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*完結* COYOTE   作者: terra.
Last Quarter
55/184

5




「リールがなくても平気なんて、スマートでいいね!」



 愛想笑いするアクセルに、コヨーテは背筋を伸ばした。そして、首だけで男とアクセルを忙しなく往復する。




 アクセルは、反応がない事などどうでもよかった。あたかも笑顔を装いながら目を閉じ、どうにか彼等を通過する。何も知らない、呑気な少年であるつもりで背を向けると、その気がないながらも手を振ったところ――



「……肉か」



 背筋に何かが這った。冷たい、肌にイボを立たせる鉛の様な声が(かたど)った、肉というワードに、心当たりしかない。

 男がこちらを向いたと同時に、アクセルは大きく引き下がると、右手に掴んだスマートフォンを出した。



「待て。騒ぎたくない。そっちも同じの筈だろ」



 絞り出した声は、どうにか冷静さを保てた。だが、肩は上下してしまう。



「事情は知らねぇけど、もう止めて、奥さんと子どものところに帰ってやれ。あんたは幸せじゃねぇか、そうだろ?」



 男は目を見張ると、(おもり)を引き摺る様な足取りで、アクセルに近付いていく。



「待て! それ以上来たら通報する!」



 言い終わりが先か、コヨーテが威嚇し、アクセルは顔を伏せる。その拍子にスマートフォンを落としたが、構わず逃走した。




 男は街灯を過ぎ、木陰に覆われていく。沸々と、熱いものが胸から喉に込み上げた。耳にした発言が眼を燃やし、瞳を震わせてくる。特定できない感情が波打つ中、足元のスマートフォンを拾うと、何度も嗅いだ。



『喰わねぇとは、くだらねぇ……』



 コヨーテは低く喉を震わせながら呟くと、両眼を銀に灯した。それを受ける様に、男の眼もまた、鋭い光を放った。








 どんなに走っても、足が重い。景色の流れが遅く、振り向けば男がいる様な気がしてならなかった。日頃身体を鍛えるためであっても、こんな走り方はしない。息切れしようが、家まで疾走した。汗が伝う不快さを拭う様に首を振り、とにかく自分を叩き上げる。




 家の郵便ポストを支えに曲がり、縋る様に玄関に飛び付く。手が強張ってドアノブが掴めず、焦りの声が漏れる。接近されている様な気配を乱暴に払っても、ただ宙を掻いてしまう。その弾みでドアが開くと、倒れかけながら帰宅した。




 ドアを叩きつけ、手早く鍵をかけていく。何から話せばいいのか、頭を整理するために、荒くなる息を無理矢理抑えていく。右半身をドアに預け、ノブを握ったまましゃがんだ。そこへ



「何してんの、あんた」



「だああーっ!?」



 悲鳴は目玉ごと屋根をも貫く勢いで、家族は耳を塞いだままアクセルを睨む。



「ちょっと、どういうつもり!?」



「キャシ……え!? 何でいんだよ、週末だろ!?」



 その週末が今日だろうと、午後に帰宅していた姉は表情だけで呆れかえる。




 アクセルは顔を拭うと、目の前で仁王立ちする姉から、キッチンのカウンターで目を細める母、リビングのソファーから覗く妹を見た。



「止めなさいよ、いい歳して騒々しい」



 姉がぼやきながらも差し出してくれた手を取り、アクセルはそっと立ち上がる。鼓動がうるさく、まだ状況が上手く纏まらない。









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サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月下旬完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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― 新着の感想 ―
こんにちは&お疲れ様です( ・∀・)っ旦 アクセルがコヨーテに肉扱いされて襲われるのでは、と冷や冷やしました(;´д`) なんか、話を読んでみると、まるで、コヨーテが主人で飼い主っぽい人が、飼い慣らさ…
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