12
♪WHAT'S MY NAME? / MIYAVI
YouTube 「MIYAVI - WHAT'S MY NAME?」で、聴いて頂けます。
ブルースは、摘まんでいたピックを咥え、手をほぐすと、曲のギターの音だけを下げる。そのまま、自分の演奏を滑り込ませた。
それは、弦を弾くと言えるものなのか。ピアノの速弾きを彷彿とさせる手付きは、雑にも見える。しかし、明確な音が宙を飛び交うと、繋ぎ合わさり、確実な1曲に仕立て上げられていく。
その日本人アーティストの曲には、そこまで大きな変化はない。基本的に単調なリズムの中で聞こえる歌は、上手い英語の間に日本語のシャウトが入るところに、気を惹かれる。
ブルースは動かず、大人しい演奏を続ける。だがギターは、まるで踊り狂う様な音を、3分半に渡って休みなしで響かせる。
弦の上を高速にスライドする左手は、音階の区切り目を視覚的に表すためのフレットなど関係ない。不意にジャンプする手は、迷いなく目的の音の位置に着地し、急な音の変化はブレを知らない。
そのマシンガンの様な演奏に、端の2人は口を閉じ忘れていた。まだ本家に辿り着けていないのが、途中の演奏ミスで分かる。しかし、前回よりも上達しているスラップ奏法は、ブルースの腕に浸透し始めていた。無理して速く走るマラソンの様で、来たばかりなのに、彼の顔には既に汗が光っている。
細かい指捌きは、終わりが近い合図だ。愛機は好き勝手にハジケながら、何倍も酒を含み、ラスト1瓶を豪快に飲み干す様に、長い音を響かせて最後を飾りにかかる。と、音が段階的に落ちていくかと思えば、また上がるを繰り返し、目まぐるしい音の螺旋で視界をスピンさせた。
歯止めが利かないと、手の動きで悲鳴を上げた時、ギターは全身に酔いが回ったのか――弦を引っ叩かれ、曲をカットアウトした。
ブルースは大きく首を落とすと、肩で息をしながら笑う。
いつの間にかジェイソンが、廊下から窓を介して演奏を見ていた。彼は入室すると、端で口を開けたままの2人と共に、短い称賛の声と拍手を送る。
いつもメンバーに称えられながらも、ブルースは小さな悔いを滲ませており、笑顔の傍らでは、今回の演奏を振り返っていた。
「ハニーもさすがにコピーできねぇだろう」
レイデンの言葉に、ブルースは眉を上げる。言葉を選ぶ間を、ピックを持ち直す動作で誤魔化すと、皆に背を向け、バラードの頭を緩やかに鳴らした。
「させるか。どんな曲も、いかにエモーショナルに弾けるかどうか。躍動感あるエアーで相手を酔わせられて、やっと1歩行けるかの世界だぞ」
幼少期より叩き込まれた炎炎たる熱意は、冷め止む事などない。
「あと勘違いすんな。俺には、愛妻だけだぜ」
ブルースは言いながら、左手で僅かにギターを持ち上げると、肩越しに悪戯な笑みを見せた。
レイデンは眉を寄せ、のろのろと首を横に振る。
「……止めとけ、いくら狭いモンが好きだからって、ジャックの穴はキツ過ぎだろ」
ブルースは颯爽と振り返ると、ギターに挿し込んでいたケーブルを抜き、先端を光らせ、再び挿し直す。
「俺のは細くて柔軟性があんだよ。“ほっとけアホ”」
そして体ごと視線を逸らした。練習として弾くバラードだというのに、何故かそれに縋りついてしまう様で、きつく目を閉じた。
-----------------------------------------
サスペンスダークファンタジー
COYOTE
2025年8月下旬完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
インスタサブアカウントでは
短編限定の「インスタ小説」も実施中
その他作品も含め
気が向きましたら是非




