表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*完結* COYOTE   作者: terra.
Waning Gibbous
50/184

16




「クレイジーだな……誰の発案だよ……」



 アクセルは、目の前に座ったレイデンの料理に顔を歪める。レイデンは、やかましいブルースに溜め息を吐いた。



「ブルース止めとけ。欲求不満だからって宇宙人と交信すんな。ハニーっぽいライバルがガッカリして、本人のこれまでの努力が消し飛んじまうだろうが」



 どうにか母との話を終えたブルースは、改めてレイデンの皿に目を剥いた。

 寿司ピザと題されたそれは、文字通り、カットされたピザの形になった寿司であり、耳の部分はマグロの海苔巻きになっていた。持ちやすいよう、三角に切った海苔に、薄い衣をつけて油で揚げ、土台にしている。トッピングは、馴染みのある照り焼きチキンやサーモン、アボカドが散らされ、マヨネーズで仕上げられていた。



「……大丈夫か」



 オーダーは早かったものの、最後にやって来たジェイソンは、ブルースの高速な日本語を聞いていた。全て理解できなくとも、雰囲気から昨日の事だろうと読み取れる。何せ、大きな声で自分の名を呼ばれていたのだから。




 心配ないというブルースの返事もそこそこに、やっと空気が落ち着いた。かと思いきや、ジェイソンがテーブルに置いたものに3人が立ち上がり、声を上げる。巨大なティーボーンステーキに、涎の栓が弾け飛んだ。



「止めとけダディ。そんなにスタミナつけたらハニーが砕ける」



 瞼が痙攣するレイデンの横で、後の2人は、香りと見た目に酔いながら首だけで激しく同意した。

 ジェイソンは、馬鹿なメンバーを白い目で見上げると、骨に沿って肉を切り離していく。本格的なステーキハウスではないので、手ごろな逸品だ。しかしボリューム相応の値段はするため、4人が頼んだものの中では最高級のものだ。

 ジェイソンは、重ねていたもう1枚の皿を滑り出すと、骨から切り離した半分の肉を移す。



「座れ」



 いつまでも棒立ちで見下ろされては鬱陶しい。否、頭から被ったままのタオルの影では、本当は笑みが止まらない。幽霊の様に座る3人を見届けると、皿に移したステーキを渡した。3人は黄色い悲鳴を上げると、忽ちハイエナになる。




 調子よく喰らい付いていたその時、アクセルは、首元のむず痒さに顔を上げた。辺りを見回しても、代わり映えのない店内の空気だけで何もない。外を見ても、いつもの週末の街並みだった。なのに、何かに(つつ)かれた様な気がした。








 人と車が行き交う合間を、大気を細く歪める何かが、音もなく走り抜ける。500メートルほど先の、だだっ広い芝生のある自然公園に並ぶ楓の木に、男は、背を預けていた。

 焦げ茶色の短髪をした彼の、黒いトレンチコートが靡く。端の遊具やスポーツで賑わう声も余所に、一点を凝視している。木陰が落ち、細身がより際立っていた。多くの木々や茂みがその姿を更に隠し、まるで自然の一部の様に、周囲にあっさりと見過ごされていく。




 1つ鼻をひくつかせては、独特な血生臭さが鼻腔を貫こうとした。薬品や硝煙、死んだ鹿の臭いが混ざり、こびり付いている。小動物の様な少年がこちらを振り返ったのを捉えると、肉を喰らう様子から、何から何まで見入った。




 人間の臭いに混ざる別の悪臭に、唸りが漏れる。誰の耳にも触れる事のない呟きの様なそれは、徐々に視界を揺らすと、鮮やかな秋色に染まる風景を、灰色に一変させた。行き交う人々や車の動きは、途端、重々しいスローモーションに変わった。




挿絵(By みてみん)









-----------------------------------------


サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月下旬完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
お疲れ様です( ・∀・)っ旦 ピザの形をしたお寿司! まさかの料理ですね! でも美味しそうです\(^o^)/ ジェイソンはその横でステーキを食べていて、現場はパーティー状態ですね! ここにきて、狩ま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ