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「ペイトンと連絡取ってねぇの? 敵を知る必要だって、あるんじゃないのか」
アクセルがサングラス越しに訊ねると、ブルースの手が止まり、音の伸びが宙を彷徨う。
「ライバルの連絡先なんかいるか。次会うのは世界のステージだ」
それが約束で互いに手を取り、違う道を進んだ。
自分が彼女の目標だった事を分かっておらず、蛻の殻になった。彼女が編入しようとしている事すら、気付いていなかった。初めて対面して数日の間、持ち前の演奏に同じ熱を感じていながら、何も。
彼女が別の道を選ぶと知った途端、心地よく感じていた何かが崩れた。バンドメンバーとの方向性が違い、熱心にプロを目指そうとする彼女の姿勢は、他からすれば煙たいだけだった。彼女に吹きつける風がどんなものかもまた、自分は一切見えていなかった。
行き先を失ったピックに、やっと焦点が合う。正直、余計な会話だった。本当は、これから聞かされるアクセルの歌詞に胸が騒いでいる。彼の、日頃の会話とは違う直球の様な歌い方は、優しくも強くもあった。
鼻で息を細く吐いてはピックを握り、揺さぶられまいと首を鳴らす。今の活動は、まだまだ遊びに見られがちだ。特に家族からはそうであり、認めてもらわねばならない。そして周りを、彼女を振り向かせるためにも、確実に仕事にする。
「やるぞ」
顔色を変えたブルースの一部始終を、ドラム席のジェイソンは、じっと見守っていた。
イベントにはクラスメートも集まる予定だ。学校や自分達にも馴染んだロックサウンドの1曲は、バンドの始まりを飾るものでもある。そして未公開の2曲は、観客が歌って踊れたら最高だろうと話していた。
選曲の1つにカバー曲もある。カーチェイス映画の主題歌であるそれは、映画の撮影中に亡くなった俳優に捧げられたものだ。今でも世界に流れるそれを、自分達のサウンドでアレンジして仕上げた。
苦戦していたバラードは、きっと意外性を生む。客がどんな顔をするのか、今から想像が膨らむばかりだった。
基本的に車の様に走り回るメロディーが多い。それを代表する3曲を集中的に見直しながら、通しを重ねた。アクセルは途中でキーボードを出すと、コーラスであるブルースとレイデンの声出しを仕切っていく。
それぞれの発声を修正している間、ジェイソンは、イヤホンで音源を聴きながらヒットを組み立てていった。
パート練習で質を整えたところで、更に2回の通しを終えた。詰め込み過ぎたあまり、3人はソファーや椅子に身を投げてしまう。
「走り込みと筋トレだな、こりゃ……」
ブルースの反省に、後の2人が突っ伏したまま納得する。片やジェイソンは、涼しい顔をして優雅に腰掛けていた。
♪See You Again / Wiz Khalifa featuring Charlie Puth
2013年3月にWiz Khalifaが出したシングルで、Charlie Puthという方と一緒に歌っています。映画「ワイルド・スピード SKY MISSION」の主題歌であり、撮影中の事故で亡くなった俳優ポール・ウォーカーさんに捧げられた曲です。沢山のアーティストがカバーをし、世界中で歌われているバラードです。
♪See You Again / Boyce Avenue feat. Bea Miller
同曲ですが、アクセル達がカバーする場合に参考にした方です。Boyce Avenueというバンドのボーカリストは、レイデンの歌声をイメージしています。3人でパート分けして歌っているという設定にしています。実際のこの曲では、男女ボーカル2名しか歌っていませんが…
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