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陽射しが眩しく、日没が近いなど嘘の様だ。だがアクセルは、美しい景色に浸るよりも、事件の話を聞いて父が気になった。
「帰ったら電話してみっかな。昨夜、宿題してたらうっかりしてた」
社会の教師は、金曜日は決まって多めに課題を出し、月曜日に必ずディスカッションをさせる。虫の居所が悪いと、考えに至った経緯を事細かに訊ねられるので面倒だった。昨夜はそこも見越して、長めに教科書を読み込んでいた。
宿題と聞いて、ブルースは大きく脱力する。ギターに打ち込み過ぎて、まだ予習を半分も済ませていなかった。近々エッセイの提出もあるため、あまりのんびりしておられず、溜め息を吐く。
はっきりと主張する事、形式のある確かな文章を書く事、教科書とは別に資料を読み比べて信憑性を高める事に努め、高得点を目指す必要がある。この骨折り作業も、最終グレードになった今、要領が掴めるようになった。
「この事件についても意見交換させられそうだぜ」
ブルースは、スマートフォンのニュース画面を開くと、テーブルに置いた。
「山で張り込むのか……前もやってたけど、ダメだったよな」
アクセルは、画面上に綴られた警察の動きに目を走らせる。
「被害者の持ち物には、指紋とか、そういう決定的なもんは残ってなかったみてぇだぜ。犯人が街とか住宅街を歩いてたり、アパート借りて出入りしてるとか、そういう所もまだ発見されてねぇってよ」
ブルースは画面をスクロールし、それが記されている箇所を示す。
「さすがに被害者が撮った映像は載ってねぇけど、山に入って張るってなったんなら、失踪者だっていう相当な決め手があった事になるよな」
「……それも言えるけど、目的は失踪者の確保ってよりか、危険人物の確保じゃないか」
ブルースは目を瞬き、暫し間を置くと、アクセルの考えに静かに納得する。つい、失踪者であるという目立った情報に引っ張られていたと、髪を搔きながら、胸の中で立ち止まった。
アクセルは頭を捻りながら続ける。
「考えてみりゃ、指名手配者が逃走してる事件は他にもある。今回の事件も、その前の同じ事件も、まだまだ分からねぇ事だらけだ。話題の失踪者や、その家族を煙幕にして、別の誰かが悪さしてるとしたら?」
「いざしょっぴいたら、全く別の事件の犯人だったってオチも、有り得るって事か」
アクセルは首を縦に振ると、昼間に聞いた道行く人の声を改めて振り返った。
「賢い分析ね、アクセル。将来は歌える探偵志望?」
ブルースの母が愛想よく現れると、気遣ってチョコチップクッキーを出した。
「冗談だろ!? 考え直せ! お前なしでバンドどうすんだよ!」
「そんな訳ないだろ。世界に行くって約束だ」
それを耳にしたブルースの母は、テラスの階段を下りながら笑う。息子の力強い意思表示を、母は、背を向けたまま適当にあしらう様だった。だが、傍に立てかけていたシャベルを掴んでは、振り返る。
「音楽の世界も楽じゃないよ。何においても、世界に立つなら、それこそ広い感性と視野がいる。悪目立ちする情報は、簡単に繋がって大きくなって、どんどんオリジナルの世界を作っていく。そして、その世界の王は、事実だと匂わせる酒で人を酔わせて誘き寄せる」
※とにかく予習と読む事が重要になる宿題スタイル。リーディングがとにかく重要と言っていたりもします。授業は意見交換やクイズ、ディスカッションが多いため、クラスは大抵少人数制になっているようです。教科書をしっかり読んでおかないと授業にならないというのが、宿題をしていないと露骨に出るみたいです。今の、特に日本の高校ではどうなのでしょうか。お子さんがおられる執筆者さんを見ている様子だと、自己主張と呼べる評価があったりと、新たな成績のつけ方もありそうですね。
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サスペンスダークファンタジー
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