前に世界的に大流行した感染症が未だ関係しているのか、もしくは、新たなウィルスの様な何かなのでしょうか――”
キャスターの疑問を、コメンテーターが否定する。情報と比較しても、直近に流行していたウィルスとは考えにくかった。
“そして、気になる情報がもう1つ。野生動物だけでなく、人影の様な、極めて人間に近い大きさをした、何らかの存在が茂みを過った、という被害者の証言があります。現在、他に侵入者がいたのかどうか、警察は引き続き調査を進めています――”
アクセルは溜め息を吐きながらテレビを切ると、好物のコブサラダを2度も3度も山盛りに取る。ソニアはそれに目を見張ると、慌てて横入りした。母はポタージュを静かに取り分け、2人の席に置いていく。
「分かってるだろ、緊急事態だ」
「そうね、消火器を用意しておかないと」
「スプリンクラーの点検もね。お姉ちゃんの鎮火は大変なんだから、お兄ちゃん気をつけてよ」
ソニアは、ハニーマスタードがたっぷりかかったコブサラダを混ぜると、口いっぱいに頬張る。その横の母は、アクセルの配慮のもと、ソースがかかっていない部分のサラダを取ると、お気に入りのヴィネガーソースを絡めた。
「あの子が採用されない訳ないでしょう。卒業を機に改めて考えて、こっちで働く事にしただけ。少しの間は休めるみたいだし」
シッターの母は、不在時間が変動する。近頃の治安の悪さから、なるべく、次女が家で長い間1人にならないようにしたかった。そこに、大学を卒業して長女が戻るのは救いだった。だが、息子は困り果てて首を振る。
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サスペンスダークファンタジー
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