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言葉を失う3人に、アクセルは目のやり場に困ると、食事の手を止めてしまった。
「そのまま事情聴取をされたの?」
静かに切り出す母に、アクセルは小さく頷く。
「取り敢えずは……向こうも、寄せられる情報を精査しねぇとって。悪戯も多いから。必要なら、また連絡が来る」
寒気がする空気に溜め息を吐くソニアを前に、キャシーは首を傾げる。
「ところで、見た目がそんな感じだったんなら、ニュースで聞く容疑者じゃないでしょ。シベリアンハスキーを連れてたとか? 実際にシルバーの毛色もいるし、似てるところは多い」
キャシーは、弟の不安を埋める様に冷静に話すと、グラタンのブロッコリーを口に運ぶ。
「でも、コヨーテだって、ピンときたんでしょ? もしかして、その人、飼ってる事を奥さんに言えなくて帰れないとか」
ソニアの可愛い分析に、皆は小さく笑う。だが笑ったものの、アクセルは、ローストチキンを半端に齧って止まる。家族の食事の音と会話が遠ざかった。心地よい香りに満ちた食卓は、あの男が呟いた、肉というワードで歪んでいく。
独り、微妙な心境に佇む中、世間話が過ぎていくと、姉の話で持ちきりになった。中学に上がったばかりの妹には、まだ内容が難しく、姉は、上手い具合に内容を噛み砕いて話している。
その一方で、グレードが上がるにつれて歌詞の質が変わった様に、姉が関わる世界にも、耳を傾けてみようと思えた。
ペットに対する考え方や、そこに広がる歴史の話は深く、久しぶりに長い食事の時間になった。
買い手のニーズに応えるため、利益のため、子どもを生ませる繁殖施設が存在する。犬と猫が大きく取り上げられるが、鳥類や齧歯類、兎といった小動物も同じだった。商業目的で命を量産する施設から来る生体の殆どは、先天性や遺伝性の疾患、感染症に罹患している確率も高い事が分かっている。しかし、そこを考慮されずに、近親交配が繰り返されている実態があった。
売買の成立が速いほど、ケージが空くのも速い。それを早く埋めるのに効率がいいのは、ペットオークションだった。生まれたてで可愛い、健康的とされた動物を、物の様に段ボールに流し入れ、入札したその足で販売店に持ち帰られるといった事がある。
「それをする人達って、自分が子どもだった時も、そんな風に扱われてたのかしらね」
ソニアは言うと、スープに浸したコーンブレッドを口に入れる。キャシーは妹の考え方に指差すと、ワインを少量啜った。
「いい置き換えね。姿形は違えど、同じ命ある生き物よ。彼等は言葉を話さないけど、感情表現をちゃんとする。人がそれを感じ取るには、どうしても、見るからに分かりやすいサインからでしか難しいけど。でも、そこからどれだけ読み取ろうと思えるかよ」
キャシーは、家族に贈ったローストチキンを皿に取っていく。ついでに母が、空になった自分の皿を長女に託した。
「近頃は、譲渡会の案内もよく聞くわ。職場の人が、保護施設から2匹の犬の里親になったけど、仲が良かったみたいで、出産をしたんですって。できれば動物も、自然に想いを寄せて、自然に子どもを授かれるのが、身体のためにもいいでしょうね」
母は言いながら、長女から皿を受け取った。
疾患があったり、躾が困難であったり、性格に不満がある理由で見放される動物も多い。そうして行き着く先が、安全な施設であるならば幸運だが、場合によっては、その命は意図的に奪われてしまう。どこかでは、毒殺する庫内をドリームボックスなどと呼ぶ。そこに入る事に至った彼等に、人は、一体何をされたのだろうか。
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サスペンスダークファンタジー
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