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*完結* COYOTE   作者: terra.
Last Quarter
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4




 気持ちが軽くなりゆくまま、正面を向くのも束の間――街灯の下で、足が止まった。地面に吸いつき、脹脛(ふくらはぎ)から大腿、腰に電気が走る。瞼が下りなかった。下ろす訳にはいかず、反射的に、ジャケットの中の両手を結ぶ。スマートフォンを握る右手に、汗が滲んだ。




 犬にリードも付けずに散歩する人影が見える。次の街灯までの距離は、横に並ぶ住宅と同じ間隔で立てられており、少し遠かった。

 その人は、街灯の傍の楓の木から背中を剥がすと、こちらを向いた。ただの通行人であり、つい挨拶をして通り過ぎればいいだけだろう。しかし、身体は射止められた様に動かなかった。




 イヤホン越しに、鮮明な足音が響く。1歩、また1歩と、緩やかに迫る男性に、視線が上を向く。

 黒で統一された服には、土の汚れが少しばかり付着していた。ソールが厚い、固定感のあるマットな靴の先が、灯に差し掛かる。ブロックの歩道を重く踏みしめたのは、まだ朽ちる様子のない紐付きのブーツだ。

 余った生地が弛むパンツの裾から、視線を這わせるにつれ、トレンチコートの乾いた音がする。下に黒いシャツを着ているだけからして、軽い散歩で出てきた様に見える。




 アクセルの目は更に干上がる。男の隣に、影を切る様に鋭い銀の筋が現れると、狐に似た大きな耳が立ち上がった。



「コヨー……テ……?」



 アクセルは、反射的に目だけで周囲を探った。不運にも無人であり、隣は、元々家があったが空き地になっている。その前後の家も、道路を挟んだ反対側の歩道までも、距離があった。




 獣の唸り声が、低く道を這う。アクセルは(ようや)く足が解放され、少しずつ後ずさった。首が振られかけるのを、どうにか止める。口内は乾き、どう声を張ってよいかが分からない。




 街灯の下に露わになった男は、茶髪をした一般人だった。ただ、その凝視は、身体を貫き、背筋を痺れさせてくる。

 口を開けたコヨーテは、歯に舌を這わせると、唸り声に空気を震わせて身震いした。男はそれに細い息を立てて、コヨーテを静める。




 アクセルは、速過ぎる情報のスピンに、荒くなる呼吸を呑み続けた。目を疑う状況に汗が噴き出るが、冷静を装う。妙に刺激し、大怪我に繋がる事だけは避けたいと、暫し考え、やっと口を開いた。



「そんなに大きいのがいるんですね……珍しいな……どこ出身?」



 抑えようとも、声の震えは漏れていた。返答がないまま、アクセルは視線を足元に向け、表情はなるべく柔らかいまま、すれ違おうと道の端を進む。




 コヨーテは、過ぎ去ろうとするアクセルを見ると、男を見上げた。男は、その視線も余所に、アクセルを目だけで追う。




 アクセルは、震える目でどうにか情報を集めた。体高は60cm以内と把握しているが、見るからにそれ以上ある。もしやコヨーテではなく、狼ではないのか。疑心が湧くほど、あの、狼男というふざけた話題が過った。タスクのマスにチェックを入れていく様に、毛色がシルバーである点も、しっかり記憶した。









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サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月下旬完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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― 新着の感想 ―
こんにちは&お疲れさまです( ・∀・)っ旦 一気に身の毛もよだつ展開になりましたね! アクセルが帰路の最中、まさかの狼疑惑の生物と飼い主らしき人物との接触! アクセルは勇気を振り絞って、声をかけたのに…
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