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「でけぇ事は言えねぇが、俺はまだ、被害者の野郎共よりはマシだ。ただ、早ぇことダディみてぇな目を持ってたんなら、違ったろうよ」
レイデンは軽快にライブハウスのドアを押す。それに続いてノブを掴んだアクセルは、そこに、別の重みを受けた様な感じがした。
「お前は、いい目を持ってるよ。気にしなくても、お前の勘は鋭いし、ちゃんと働いてる」
レイデンは、肩越しにアクセルを振り返ると、怪しく笑う。
「ほう……いい事でもあったか、ミスター」
「別に。こういう事は言える時に言ておくべきだ」
「ああそうだろうよ。とっとと例のもん、レイラに熱唱しやがれ」
アクセルは不意に瞼を閉じ、固くなる。遠ざかるレイデンの揶揄いが、瞼を震わせてきた。見せびらかしている訳ではないのに、何故、こうも見抜かれてしまうのか。溜め息と同時に、ジェイソンからの返事が鳴った。依頼バンドが指定した場所で仕事をしていたらしく、合流にはもう少しかかるようだ。
閉まりかけたドアが再び開くと、ブルースがアクセルの肩を叩き、そのままカウンターに駆け込む。マスターの代わりに奥さんが、大きな身体を揺らしながら出迎えた。ブルースは、イベント参加に通されたバンド名を、慌てて訊ねるのだった。
3人はスタジオに入ると、早速支度をする。スピーカーとドラム、使われていないキーボードに囲まれるそこに、落ち着いた電球色の照明が、壁の大型ミラーに反射していた。
「おかしな名前を書かれてなくてよかったぜ」
「世帯主を書く。それが当たり前ぇだろ」
ブルースとレイデンのやり取りに、アクセルも安堵する。だが冷静に考えてみると、バンド名がジェイソンの名前なのにも眉が歪むところだ。
誰々のバンドだ、と呼ばれる日々だった。この場所でライブをするならば、名前はそろそろ考えた方がいいだろうが、それよりも曲を増やす事ばかりに集中していた。
ブルースは、週明けにでも、自分達が学校で何と呼ばれているのかを聞いてみると言いながら、スピーカーから出るギターの音を調節する。首のチェーンを引き出すと、先端のプラスチックカバーを開き、ロゴが擦り切れた黒いピックを出した。ギターを弾かない時でも、肌身離さず下げている。
練習曲を焼いたCDが再生されるまでの間、適当にギターを唸らせ、チューニングの微調整をしていく。車でも流れていた曲が徐々に聞こえてくると、アクセルは振り返った。
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サスペンスダークファンタジー
COYOTE
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