表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*完結* COYOTE   作者: terra.
Last Quarter
56/184

6




「今年のハロウィンは、ドングリの隠し場所が分からなくなったリス? お兄ちゃん、それ本当に大丈夫?」



 ソニアが訝し気に兄を見、キャシーは目を瞬く。



「あんた動物に興味あった?」



「優しい子ども達だわ。母さん幸せ」




 テレビでは音楽番組が流れており、夕食の雰囲気をポップに仕上げていく。キャシーの帰宅が早かったお陰か、食卓には既に、アップルコブラーが置かれていた。シロップ漬けにしたリンゴを敷き詰めた器に、小麦粉とたっぷりのバターを合わせて散りばめたビスケット生地を乗せ、こんがりとした焼き色をつけたデザートもまた、アクセルの好物だ。




 母は、オーブンから取り出したマカロニポテトグラタンを置く。ブロッコリーと海老が、焼き目をつけたチーズとパン粉と絡み、生きた様に表面が沸々としていた。バスケットには、仄かに甘味を含んだ温かいコーンブレッドが盛られている。隣には、コンソメをベースにしたレンズ豆と野菜のスープが、ポットごと佇んでいた。レンズの様に平たい形をした豆は、赤や黒、緑と彩りも豊かだ。母とキャシーの席には、ワイングラスが凛と立っている。




 匂いで(ようや)く冷静さを取り戻すと、アクセルはまた、そっとドアの方を振り返った。そこから、横の窓に目を逸らしていく。レースカーテンがかかった向こうには、いつも通り街灯が光っているだけで、誰もいない。

 果たして本当にそうだろうかと、吸い寄せられる様に足が進み、カーテンを乱暴に開いた。だが、しんとした薄暗い道があるだけだった。




 遭遇したものの数々が、勝手に思い出されていく。恐ろしいほど気配がない外や、家の環境のギャップに血の気が引く。とにかく通報をせねばならないが、今、家族にそれを言うべきかどうか、足が竦む。この時、ジャケットのポケットの空洞感から、スマートフォンが無い事に絶句した。



「ほんとさ、何してんの、さっきから」



 背後の姉に飛び上がると、アクセルはカーテンを閉め、咄嗟に首を激しく振りながら空笑いする。



「あー、キャシー、その……携帯貸してくんねぇかな」



 何故だと、姉の顔が変形する。



「いや、その、連絡しねぇといけねぇんだよ。落とした、そう落としたから! 落としたから、父さんに連絡できねぇの!」



「サポートに連絡しなさいよ。父さんに言ったって鹿持ってくるだけ」



 すると、妹の声が割り込んだ。



「心配しなくても、もう母さんが連絡したわ」



 母は朝早く、父に狩猟の件で話しをしたと言う。



「間違えた、警察だ。届け出しておかねぇとマズいだろ? 電子マネーとかも入ってるし、曲のデータも入ってる。抜かれたら終わりだ」



「あんたらの曲はともかくね。さっさとしなさい」



「いやいやいや、有名になるの控えてる曲が流出したら、振り出しに戻っちまうだろ」



「どっからの自信よ。あんた、後でその事で話あるから」



 姉からスマートフォンを受け取ったアクセルは、瞼が引き剥がされた思いになる。姉の、おせっかいモードに入るキューは、顔のパーツを一気に寄せていった。



「勘弁してやんなさいよ、帰って来て早々に。アクセル、さっさと済ませなさい。キャシーは何だかんだ、相手をして欲しいの」



 姉の鋭い否定が飛んだ。色々と言い返したいところだが、アクセルはとにかく2階へ駆け上がる。ソニアは首を傾げ、兄の部屋に、兎の如く耳を突き立てた。



「別にここで電話すりゃいいのに、怪しいわ!」



「お兄ちゃんにも色々あるの。お皿に分けてあげて」



 母がスープポットを次女の近くに寄せた。ソニアは口を尖らせると、スープをそれぞれの皿に注ぎながら、時折、意識を兄の部屋に向けた。








※リスは、自分で隠した木の実の場所が分からなくなるのは普通だそうです。



-----------------------------------------


サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月下旬完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんにちは&お疲れ様です( ・∀・)っ旦 並べられる料理がとにかく美味しそうです! 自分、今日はバナナと牛乳しか口にしてないので尚更、食欲が沸いてきますo(≧∇≦)o アクセルだけでなく、アクセル家は…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ