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*完結* COYOTE   作者: terra.
Waning Gibbous
49/184

15




 昼食も忘れて打ち込んでおり、時刻はティータイムに近付いていた。放課後では賄いきれない練習も、満足いくところまで来ると、4人はスタジオを後にする。間の盛り上げ方や、トークをどうするかを話しながら、遅い腹ごしらえに向かった。この頃にはジェイソンも、すっかり汗をかいている。




 皆はカウンターに立つと、メニューボードを見上げた。



「あれ? ママ、寿司なんかあった?」



 マスターの奥さんに訊ねるブルースに、レイデンは目を瞬かせながらメニューを探る。しかし、そこには文字だけで実際の写真はない。どういう訳か、寿司だと記載されていながらピザという文字が含まれており、ブルースは、ありえないと言いた気な顔をした。




 マスターはまだ出勤しておらず、奥さんが、カウンターで緩やかな移動をしながら仕切っていた。週末は早い時間から学生客がおり、恥ずかしがり屋の娘も、ホールでの業務に血眼になっている。奥では息子が調理をしていた。既にジェイソンのオーダーが入り、何やら炭火の香ばしい匂いがしてくる。



「いいやつ頼んでるよ、また」



 アクセルは、タオルを被ったままのジェイソンを横目に呟く。そこへ、奥さんに不愛想にパンケーキを突き出された。歌い終わった後に染み渡るそれは、ハックルベリーとホイップで飾られた眩い品だ。それを嬉しそうに手にしてはテーブルに向かうアクセルに、ブルースはせせら笑う。



「相変わらずだな。飯じゃねぇだろ」



 言いながら彼は、ナッツバーガーを手に後を追った。100パーセントの低脂肪肉でできたパティに、マヨネーズで和えたクルミ、マカダミア、ヘーゼルナッツを野菜と挟んだ、食感が楽しめる逸品だ。




 席に着くや否や、ブルースは、皿のフライドポテトをアクセルに分ける。早くも大きなパンケーキを頬張るアクセルは、ソースの甘酸っぱさに顔を溶かしていた。子どもの様な友人をブルースは揶揄うと、できたての掴みづらいバーガーを口に運ぶ。

 そこへ、都合悪くスマートフォンが鳴った。手が塞がるどころかソースで汚れて動けず、彼はもごもごと、ポケットから抜いてスピーカーにしろとアクセルに指示した。見ると、母からだった。



「“何ぃー?”」



「“あんた昨夜お父さんに何送ったん!? えらい額言うてきたって、電話きてんけど!?”」



 画面が割れそうな声に、アクセルはナイフとフォークを落とした。

 ブルースは、あの件を思い出して顎を反らすと、口と手を慌てて拭う。



「“ごめん忘れとった。ちゃうねん、別にもうええねん”」



「“ええことあらへん。何に使(つこ)たんか言い”」



「“ちゃうちゃうちゃうちゃう、何も使(つこ)てへんし、使う予定もないねん。小遣いで済んだから……嘘、奢ってもらっただけ”」



「“はあ!? あんた本間っ! またジェイソンか!? ええ加減にしときや! 友達は金蔓ちゃうで!”」



 母の激しい叱責を片耳に、不意に飛び込んだレイデンの食事に、ブルースは堪らず声を上げる。



「“ちょ待って、そんなん寿司ちゃう!”」



 日本語の叫びが更に周囲の目を集めた。隣のアクセルも、すぐ傍のテーブルの客も、レイデンの皿に笑いが止まらない。電話口の母は、ますます置いてけぼりになっていった。









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サスペンスダークファンタジー


COYOTE


2025年8月下旬完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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― 新着の感想 ―
お疲れ様です( ・∀・)っ旦 マスターが留守の間は奥さんが取り仕切るんですね! まさか息子さんまで居たとは驚きです! 息子さんは料理で娘さんは接客と言ったところでしょうか 。 どの食べ物も美味しそう…
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